『美少女戦士セーラームーン』大人になってからわかる意味とは? 時代を超えて伝わるメッセージを読み解く

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2020年10月03日 08:01  リアルサウンド

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 2014年に新作アニメが配信、2021年1月にその続編となる劇場版が公開される『美少女戦士セーラームーン』。その人気は衰え知らずであり、91年の連載開始から現在まで幅広い世代に支持されている。当時の熱狂を振り返る。


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■「なかよし」200万部超の立役者


 『美少女戦士セーラームーン』は、アニメ制作と同時進行で原作の連載が始まった異例の作品だ。きっかけはパイロット版となった読み切り『コードネームはセーラーV』が、東映動画(現・東映アニメーション)の目に留まったことにある。


 東映動画は、過去にキューティーハニーや東映魔女っ子シリーズを手掛けた会社だ。当初は『キャンディ・キャンディ』のリメイクを企画していたが、放送権を持つテレビ朝日から難色を示され、代替として『セーラーV』にスポットが当たることとなった。


 また作者の武内直子も、東映のスーパー戦隊シリーズのファンであったという。その東映からアニメ化の声が掛かった事は、作者にとって願ったり叶ったりであったに違いない。


 『セーラーV』の活劇をどのように描くのか、テレ朝・東映の製作サイドは、玩具販売のバンダイの意見を取り入れ、戦隊シリーズや『聖闘士星矢』で培った「5人でチームを組んで戦う」集団戦方式を採用する(内太陽系4人に外太陽系の木星が加わっているのはそのためである)。


 かくして講談社、東映、バンダイの3社が手を組んだ一大新規プロジェクトの幕が切って落とされた。ギリシャ神話モチーフからより馴染みのある天体モチーフへと変更され、主人公が愛野美奈子から月野うさぎに交代し5人制となった現在の『セーラームーン』が、原作が1991年12月に、アニメ版が翌年3月にスタートした。


 その後の躍進は周知の通りだ。前番組の『きんぎょ注意報!』が好評だったこと事もあり、視聴率は堅調に推移。玩具の売上も変身アイテムであるネイルグロスは振るわなかったものの、幻の銀水晶を巡るストーリーを経て覚醒したうさぎの専用武器・ムーンスティックが42万個のセールスを記録し完売、社会現象となる。


 これを受けて続編の制作も決定。人気がピークに達した『セーラームーンR』放送時の93年にはシリーズ最高視聴率16.3%を記録、ほかの4戦士にも配られたスターパワースティックの売上も好調で、並行する原作の方では武内と同じ年にデビューした『きん注』の猫部ねこ、『ミラクル☆ガールズ』の秋元奈美とともに「なかよし」の発行部数を205万部に押し上げ、大きく貢献した。


 アニメ終了までの玩具商品の売上は年間平均200億円で、これは後年においてテレ朝の視聴率三冠の一役を担ったプリキュアシリーズのおよそ2倍の数字に当たる。まさにムーンライト伝説である。


■人気の秘訣は「ハマる」世界観


 『美少女戦士セーラームーン』を語る上で欠かせないのが、その世界観だ。企画段階ではギリシャ神話の原初神であるカイオス、ニュクス、ガイアがセーラーV(ヴィーナス)の仲間になる予定だったが、ヴィーナスを金星に割り当て、水星、火星、木星と同じ守護戦士に再編成、これに伴い月の女王を主人公に変更し、月にまつわる過去世をストーリーの軸に据えた。この判断が大当たりする。


 アニメ放送当時、80年代の占いブームによって天体配置から運命を見る西洋占星術が日本で広まっていた。『聖闘士星矢』の黄道十二宮編をヒットさせていた東映とバンダイは、女性視聴者が表面上の物語だけでなくキャラクターの背景にある神話や説話まで好むことをすでに掴んでいたと見られる。


 67年生まれの武内もこの世代のご多分に漏れず占星術に造詣があり、『セーラームーン』には天体と占星術を元ネタとする設定が盛り込まれた。


・月野うさぎが蟹座生まれ(月の支配宮が巨蟹宮)
・ヴィーナスが月の女王の影武者(金星は月と同様に満ち欠けを行う)
・地球の王が前世からの恋人(西洋占星術では魂に終わりがないとされる)


 など、非常に細かなところまで反映されている。


 こうした設定の細やかさが作品をより神秘的に見せ、子供も大人も「ハマる」世界観を生んだ。多数の記号の集合的な世界観で知られる『新世紀エヴァンゲリオン』の監督・庵野秀明がこの作品の制作の参考にしたというのだから、ミラクル・ロマンスは伊達じゃない。『セーラームーン』の2代目監督・幾原邦彦も東映動画を退社後、「セカイ系」と呼ばれる『少女革命ウテナ』の世界観を作り上げた。


 『きんぎょ注意報!』に続けて『セーラームーン』に入った女子小学生は特に、前番組との落差に驚いただろう。コメディ調の演出を『きん注』から受け継ぎながらも、核となるのはバトルシーンと大人の恋愛である。


 ダーク・キングダムとの戦闘の末にセーラー4戦士が非業の死を遂げる回では、ショックのあまりに寝込んだ子供が後を絶たず、テレビ朝日に苦情が殺到した。もちろんこれも「魂に終わりがない」「転生して何度も巡り合う」という過去世の設定を織り込んだゆえの確信犯的な流れであったが、流石に子供には伝わらなかったようだ。


 次回作『セーラームーンR』では、銀水晶の力で生まれ変わったセーラー戦士たちが、前作の記憶を取り戻し再集結している。魂の永遠はセーラームーンの最終形態・エターナルセーラームーンにも掛かっており、それが来年公開の劇場版『Eternal』のタイトルの意味にも繋がっている。


 子供の頃にハマった後、大人になってからちゃんと意味がわかるというのが、『セーラームーン』の魅力である。2003年には原作が新装版として、2013年には完全版に転生している。この機に再び巡り合うのもいいだろう。


■井上郁
言語学者、フリーライター。英文学・言語学・メディア記号論を専攻。マンガ・アニメ・ゲームを総合文化研究の俎上に載せ、記号論の観点から考察しています。


このニュースに関するつぶやき

  • 前番組がきんぎょ注意報だったのがよかったと思う。ギャグで普段少女漫画に興味がない人も見てたしその流れでセーラームーンを見た人も多いと思う。
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