【レースフォーカス】クラッチローとドヴィツィオーゾ、“別れ”のレースとなった最終戦/MotoGP第15戦ポルトガルGP

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2020年11月25日 08:31  AUTOSPORT web

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カル・クラッチロー(LCRホンダ・カストロール)
2020年シーズンのMotoGP最終戦、ポルトガルGPではいくつかの“別れ”があった。そのなかから、カル・クラッチロー(LCRホンダ・カストロール)とアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)に焦点を当てていく。このふたりについて、ポルトガルGPが『ラストレースだった』という表現は適切ではないだろう。ただ、ひとつの別離のレースだったことは確かだ。

■クラッチロー、すべてを尽くした“ラストレース”
 既報の通り、クラッチローは2020年シーズンをもってLCRホンダ・カストロールを離脱。11月13日にヤマハによって発表されたように、2021年はヤマハのテストライダーに就任する。スーパースポーツ世界選手権(WSS)とスーパーバイク世界選手権(SBK)参戦時代にはヤマハを駆り、その後、2011年にMotoGPへ戦いの場を移したときも、当時のモンスター・ヤマハ・テック3から参戦した。クラッチローにとっては古巣へ舞い戻ったと言えるかもしれない。

 そんなクラッチロー、今季をおおよそ振り返ってみると、初戦となったスペインGPでの左手舟状骨骨折から始まり、多くの怪我を抱えたシーズンだった。そうしたシーズンの締めくくりとして迎えたフル参戦ライダーとして、そしてLCRホンダ・カストロールから参戦するラストレースでは、4番グリッドからスタート。5番手付近を走行していた。ただ、残り5周の1コーナーでオーバーランを喫し、大きくポジションダウン。13位フィニッシュだった。

「感動的な終わりだったよ。レースではすべてを尽くした」とレースを振り返るクラッチロー。ただ、結果は期待したものではなかったようで「結果にはがっかりしている。いいグリッドにいたから、いいポジションで終わることができるかもしれないと思っていた。でも、リヤタイヤがかなり消耗してしまった。それから、序盤におそらくトラクションコントロールが足りなかったのかもしれない」と言う。それでも、クラッチローにとっては最後のレースでチェッカーを受けることが大事だった。「フィニッシュできてうれしい」とも語った。

 上述のように、クラッチローは来季、ヤマハのテストライダーとなる。ワイルドカードや代役としてレースに参戦する可能性は、もちろんあるだろう。それでもこのポルトガルGPがクラッチローにとって区切りのレースとなったことは間違いなく、また、その心境はレギュラーライダーとしてのそれとは少し違う場所に移動しつつあるようだった。レース後、クラッチローはこう話している。

「安心感があるよ。さっきも言ったように、終わったと感じている。すべてのチャンピオンシップで、やりたかったことをすべてやったと思う。レースに導くのは、多くの決意だと言ったのは僕が最初だ。たぶん、僕は最も才能がなかったけれど、だからこそ長く続き、欲求があった。朝起きたときにモチベーションがなければ、引退するといつも言っていた」

「でもまだ、朝起きても、バイクやトレーニングなどを続けるモチベーションがあるよ。ただ、もう自分がしたいようなレベルで競い合うことができない。とてもシンプルなんだ。僕はまだ速い。でも、今季のチャンピオンシップでわかる。家にいたいという気持ちになった」

 今後数週間の予定を問われると、プライベートな一面が混じった。愛妻家であり、家族思いのクラッチローらしい、微笑ましいコメントだ。

「家に帰るよ。家族と一緒に過ごす。3週間も会っていないからね。今年、(妻の)ルーシーとはあまり会っていないし、(娘の)ウィローもパパに会っていない。今年は僕もウィローとたくさん会えていなかった。そして、間違いなく僕はルーシーとたくさんの時間を過ごしてきて、ウィローが生まれてからは、いつも一緒につれていた。だから、今年はいつもとは違っていた。家に帰るのが待ちきれないよ」

