ニュータイプになった初音ミクはどこへ向かうのか  “VOCALOIDじゃないミク”の開発者に聞く

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2020年11月30日 17:03  ITmedia NEWS

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写真初音ミク NTを歌わせるには、付属の編集ソフト「Piapro Studio NT」が必要
初音ミク NTを歌わせるには、付属の編集ソフト「Piapro Studio NT」が必要

 VOCALOIDの代名詞と言っても過言ではない「初音ミク」が、VOCALOIDとは別のソフトウェアとして登場した。これまでとは音質や機能も変わり、イメージイラストも新衣装にリニューアルされた彼女は、一体どこへ向かうのか。



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 11月27日、クリプトン・フューチャー・メディア(CFM)が歌声合成音源「初音ミク NT(ニュータイプ)」を発売した。これまでVOCALOID用の音源としてリリースしてきた初音ミクを、今回は自社開発のオリジナルソフト「Piapro Studio NT」用の音源として大きく作り替えている。



 新型ミクはVOCALOID上では動かない。歌声を合成するエンジンも、VOCALOIDに使われているものではなく、産業技術総合研究所(産総研)と共同で新たに開発したものを採用した。



 オリジナルの歌声合成エンジンを作るに至った経緯や、初音ミクの新規イラストについて、開発者であるCFMの佐々木渉さんに話を聞いた。



●なぜオリジナルの歌声合成エンジンを作ることになったか



──今回、なぜ産総研とオリジナルの歌声合成エンジンを共同開発することになったのでしょうか。



佐々木 これまではVOCALOID用の製品開発を行ってきたのですが、年々「プロの歌手と一緒に歌わせてほしい」など、初音ミクを初めとするキャラクターに対するニーズが多様化していました。



 ボカロPと呼ばれるクリエイターと一緒に仕事をする中で、必要に迫られてVOCALOIDとは別の技術を使って音源をブラッシュアップしたり、音声を加工するエフェクターを作ったりすることもありました。



 そんな中、VOCALOIDのキャラクターを人間のように歌わせる技術「VocaListener」を開発した産総研とつながりができ、自然と歌声合成エンジンを開発する流れになったのです。



――VOCALOIDエンジンからオリジナルの歌声合成エンジンに変更したことで何か変化はありましたか。



佐々木 これまで、VOCALOIDエンジンのおかげで“初音ミクらしさ”が一定のクオリティーを保っていた部分がありました。



 しかし、2016年に発売したVOCALOID音源「初音ミク V4X」の開発では、当時のPiapro Studio(VOCALOIDエンジン搭載)に「VoiceColor」というCFM独自の機能を付けたのですが、これがVOCALOIDエンジンからするとイレギュラーな機能だったこともあり、かなり苦戦しました。



 CFMの開発コンセプトを実現するには、VOCALOIDエンジンの仕様から離れるのが有効と考えたわけです。



●開発にはコロナ禍の影響も



──Piapro Studio NT、初音ミク NTは何人体制で開発したのでしょうか。



佐々木 主なスタッフは、初音ミク NTの音源を製作するチームが3人、Piapro Studio NTの歌声合成エンジンとGUIを開発するチームが4人です。その他、ソフトを使って音声を作るチームや、歌声合成の基礎的な研究を行うチームが別にあり、それぞれが連携して作業を行っています。



──CFMは札幌市にありますが、新型コロナウイルス感染症の流行による影響はありましたか。



佐々木 今回の初音ミク NTの制作では、ミクの声を当てている藤田咲さんの音声を収録する作業もありました。コロナ禍でしたので、収録は都内の協力会社と連携してリモートで行うことが多く、もどかしいこともありましたね。



 製品のリリースが3カ月ほど遅れましたが、主な理由としてはコロナ禍の他に、音質の向上のため歌声合成エンジンを産総研と一部作り直したことが挙げられます。



 テストユーザーやデモ音声を聞いた人から音質に対する改善の要望がありましたし、われわれも満足できていなかったので時間がかかりました。



●CFMが目指す音



――初音ミク NTを開発する上で、どのような音を目指しましたか。



佐々木 今回の開発の目指すところは“初音ミクらしさの抑揚の拡張”でした。今までより多い声の素材、より多彩な声の表情を、ユーザーの方々にとって分かりやすくなるよう製品にまとめることが重要だったのです。



 今後も定期的なアップデートで、その発展性を示したいとも思っています。VOCALOIDエンジンでは難しかった、歌声データベースのアップデートも細かく行っていけますので。



●新デザインに込めた思い



――初音ミク NTのキャラクターイラストも、これまでのミクとは違うテイストになっていますが、どのような思いを込めたのでしょうか。



佐々木 初音ミクの衣装デザインも今までとの違いを表現する必要がありました。悩みながら落とし所を探っていった……というのが実際です。



 初音ミクのデザインにはもともと、ヤマハのシンセサイザー「DXシリーズ」の意匠を取り入れてきました。今回は、イメージの焦点を“音の波”にまで抽象化しています。ここ十数年で生まれたDXシリーズをリスペクトした製品やシンセサイザーも眺めながら、ウンウンうなっていました。



 結果的には、ミクらしく可愛らしいことや、気軽に眺めたときに愛らしさなどを感じてもらうことが重要と思いました。



 私の方でコンセプトをかなり煮詰めてから、以前もパッケージイラストを担当したイラストレーターのiXimaさんと話し合いつつベースを作りました。ちょっと違ったシャープでエレガントな個性や意見を取り込むため、イベント用に初音ミクのイラストを描いたことのあるイラストレーターのRellaさんにもデザインにご協力頂きました。



 結果、どこか違う角度の意見が交わっているような雰囲気にできたかなと思います。“完全”や“洗練”ではない何かと、自由さが欲しかったのです。



●今の歌声合成ソフト市場での戦い方



――2020年に入って、他社から「CeVIO AI」「Synthesizer V AI」といったAIを活用した歌声合成が複数発表され、トレンドになっています。その中でどのように展開していきますか。



佐々木 AI歌声合成ソフトの開発やリリースがトレンドであり、進化していることも理解しています。



 初音ミク NTは収録した音声波形を切り貼り・加工して音声を合成する「素片接続」という仕組みのソフトです。操作性と自然さのバランスという意味で、見習わないといけない部分が多くあると思います。



 他方で、人間の歌声を再現するAI歌声合成ソフトが、生のグランドピアノの音色を目指すようなものだとしたら、われわれは初音ミク NTでエレクトリック・ピアノを目指しているともいえます。



 この方針では、歌唱を機械的にも抑揚たっぷりにもできるところにメリットがあります。うまくユーザーに使ってもらえるソフトにすると同時に、操作の難しさは拭い去っていかなくてはという難しさもあります。



 今は配信者による「歌ってみた」やVTuberによる歌唱など、さまざまな歌があふれている時代に突入していると思います。「歌で表現すること」への興味関心や参加意識が高くなっている今、リスナーの琴線に響く表現も多様になっていくでしょう。



 歌声合成ソフトもそういったクリエイターの表現にどう寄り添えるかが重要かと思います。



●今後の開発計画は



――今後の開発計画についてお教えください



佐々木 まずは初音ミク NTやPiapro Studio NTのアップデートを進めます。使っていただいたクリエイターの声とも照らし合わせつつ、拡張表現のリリースや、GUIの最適化も進める予定です。



 自社開発になったことで、システム面から突き詰められる部分が多くなっています。まだ試したいアイデアもありますので、アップデートはしっかり行っていきます。並行して、他のキャラクターの音源制作や実験も試していく予定です。


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