「070の意味わかるやろ?」関西ラップ“DIRTY KANSAI”の若頭Young Cocoが歌う黒い仕事とポジティブな愛

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2020年11月24日 21:12  日刊サイゾー

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日刊サイゾー

写真Young Coco『NOT REGULARDeluxe)』(HIBRID ENTERTAINMENT)
Young Coco『NOT REGULARDeluxe)』(HIBRID ENTERTAINMENT)

 


 2010年代からトレンドとなっているアトランタ発のラップ・ミュージックのスタイル=トラップ。近年、Jin DoggやYoung Yujiroらが率いる大阪のレーベル〈HIBRID ENTERTAINMENT〉は、その関西版のムーブメント“DIRTY KANSAI”を巻き起こしてきたが、同レーベルの若頭というべき人気ラッパーがYoung Cocoである。

 先頃リリースした新しいアルバム『NOT REGULAR』を色で表現するなら、ニュートラルなグレー。ダークで危険な黒い世界と、ポジティブなマインドで音楽制作に邁進する白い世界を、シームレスに行き来するような内容に仕上がっている。もちろん、Young Cocoのトレードマークであるオートチューンをかませた、悲しげで美しいメロディアスなラップも健在だ。ただ、メディアでそのバックグラウンドが掘り下げられることは、あまりなかったように思う。そこで今回、彼のルーツやキャリアを探りつつ、新作に込めた想いを語ってもらった。

 

 

 

WILYWNKAとの出会いと、荒れ狂った高校時代

――中学生の頃から大阪のラッパーであるWILYWNKAさんと友達だったんですよね?

Young Coco(以下、YC) はい。自分はもともと、父親の影響で2歳くらいからサーフィンをやっていたんですよ。その流れで小学生の頃からだんだんスケボーに興味が出てきて。ただ、小さい頃から痙攣を持っていて、頭を打っちゃうとヤバかったみたいで、スケボーは親に禁止されていたんです。でも小5のとき、たまたま近所の公園のドブにボードが落ちていて、それを拾って親に内緒でスケボーを始めました。そこからYouTubeでスケボーの動画を観るようになったんですけど、DGKってアメリカのチームのビデオでかかってたヒップホップに興味が出てきて、本格的に聴き始めました。最初は、ウェストサイド・コネクション、アイス・キューブ、エミネムとか。YouTubeの動画をMP4に変換して落として、クリスマスに親に買ってもらったiPodでずっと観てました。

――WILYWNKAさんも中学時代にスケートをやっていたと話していました。

YC 俺がヤツと会ったのは、中学2年か3年のとき。地元である神戸の西宮にはヒップホップを聴いてスケボーやっているヤツなんて全然いなかったから、ダボダボの服を着ていたりすると、めっちゃバカにされたんですよ。で、あるとき知り合って、同い年だったからすぐに仲良くなって、大阪や神戸で一緒にスケボーしていましたね。遊びで自分たちのクルーに名前をつけたり。そこからお互いに音楽をやるようになって、HUSH PLANTというチームを組んだりもしました。

――WILYWNKAさんは当初、TAKAという名で「高校生RAP選手権」に出て注目されましたが、CocoさんはフリースタイルMCバトルの世界には行かなかったんですか?

YC TAKAが出てる「ENTER」って大会を観に行ったりはしていました。僕も最初は一緒にフリースタイルしていたけど、もっと自由にやりたい気持ちがあったんで、そっちのシーンからは自然と離れていきました。韻が踏めないとバカにされたりするんですよ。そういうのは僕が好きなアートじゃないなと思って。でも、TAKAとは今も変わらずずっと友達。当時から俺の地元の先輩がやっているレコーディング・スタジオに一緒に行ったりしていました。

――確かに、MCバトルにはスポ根的な側面がありますよね。

YC そうそう。俺は単純に、そういうのに馴染めないタイプなんです。だから当時は、いろんなライブハウスやクラブに行っていましたよ。それこそJin Doggのライブを最前列で観ているようなヘッズでした(笑)。俺はスケートの影響で西(ウェッサイ・ヒップホップ)の雰囲気が好きで、あの頃のJake(Jin Dogg)はチカーノっぽいノリだったんですよ。しかも日本語、英語、韓国語のトリリンガルでラップしている人なんていなかったから、マジでめちゃくちゃカッコよかった。「生野区から発信」みたく地元の地名をラップしちゃうのも、自分にはすごく新鮮でしたね。普通に「サインください」って話しかけてたら、だんだん名前を覚えてもらえるようになって。で、一回だけJAKEのサイドMCをやらせてもらったことあるんです。

――その流れで〈HIBRID ENTERTAINMENT〉に加入するんですか?

YC いや、高校の頃、音楽をやらなくなった時期があるんですよ。

――それはなぜ?

