楽天奇跡の逆襲を浅村栄斗が演出する【後半戦を熱くするキーマンたち】

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2020年09月25日 07:12  ベースボールキング

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ベースボールキング

楽天・浅村栄斗
◆ 後半戦を熱くするキーマンたち〜最終回:浅村栄斗(楽天)

 「明日から浅村様と呼ぼうかな?」

 お立ち台に揃って立った涌井秀章投手の言葉だ。23日に本拠地・楽天生命パークで行われたロッテ戦。一度は同点に追いつかれたが、7回に主砲・浅村栄斗の決勝28号で涌井に9勝目が転がり込む。「神様、仏様、浅村様」の思いはファンも同じだろう。

 まさに浅村のバットが神懸っている。2位を行くロッテとの直接対決を前にゲーム差は「4」。残り試合数を考えてもここで負け越すようなら、クライマックスシリーズ進出はほぼ絶望視される剣が峰に立たされていた。

 初戦(22日)は12対4の大勝。浅村は何と3本塁打を含む4安打7打点と離れ業をやってのけた。バットマンレースでも中田翔選手(日本ハム)を捉えて本塁打、打点の2部門でトップに返り咲き、チームには楽天として記念すべき1000勝をもたらした。

 続く1001勝目も浅村の一発で決めてロッテに肉薄。それどころかソフトバンクの快進撃に陰りが見えて、再び三強による混パの可能性まで見えて来た。


◆ チームの浮沈は背番号3次第

 「自分が打たないとこのチームは勝てない」と公言する。

 それは浅村の月間打撃に表れている。6月の月間打率.400、4本塁打。7月打率.258、9本塁打。8月打率.274、5本塁打。9月は20試合消化時点(23日現在以下同じ)で打率.320、10本塁打だ。

 チームは開幕ダッシュに成功して一時は首位に躍り出た時期もある。しかし、主砲のバットが湿りだし、投手陣も打ち込まれ始めて下降カーブをたどる。それが浅村の復調と共に再びの上昇気流だ。

 楽天というチームはまだ発展途上。首脳陣はヤクルトと西武の“連立内閣”で、主力選手は西武とロッテの“連合軍”と揶揄される。それでも今季は茂木栄五郎選手、島内宏明選手、田中和基選手にルーキーの小深田大翔選手らの生え抜き組も存在感を発揮しだした。

 だが、打線としてみると、いずれも小粒な脇役でFA移籍の鈴木大地選手を加えても破壊力という点では見劣りする。昨年33ホーマーの大砲、ジャバリ・ブラッシュ選手を欠く現状では、本塁打も打点も浅村に依存する割合は高い。まさに浅村の打棒がチームの浮沈に直結している。


◆ 天性と努力のリーダー

 代名詞は豪快なフルスイング。プロ人生を歩んだライオンズ打線のDNAを受け継いでいる。だが、今季の28本塁打のうち中堅より右に18本が勝負強さを証明している。

 2年連続本塁打王の山川穂高選手(西武)は今季、不振に苦しんでいる。開幕前には打率向上を狙って右方向にも一発の打てる打法改造に挑んだが、目下のところ迷路にはまり込んだ状態だ。これに対して、浅村の場合は西武時代から引っ張るだけでなく、右方向への長打も兼ね備えていた。

 「自分が今あるのはあの人のおかげ」と師事する中島宏之選手(現巨人)も右中間への打球に定評がある。天性と努力があって今の浅村がある。

 西武時代は二度の打点王に輝いているが、中村剛也選手や秋山翔吾選手(現レッズ)らの陰に隠れた存在。無口でリーダーシップを発揮するタイプではなかった。

 だが、立場と環境は人を変える。いまでは今春の自主トレで「弟子入り」した内田靖人選手をはじめ浅村を慕う若手は多い。まさにチームの生命線まで担うリーダーである。


 「凡事徹底」を合言葉にスタートした三木肇新監督の楽天。当たり前のことを当たり前にこなすミスがなく隙のない野球を目指しているが、これはあくまでベース。特に終盤の優勝争いになれば毎試合が「有事」であり、勝ち抜くには爆発的なヒーローの出現が不可欠だ。

 星野仙一政権下、2013年の優勝時には24勝0敗の田中将大投手(現ヤンキース)がいた。3位からの逆転を狙う今季は浅村のバットが命運を握っていることは間違いない。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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