がん闘病中の赤い腫れ「どうしてこんな症状が出ているのか?」という問いに主治医は

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2020年10月02日 07:05  AERA dot.

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写真大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
 がんで闘病中の人は些細な体の変化にも不安を感じるものです。「どうしてこんな症状が出ているのか?」という問いに医師はどう対応するのか。『心にしみる皮膚の話』の著者で、京都大学医学部特定准教授の大塚篤司医師が、がん患者とのやりとりをもとに語ります。

*   *  *
 私は皮膚科医で皮膚がんを専門としています。皮膚にできものができたり、どこか腫れてきたりすると患者さんは心配になって相談にこられます。皮膚がんの診断がすでについている患者さんは、治療中に新しいできものができると転移や再発が心配になります。

 自分の体で何が起きているのか? どうしてこんな症状が出ているのか?

 不安は想像を悪いほうへ悪いほうへと働かせます。

 先日も足にできたメラノーマ(悪性黒色腫。ほくろのがんとも呼ばれます)を治療中の患者さんが皮膚の症状について心配そうに聞いてきました。

 メラノーマは内臓に転移することの多い皮膚がんです。また、皮膚にも転移します。もともとあるがんのことを原発巣(げんぱつそう)と呼びますが、その周辺やリンパの流れに沿って皮膚表面に転移が出てくることがあります。専門的にはこれらをイントランジット転移(リンパの流れに沿って「移動途中」の転移)といいます。

 その患者さんは原発巣を手術で切除してから何年か経過し、皮膚に転移が多数できてしまったためにオプジーボによるがん免疫療法を行っていました。

「がんのまわりが赤く腫れてきました」

 皮膚の病気は変化が見えるため、患者さんも比較的早い段階で気がつきます。

「これは悪いものなのでしょうか?」
「生活の中でなにかいけなかったことがあるのでしょうか?」

 私は矢継ぎ早にいくつも質問を受けました。

 専門性の高い医学の領域では残念ながらネットに答えが載っていることはほとんどありません。実際にほしい医学情報を見つけたとしても、それが正しいのか、また自分に当てはまるかまではわからないと思います。

 患者さんの質問に私はこう答えました。

「この赤くなっている部分は、おそらく、がんと戦っているサインだと思います」

 がん免疫療法は、2018年にノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑教授が発見したPD−1分子に対するオプジーボが中心に使われています。この薬は、がんを攻撃するキラーT細胞の効果を高める作用があります。PD−1分子というのはがん免疫をブレーキする働きがあって、それを阻害するのがオプジーボです。ブレーキを外してキラーT細胞ががんを攻撃するアクセルを踏む役割を担います。

 実際、オプジーボを使っている患者さんのがん組織をとって顕微鏡でのぞいてみると、がん細胞の周辺でキラーT細胞が増加していることがあります。ここではキラーT細胞ががんを攻撃し炎症が起きている、いわば戦場です。

 皮膚の中のがんとキラーT細胞の戦いは、オプジーボの効果によって激戦となり、結果として皮膚表面では赤みとなってあらわれることがあります。メラノーマの周辺が赤くなっている状態は、キラーT細胞が一生懸命に戦っているサインでもあるのです。

 こうやって体の中で起きていることを患者さんに説明すると、患者さんは「得体のしれない皮膚の赤み」から想像できる組織内変化へとぐっと変化します。

「免疫もがんばっているんですね。この調子でがんに勝ってほしいです」

 患者さんも安心したようで、その後、皮膚の赤みを毎朝見ては自分の免疫を応援していたようでした。

 私たち医師は病気のメカニズム、そして薬の作用機序も勉強します。これら医学知識は病気を治すときに必要です。それに加え、苦しい闘病中にすこしでも安心してもらうための道具としても医学知識は活用できるのだと、患者さんから学ばせていただいた出来事でした

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