YC 特に理由はないんですけど、「音楽なんてしょーもないなー」って感じになっていました。年齢的にも、そういうヒネくれた時期だったんでしょうね。友達と軽いノリで人には言えない悪いことばっかりやってました。今思うと、あの頃は荒れ狂っていた。スケボーに乗ったクソガキでした。でも本当は、自分は性格的に悪い仕事は向いていない。その時期は音楽シーンで起こっていることも全然知らなかったんだけど、ある日、少年院から出てきたTAKAが一二三屋(韻踏合組合のHIDADDYが経営するヒップホップ・ショップ)の人たちと頑張ってるって話を聞いて、「俺もこんなんじゃダメだ」と思って。悪いことを完全にやめて、再び音楽をやるようになりました。

――Cocoさんにも助けてくれた人がいたんですか?

YC はい。地元には音楽で食っていくようなヤツがほとんどいなかったから、周りからは結構バカにされていました。「夢見てんじゃねぇよ」みたいな。でも、地元の先輩や数少ない仲間たちが応援してくれて。で、先輩がYoung Yujiroとつながりがあって、そこから〈HIBRID〉と合流する流れになったんです。

――Cocoさんは〈HIBRID〉からリリースした当初と現在で、かなりスタイルが違いますよね。

YC うん。最初は僕も、Jakeみたくシャウト系のトラップにハマっていたんです。しかも、その頃はトラップでモッシュする、俺らのDIRTY KANSAIスタイルが確立されつつあった。だから最初はそれでよかったんだけど、すぐに「同じクルーに2人もシャウト系はいらんやろ」って思うようになって(笑)。で、自分は自分なりに模索して、歌ったり、確実なラップを落とし込むような現在のスタイルにたどり着きました。結果的には変えてよかったと思う。きっと、俺がジェイクと同じスタイルで続けていたら、金魚のフンみたいな感じに見えただろうし。今の〈HIBRID〉はそれぞれが違う個性の音楽をやっているから、すごくバランスがいい。

――Cocoさんといえば、日本では早い時期からオートチューンを使っていたラッパーとして知られます。

YC 最初はこういうスタイルでやっている人が全然いなかったから、かなりヘイトされましたよ。YouTubeの批判コメントも全部見てます(笑)。で、一回食らう。それをポジティブなエネルギーに変えて制作していました。みんな、オートチューンを使えば誰でもああいう仕上がりになると思っているけど、実はそんなことなくて。シャープで濁りなく響かせるために、メロディの作り方や歌い方をかなり工夫してます。そういうのがなかなかわかってもらえなくて悔しかったけど、みんながだんだん認めてくれるようになった。

――ただ、前作『ALTERED』(19年)と比べると、今作『NOT REGULAR』はかなりダークな雰囲気ですね。

YC 特に意識していないんですけどね。俺、毎日曲作っているから、何百曲もストックがあって。今回のアルバムは、その中から一番いいと思った8曲、デラックス版は15曲を選びました。だから、アルバムとしては明確なテーマは設定していなくて、俺のライフスタイルがそのまま曲になっているんですよ。

――デラックス版の1曲目「090!!!」で「黒い仕事」についてラップしたのは、なぜですか?

YC さっきも言った通り、自分自身は足を洗いました。その後は番号が090や080で始まる自分名義のケータイを使ってきたけど、フッド(地元)にはいまだにそういう仕事をしいてる友達もいて、070で始まるトバシのケータイを使っている。そういうことを知っていると聴いていてギクッとすると思うし、こっちも「俺は違うけど、この意味わかるやろ?」みたいな。俺は自分の目で見たことしかラップしない。USのクルーもそうだと思うんです。英語は全然わかんないけど、曲を聴いているとフロントマンのラッパーの後ろにフッドが見える。みんなが一緒に上がっていこうとしているのがわかって、感動できる。俺もそういう曲を作りたくて。

<090!!!>
・Spotify

・apple

――なるほど。

YC 今回のアルバムは、ほとんどコロナの自粛期間にレック(レコーディング)したんです。タイトルは最初、『I’m Not Regular』にしようとしていたんですけど、Jakeが「『NOT REGULAR』にすれば、普通じゃない今の状況にもかかる」ってアドバイスしてくれて。俺自身は普段からずっとスタジオにいたんで、特にライフスタイルの変化はなかったんだけど、周りの人たちがかなりキツそうだったから、ポジティブというキーワードはかなり意識していましたね。「Everything!!!」とかもそうだけど、聴いてる2〜3分の間だけでもコロナのムードを忘れられるというか。今はフレックス(ラグジュアリーなさまなどを見せびらかすこと)する時期じゃなくて、愛を伝えたかった。

Everything!!!
・Spotify

・apple

――ずっといたスタジオというのは〈HIBRID〉のスタジオですか?

YC はい。寝泊まりして、洗濯もして(笑)。朝起きて、気持ち作って、制作する、みたいな。もちろん、うまくできない日もあるけど、できない日にはできないなりの音楽があって。俺は当たって砕けろスタイルで毎日作ってますね。

――曲作りはどのように進めていくんですか?

