藤原さくら×澤部渡(スカート)、eill×Kan Sano、みゆな×クボタカイ……実力派シンガーがタッグで開花させた魅力

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2020年11月17日 18:01  リアルサウンド

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藤原さくら『SUPERMARKET』

 作詞・作曲と同等にその楽曲を彩る編曲の重要性が語られるようになった近年の音楽シーン。特にシンガーソングライターはタッグを組むアレンジャー次第で音楽性に大きく変化をもたらし、様々な姿を見せることが出来る。本稿では気鋭アレンジャーとのタッグで新たな魅力を開花させたシンガーソングライターによる秋の新作を紹介したい。


(関連:藤原さくら『SUPERMARKET』は、どう生み出されたのか 参加ミュージシャン/プロデューサーの証言から現在の音楽性に迫る


 藤原さくらが10月21日にリリースした3rdアルバム『SUPERMARKET』は、そのタイトル通り多彩なラインナップの楽曲が並び、様々なジャンルと溶け合っている。


 序盤で耳を惹くのはVaVaとトラックを練り上げた「生活」。しっかりと押韻しながら、ラップと歌の中間のような滑らかなボーカルでミドルテンポを軽やかに乗りこなすナンバーだ。2020年春の“ステイホーム期間”や“おうち時間”を思わせるフレーズがちりばめられた気怠げでリアルなリリックもまた新鮮。このトラックだからこそ導かれた言葉たちだろう。


 先行配信曲「Monster」で藤原さくらをダークに演出した冨田恵一との再タッグで生まれた「コンクール」も驚きの1曲。ミステリアスでおぞましさすら覚える緊張感を帯び、スリリングな旋律の中で強い言葉がスムーズに届く。外野からの評価や、匿名の声などに向けた意思表示という歌詞のメッセージを増幅させる名アレンジが施されているのだ。


 クールな音像が目立つアルバムの中、バンドサウンドで構築された「ゆめのなか」は印象的。編曲したのは澤部渡(スカート)。バンドメンバーと共に一発録音されたオケはシンプルだが、素朴なメロディを豊かに膨らませる。日常の延長で愛憎を描いたやや陰の面もある楽曲だが、繊細に積まれた演奏が心を穏やかに包み込む……そんな画が浮かび上がる1曲だ。


 “アコースティックギターの弾き語り”というパブリックイメージは2018年のEP『green』『red』で取り払ったが、その先でさらなる変化を獲得した本作。馴染みのアレンジャー陣とも斬新なサウンドを追求し、自由で新しい藤原さくらをプレゼンしてみせた。


 eillは11月4日にミニアルバム『LOVE/LIKE/HATE』をリリース。m-floやさなりとの競演で名を馳せてきた2020年、その結実としてこの上ない仕上がりである。


 先行シングル「FAKE LOVE/」や「踊らせないで」でこれまで以上にアッパーな曲調を提示してきた中、リード曲「片っぽ」は初となるバラード。雄大なメロディの中で芯の強い歌声が光る。切ない恋慕を歌い上げ、J-POPシーンのど真ん中に存在感を示す堂々たる1曲だ。


eill | 片っぽ (Official Music Video)
 また、ファンクテイストな「Into your dream」で初タッグとなったのはKan Sano。重たいベースフレーズが妖しげなサウンドを支え、eillの艶っぽい歌声の魅力を活かした意匠の1曲である。サビではコーラスにKan Sanoも参加、大人びた世界観を見事に作り出した。


 竹内まりやのカバー「夢の続き」は編曲にFriday Night Plansのプロデュースを手掛けるTeppei、ベースにKing Gnuの新井和輝、ギターにShin Sakiuraという豪華な布陣で制作された。原曲のリッチなコーラスワークを排し、音数を減らしたタイトなアレンジ。バラエティに富んだアルバムの中でカバー曲においても自身の今のモードに引き寄せることに成功しており、どの楽曲も今見せたいeillの姿が刻まれていると言えるだろう。


 みゆなは10月28日に3rdミニアルバム『reply』をリリース。ローの効いた歌声を歯切れよく聴かせる歌唱が印象的なシンガーだが、共作や提供曲を通して表現の幅を広げた。例えば「レインレイ」は木村カエラやあいみょんなど名だたるシンガーの作品に参加してきた會田茂一が編曲。ハードで豪快なギターサウンドを展開し、みゆなのロックシンガーとしてのポテンシャルを引き出すことで作品の振れ幅を大きく拡張した。


 また、クボタカイとコライトした「あのねこの話」は、ドラマチックかつ蠱惑的な詞世界にマッチした大人びたフロウを展開。「乙女の声は天津風」は注目のニューカマーバンド・yonawoの荒谷翔大(Vo/Key)提供曲であり、甘いメロディをリラックスした声で歌い上げる。どちらも福岡出身ミュージシャンの参加曲だ。他にもこのアルバムには宮崎在住のみゆなと同郷の九州発アーティスト(BOAT、the perfect me)が登用されている。地方からでも先鋭的なプロダクトを発信できるという証明を果たした意義深いコラボレーションだ。


 アレンジャーごとのカラーを堪能できるのも昨今のシンガーソングライター作品の面白い点だ。好みのサウンドを手掛けたアレンジャーをたどって別のアーティストに出会うこともきっとあるはず。クレジットの編曲者欄は、音楽の楽しみを広げる可能性に溢れているのだ。(月の人)


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