aiko、高橋優、クリープハイプ……日本語詞の魅力引き出すアーティストたち 新譜5作をピックアップ

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2020年10月20日 12:02  リアルサウンド

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aiko『ハニーメモリー』(初回限定仕様盤)

 移り気な男性の心情を心地よいグルーヴとともに描いたaikoの40作目のシングル『ハニーメモリー』、喜怒哀楽をこれまで以上に生々しく描いた高橋優のニューアルバム『PERSONALITY』。日本語詞の魅力を引き出すアーティストの作品を紹介します!


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⚫︎aiko『ハニーメモリー』
 息を吸い込む音が聴こえた次の瞬間、〈思いっきり泣いて泣いても未練は流れ落ちない〉というフレーズが耳に届く。美しくも切ないピアノの和音とともに響く次のライン〈君がいないと味がしないんだ〉によって楽曲は躍動しはじめ、聴き手の身体と心をグッと引き寄せる。aikoの40thシングルの表題曲「ハニーメモリー」は、日本語の響きを活かした彼女のソングライティングの特徴が強く押し出された楽曲だ。8分の6拍子のリズム、軽やかにステップを踏むように駆け上がるメロディのバランスも絶妙だが、特筆すべきはやはりフロウの素晴らしさ。歌声と言葉が共鳴し、“天然のブルーノート・スケール”と呼ぶべき音響へとつなげるセンスと技術は、「ハニーメモリー」においてもしっかりと活かされている。ずっと同じなのにいつも新しいaikoのポップスの秘密が感じられるような、問答無用の名曲だ。


⚫︎高橋優『PERSONALITY』
 〈笑われながら 悟らないまま 死ぬまで転がり続けよう FUCK YOU〉と叫ぶ「八卦良」、部屋のなかで展開される恋愛のシリアスな場面を切り取った「room」、“ずっと部屋にいたら太った”と愚痴る「フライドポテト」、サビのメロディで“うんこ”を連呼する「東京うんこ哀歌」。コロナ禍の自粛期間中に制作された楽曲を中心にしたニューアルバム『PERSONALITY』は、タイトル通り、高橋優の人となりや個性がこれまで以上にダイレクトに反映された作品。聴き手に阿ることなく、どこまでも自分に正直に書かれた歌詞は、きわめてパーソナルな内容だからこそ、幅広い層のリスナーの感情を揺さぶるはず。どれだけ自分自身と向き合い、生身の言葉を削り出せるかーーそれがシンガーソングライターの本質なのだと、このアルバムは証明している。


⚫︎クリープハイプ『どうにかなる日々』
 劇場アニメ『どうにかなる日々』(原作:志村貴子/監督:佐藤卓哉)のオリジナルサウンドトラック。“元恋人の結婚式”“男子校の先生と生徒”“親に勘当された従姉”“思春期の幼馴染”からなる4つのショートストーリーに対し、切なく、愛らしく、ときに痛々しい感情を際立たせるような音楽を提示している。演奏もクリープハイプが担当。生楽器の響きを活かしたアンサンブルは、生々しい感情の交流を描いた映画の世界観と強く重なる。主題歌「モノマネ」では、“何から何までそっくりだったはずが2人がいつの間にかズレていた”という状況を、“テレビで見た下手なモノマネ”というモチーフを使って表現。風景の描写と感情の変化を織り交ぜながら、その背景にあるストーリーを想像させる尾崎世界観のソングライティングが冴えている。


⚫︎クレイジーケンバンド『NOW』
 〈Go toか Stayか〉考えて、〈ドロンの映画でも見る〉という結論に至る「サムライ・ボルサリーノ – Le Samouraï Borsalino -」からはじまるブランニューアルバムのタイトルは『NOW』。タイトル通り、今現在の社会の雰囲気を濃密に反映した作品だが、もちろんそこはCKB、ソウル、ファンク、R&B、AOR、ボサノバ、ロックンロールなどをいい塩梅でブレンドしたサウンドとともに、“どんな状況でも、豊かな人生は送れる”というメッセージがたっぷりと込められている。オールドカーに乗って、切ない恋をしながら、本牧あたりで夜明けのコーヒーを飲む。そんな日々を夢想しながら、混迷の時代が明ける日を待ち望むーーそんなマーヴィン・ゲイの歴史的名盤『What’s Going On』よろしく、リアルな時代性と豊かで奥行のあるサウンドが一つになった充実作だ。


⚫︎tricot『10』
 前作『真っ黒』(2020年1月リリース)からわずか9カ月というインターバルで届けれたニューアルバム『10』。性急に突き進むビート、エッジの立ったギターフレーズを軸にした「おまえ」の〈悲しみも痛みも寂しさも悔しさも/歌うしかないのさ!〉をはじめ、中嶋イッキュウ(Vo&Gt)が紡ぎ出すリリックもさらに強いインパクトを放っている。個人的にもっとも心に残ったのは、官能性と叙情性が溶け合う「體」、そして、ファンタジックな色合いの「Laststep」。もともとJ-POPが好きで(モーニング娘。のファンであることを公言している)、10代の頃から歌詞を書き続けている彼女は、バンド結成10周年を迎えた現在、作詞家としても成熟の時期を迎えつつあるようだ。(森朋之)


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