YC 実は、今はフリースタイルで作っているんですよ。『ALTERED』の頃までは歌詞を書きまくっていたんですけどね。考えて書くと言葉は鋭くなっていくんですけど、いろんな意味で固まりがちになるというか、柔軟に対応できないことに気づいて。ここ1〜2年かな。最近は自分でトラックも作っているので、いいなと思ったらレックボタンを押して録り始める感じ。そうすると考えていることをそのままラップにできるし、いいキャッチーさが生まれる。メロディは声を出さないと、わかんないんですよね。想像した声と出した声が違うこともある。そうなると、カッコよさが削がれる。USのラッパーがなんでカッコいいかっていえば、ヤツらはひらめきをそのままを音源に落とし込めているからだと思うんですよ。俺はまだ完全にできてないから、毎日勉強中なんですけど。

――レコーディングも自分でやっているんですか?

YC はい。自分でトラックを作った曲に関してはマスタリングまでやっています。独学で勉強しました。本当は今回のアルバムも全部自分のトラックでやろうと思ったけど、さすがに全15曲マスタリングするのは大変すぎるし、時間もかかっちゃうから、人のトラックを買うことにしました。今のYoung Cocoをできるだけ早く聴いてもらいたかったし。俺は毎日成長しているから、すぐにこの音源に満足できなくなってしまう。だから、なるべく早く出したかった。

――Cocoさんは、ものすごくポジティブな人なんですね。

YC 悔しい思いはいっぱいしてきましたけどね。でも、嫌なことは友達と話して解消するようにしていました。今はJakeも含め、周りに同じビジョンのヤツらがいっぱいいて、みんなが俺を認めてくれている自負があるから、あまりネガティブなモードにはならないです。昔のヒップホップは「マニー、パワー、リスペクト」だけだったけど、今は「マニー、ラブ、リスペクト」だと思うんですよ。「090!!!」の話にも通じるけど、レックしてるときに仲間がいるとポジティブになれるんです。しかも、その曲はそこにいたヤツらにとっても特別な曲になって、「Cocoがヤバい曲作ってた」っていい噂も生まれる。プライベートで嫌なことがあっても、いい曲が作ることができれば俺はいつでもポジティブになれますね。

――以前、変態紳士クラブ(WILYWNKA、レゲエ・ディージェイのVIGORMAN、プロデューサーのGeGからなる大阪のユニット)に取材した際、「関西はみんな仲がいいけど、音楽面では馴れ合うことなく切磋琢磨している」といったことを話していました。

YC 確かに、関西はみんな仲いいですね(笑)。1,000円で大阪、京都、岡山、神戸、奈良みたいな関西圏は全部行ける。これってニューヨークとあんま変わんない。クイーンズに行ったり、マンハッタンに行ったり。その感覚でいったら、俺は関西全部がフッドだと思っている。ジャグさん(JAGGLA)や孫くん(孫GONG)みたいな先輩も高校くらいから俺のこと知っているし、MaisonDe(Shurkn Papなどを擁する兵庫・姫路のクルー)の子たちもラップ始める前は俺のライブに来てくれていたんですよ。

――関西=ニューヨーク説、面白いですね。

YC でしょ? そんな中でも変態は今、俺より高いところにいて、いろいろプレッシャーも感じていると思うんです。彼らには「俺と一緒にやるときは、もっと自由になっていいよ」って伝えてます。音楽を一緒に作ることは、なによりもまず楽しいことが一番。でも、「いいやん、いいやん」しか言わないイエスマンに囲まれていると、新しいクリエイティブが生まれなくなる。俺は自分の音楽がUSと同じ土俵にいないと気が済まない。USでトラップをやっているラッパーは、リスナーが求めることなんて気にしていないと思うんですよ。そのためには、音楽を自由にやることが大事。みんな心の中をさらけ出せば、結果、ヤバいものが生まれて、それがスタイルになっていくと思う。

――USのヒップホップ・シーンと同じ土俵に立つということは、今後はメジャー・レーベルとの仕事も視野に入れているんですか?

YC メジャーというか、やれることは全部やりたいです。日本のヒップホップの流れを変えたいから。俺らみたいなスタイルのヤツが出てきても、確実に食っていける状況にしたい。そうするためには、仮にメジャーから話が来たとして、「2年で何枚アルバムを作りなさい」って契約をして、大きな制作費をもらって意気込んでも、アルバム何枚か出して燃え尽きちゃ意味ないと思う。だから、俺は毎日作っている。メジャーもインディも関係なく、いつでもアルバムを出せる。それがライフスタイルなんで。音楽に限った話じゃないけど、結局、毎日努力しているヤツが一番ヤバいんですよ。ただ、俺や〈HIBRID〉だけでは状況を大きく変えることはできない。こんな狭い島国なんだから、関西だけじゃなくてシーンのみんなで上がっていきたいですよね。そしたら、USのヒップホップみたいな状況が作れるんじゃないかなって。

●プロフィール
Young Coco(ヤング・ココ)

1996年生まれ。兵庫県西宮市出身。〈HIBRID ENTERTAINMENT〉所属のラッパー。「KONOMAMA」(17年)、Yo-Seaと共にフィーチャーされたDJ KANJI「22VISIONRemix)」などがシーンでヒット。アルバムに『ALTERD』(19年)、『NOT REGULAR』(20年)。これまでにアメリカのラッパーであるOG MacoやDa$h、韓国のプロデューサーJunior Chefとコラボレートもしてきた。

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