マツコ・デラックスの引退説に考える、テレビ視聴者に“毒舌”が通用しなくなった現況

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2020年10月16日 00:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。

<今回の有名人>
「今、わからん。女子アナをどう扱っていいか」マツコ・デラックス
『マツコ&有吉のかりそめ天国』(10月9日、テレビ朝日系)

 マツコ・デラックスが『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)を静かに“卒業”したことで、突如“引退説”が浮上してきている。

 10年間レギュラー出演をしていて、司会の明石家さんまとのやりとりを楽しみにしていた視聴者も多いことだろう。マツコクラスの大物が番組を“卒業”するとなると、セレモニー的な企画が組まれそうなものだが、実際は番組の最後に「マツコさんは今日の放送でホンマでっか!?を卒業します。およそ10年間本当にありがとうございました」というアナウンスがあったのみ。

 この顛末について、「女性自身」10月13日号(光文社)は、「マツコ、『ホンマでっか』卒業の真相 引退前倒しで保護猫支援か」と報じた。また10月27日号の同誌では「マツコ引退説に事務所社長答えた『今のままずっとは難しい』」という記事が掲載され、所属事務所の社長が「彼女もまもなく50歳になります。いまのキャラのままで、これからずっと将来も、というのはやっぱり難しいです。これからどうするのかを自分でも考えているところですよ」と、マツコが変革の時を迎えていることを認めるコメントしていた。

 さらに、「週刊女性」(主婦と生活社)の直撃を受けたマツコ・デラックス自身が、「みなさんにとっては突然なのかもしれないけれど。アタシも次の人生を考えるときに、このままだと身動きがとれないからね。だから降りられるものは降りようとしていますよ。なんかしがみつくのも嫌だし、もっと若い人に頑張ってもらわないといけないわけだから」と心境を吐露している。

 このタイミングでの仕事の縮小には驚くが、マツコはブレーク直後から、いろいろな番組でずっと芸能界に居続けるつもりはないと発言しており、今年1月の『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)でも、「あと10年くらい細々と頑張って国外に脱出しようと思っているの」と話していただけに、前から思っていたことを実行しつつあるというほうが正しいのではないか。

 気になるのが、所属事務所社長の「いまのキャラのままで、これからずっと将来も、というのはやっぱり難しいです。これからどうするのかを自分でも考えているところですよ」という言葉である。私には順風満帆に見えるマツコの芸能活動だが、マツコ本人とマツコの育ての親は、危機感のようなものを感じているということだろう。

 それが何かが語られることはないので推測するしかないが、確かに今の時代はマツコのような毒舌タレントには、やりにくい部分はあるように思うのだ。

 10月9日放送の『マツコ&有吉のかりそめ天国』(テレビ朝日系)で、マツコと有吉弘行が、フリーアナウンサー・田中みな実とテレビ朝日アナウンサー・弘中綾香について話していた。

 南海キャンディーズ・山里亮太、田中、弘中両アナがMCを務める新番組『あざとくて何が悪いの?』(同)が同10日から始まり、第1回のゲストが有吉だった。収録時、弘中アナが「1回目のゲストが有吉さん、怖い」と怯えていたので、有吉は「そんなこと言わないでよ」と言いつつ、「『かりそめ天国』のオフのとき、お前の悪口言ってるけどな」と付け加えた。有吉はそのときのことを振り返り、「自分の名前だけで言えばよかったんだけど、マツコさんの名前も出しちゃった」と、自分だけでなく、マツコも弘中アナの悪口を言っているかのように話してしまったと謝罪していた。

 私は、マツコや有吉と同世代だが、我々が若い頃のテレビでは、番組の企画で、タレントが大物や旬の芸能人のことを「嫌い」と言うことは結構あった。特に毒舌をウリにする芸人やタレントは、視聴者の興味を引く人物について、カメラの前で悪く言うのが「お仕事」なわけだし(無名のタレントの名前を挙げても、面白さがない)、そもそも、カメラの前でそういう話をしている時点で、本当に嫌いということはないだろう。しかし、それは世慣れた中年の論理で、今のテレビで同じことをすると、現代の若者は傷つきやすいのか、「有吉やマツコが女子アナをいじめている」「パワハラだ!」と解釈することもあるのではないだろうか。それがSNSで拡散されると、番組を見ていない人もノリで加担して、炎上しないとも限らない。

 マツコは「田中みな実の時ってプロレスができたじゃん、いい時代だったよ」と回想する。「私はプロレスしがいのある女が出てきたなくらいに思って、ちょっとやったわけよ。そしたら、ただの悪口になるっていう」と予期せぬ結果を生んだと明かし、有吉も「そうなんだよね、ひどい、ひどいと言われちゃうんだよね」「僕も、ほとんどそういうのには関わらないようにしている」と同調していた。

 田中アナとマツコのプロレスと言えば、『さんまのホントの恋のかま騒ぎ』(TBS系)という番組が思い出される。さんまが司会をし、テーマに沿っておネエタレントたちが恋愛にまつわるトークを展開する番組で、ゲストとして登場した田中アナは、「さんまさんのことが結婚したいくらい好き」とぶりっ子キャラを全開で挑んでいた。マツコが、隣に座るミッツ・マングローブに「(田中のことが)本当に嫌いなのよ」とつぶやいたことを聞いた双子のおネエタレント・広海が「本当に嫌いって言ってる」と暴露。田中が「マツコさんに嫌われるようなことをしてしまって、申し訳ありません」と泣き出した。が、実は手の甲で隠された田中の口元は笑っていて、つまり泣いたのは一瞬だったという壮大なオチが待っていた。しかし「仕事として」言い合いをしても、「泣かせた」となると、視聴者のイメージ的には、マツコが断然悪者で、結果的に損をしたと言えるのではないだろうか。

 マツコは「今、わからん。女子アナをどう扱っていいか」と、『かりそめ天国』で話していたが、扱いがわからなければ当たり障りなく接するしかなく、けれど、それではマツコの個性が生きない。そして、今後も傷つきやすい視聴者が増えることが予想されるとなると、マツコのやりにくい状態は続くと思われる。

 フェミニズムの台頭も、毒舌タレントには向かい風になるのかもしれない。世間に「性差別を許さない」という空気が生まれ、それ自体は望ましいことだが、「性差別とは何か」を誰もが明言できるほど、フェミニズムは根付いていないと私は感じている。そういう時代に、女子アナや女性タレントに毒舌を吐くと、発言内容を精査せず「女性を悪く言うことは、女性差別だ」と感じる人も出てくるだろう。

 時代の変化を止めることはできないが、マツコが見られなくなるのはつまらない。今のようなスタイルでなくても、マツコにとってベストな形で、コアなファン向けに活動してほしいと思うのは私だけではないはずだ。

このニュースに関するつぶやき

  • 根底に愛の無い毒舌は単なる罵倒に過ぎないわけだが、そうした似非毒舌が増えすぎた事も原因の一つだろう。
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