 チームやライダーばかりではなく、取材で向き合うジャーナリストからもレギュラーライダーを退くことを惜しまれていたクラッチロー。愛され続けるライダーは、こうも言った「僕は一歩下がって、友人や若いライダーが頑張るのを見ているよ」。それは、現状のクラッチローの心境を思わせる言葉だった。

■ランキング4位で苦戦のシーズンを終えたドヴィツィオーゾ
 ドヴィツィオーゾの場合も、ポルトガルGPを“ラストレース”と語るには抵抗がある。8月15日に、ドゥカティは2020年シーズンいっぱいでドヴィツィオーゾとの契約を終了することを明らかにした。この時点ですでに多くのチームがライダーと来季以降の契約を結んでおり、ドヴィツィオーゾに選択肢はほとんどなかった。

 経験豊富なドヴィツィオーゾのもとには、いくつかテストライダーとしての打診があったという。しかし、ドヴィツィオーゾはレースへの情熱を手放さなかった。2021年シーズンはいったんMotoGPに参戦せず、2022年以降に向けた復帰を模索するという。あえて言うならば、“MotoGP参戦休止前のラストレース”ということになるだろうか。

 ドヴィツィオーゾにとって“長い休暇”前の最後のレース、ポルトガルGPは、12番グリッドからスタートし、6位フィニッシュ。ファビオ・クアルタラロ(ペトロナス・ヤマハSRT)やマーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)が下位に沈んだことで、最終的なランキングは4位だった。

 ドヴィツィオーゾはこの結果について現状のベストだったと考えているという。今季はマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が負傷欠場したことでタイトル争いに名乗りを上げたかったところだろうが、シーズンをとおして低迷し、1勝と3位表彰台を1度獲得したのみにとどまっていた。

「僕が今季持っていたフィーリングで、ランキング4位でフィニッシュしたことは、チャンピオンシップに向けた僕のメンタルとアプローチを裏付けるものだ。フィーリングはチャンピオンシップを戦えるものではなかった。それについてはがっかりしている。とても難しいシーズンだった」

「もちろん、チャンピオンシップでランキング4位ということには満足できない。タイトル争いがしたかったわけだから。でも、難しかったんだ。バイクのフィーリングを伝えることはできないんだけれど、すべてのサーキット、すべてのコンディション、予選でフィーリングが悪いとき、常にセッションでのポジションは後方で、レースでも後ろを走った。ときどきポジションを上げられたけれど、過去のようには乗れていなかった。僕は今年、この乗り方が気に入らなかった。過去3年は、とてもよかったから。それを考えると、4位はとてもいいポジションだよ」

 将来の話についてもレースについても、難しいシーズンを送ることになったドヴィツィオーゾ。ただ、ドゥカティにいた8年間については前向きにとらえている。ドヴィツィオーゾがドゥカティに移籍してきた2013年シーズン、ドゥカティはシーズンをとおして1勝も挙げられなかった。その後、2017年シーズンからの3シーズンは、ドヴィツィオーゾはM.マルケスとタイトル争いを展開するまでになった。それは疑いようのない明るい事実だ。

「僕たちが始めたところを考えれば、どれほど満足しているだろうと思う。みんなそれを忘れているんだ」とドヴィツィオーゾが言うように、今やドゥカティの優勝や表彰台獲得は驚きの結果ではなくなった。

「8年前のことだから、思いだすのは難しいよね。でも、僕はよく覚えているよ。とてもうれしく思っているんだ。もちろん、タイトルは獲得できなかったし、状況は完ぺきじゃなかった。でも、ドゥカティのある人たちよりは、僕は幸せだと思うよ」

 ドヴィツィオーゾはさらに「3年間(ランキング2位で)お祝いできなかったことはがっかりしていて、これについては満足していない。それは、この決断に影響するかもしれない。今僕たちが“こういう状況”にある理由なんだ」とも続けた。ドヴィツィオーゾとドゥカティとの関係性については、当方では憶測を含むところがあるので言及を控えるが、ドヴィツィオーゾとしては一言加えておきたかった、といったところなのだろう。2021年シーズン、ドヴィツィオーゾの動向に注目していきたいところだ。

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