写真 『夏、至るころ』で初映画監督を務めた池田エライザ(C)oricon ME inc. |
モデル、女優、歌手など幅広く活躍しながらも、それぞれの分野でしっかりと独自の個性を放つ池田エライザ。これまで雑誌編集やカメラマン、4日には『夏、至るころ』で映画監督デビューを果たすなど、彼女の才能は計り知れない。園子温や大根仁、蜷川実花ら有名クリエイターから名指しでオファーが相次ぐも、実はゴールデン帯ドラマの王道ヒロイン役といったオファーは断っているという。芸能界で先駆けて開設したTwitterは事務所に内緒で本人が勝手に始めたというが、新時代を自ら切り開く池田エライザの“自己プロデュース力”とは。所属事務所エヴァーグリーン・エンタテイメントの中田しげる社長に聞いた。
【写真】胸元ざっくりドレスで無防備な池田エライザ スラリ美脚も■第一印象はトラブルメーカー? 「芸能界は“良い子”が結果を出せる世界ではない」
中田しげる社長は、おニャン子クラブ全盛期の1980年代より、渡辺美奈代をはじめ、これまで松雪泰子、内田有紀、郷ひろみなど名だたるタレントたちをマネジメント、育成してきた。そんな彼が「若いタレントでエライザのような子はいない」「僕自身がエライザに多くのことを教えてもらっている」と語る。
――池田エライザさんと初めて会った時の印象を教えて頂けますか。
【中田しげる】 2009年に雑誌『ニコラ』のモデルオーディションで彼女がグランプリに選ばれて、所属が決まって自宅兼事務所の寮で話したのが最初でした。大きな目が力強くて凄く印象的でしたが、話してみると見た目や名前のインパクトと違ってとても大人しい子だなと。ただ、そのときエライザは中1だったので、どういう風になっていくのか全く想像がつかなかったですね。
――事務所に入ってからのエライザさんはどのような感じでしたか?
【中田しげる】 正直な話、当初は力を入れて育成しようとしているタレントの中にエライザはいませんでした。というのも、良くも悪くも“トラブルメーカー”になるんじゃないかという匂いがあったからです(笑)。例えば、雑誌の撮影日に新型インフルエンザになってしまったり、寮の鍵をマンションのエレベーターの隙間に落としてしまったり。今思うと全部たまたまで、単純にエネルギーを持ち余していただけというか。ただ、俗にいう“良い子”だけが結果を出せる世界かというとそうではないんですよね。僕やスタッフのうるさいアドバイスにも反論することなく素直に聞くような子は伸びなかったけど、エライザは誰にも相談せず自分で考えて答えを導きだしていた。それが結果的に良かったかもしれないなと、いまは思います。
■本人が勝手に始めたTwitterがブレイクのきっかけに「過去の成功例を当てはめてはいけないと学んだ」
――エライザさんのターニングポイントとなったのはどのタイミングだったと思われますか?
【中田しげる】 2015年に園子温監督の映画『みんな!エスパーだよ!』に出演したことでエライザの認知度が高まって、そこから一気に仕事のオファーが増えましたね。そのあと、彼女が事務所に内緒でTwitterの個人アカウントを作って色々と発信をし始めて(笑)、“エライザポーズ”が話題になったのも小さなターニングポイントと言えると思います。
――当時はSNSで自己発信をするタレントがあまりいませんでしたが、積極的に発信をし続けるエライザさんのことをどのように受け止めていたのでしょうか。
【中田しげる】 SNSに関して当時はとても慎重になっていて、タレント達に「もう少し待ちなさい」と事務所側は伝えていたんです。そんななか、彼女が勝手に始めてしまったことに最初は驚きましたが(苦笑)、後から思えば、それだけの行動力やエネルギーも彼女らしさだと気付かされました。それまでは、良くも悪くもタレントが輝くための道筋を事務所側で作ってあげていましたが、エライザはそうじゃなかった。自分で道を切り開いていく彼女の姿を見て、僕ら大人はそれを無理に押さえつけてはいけないし、過去の成功例を当てはめてもいけないんだということを学んだんです。
――今年6月にはフォロワー100万を超えるTwitterを閉鎖されましたが、何故でしょうか。
【中田しげる】 彼女は“人を幸せにすること、豊かにすること”を目的としてSNSを活用してきましたが、去年の夏頃からTwitterがそのようなツールではなくなってきていると感じたみたいで「Twitterを辞めたい」と口にするようになったんです。ただ、やはり発信力や拡散力がありますから、クライアントとの調整などを経て、ようやく今年の6月に閉鎖に至りました。
■深夜ドラマ&個性役が多いエライザ、本人・事務所で異なる仕事選びの基準とは
――女優業に関しては、最近は深夜ドラマの個性的な役が多い印象です。
【中田しげる】 ありがたいことにゴールデンタイムのドラマのお話も頂いているのですが、視聴率や知名度、好感度を意識するというよりは、エライザは単純に企画や作品が面白いかどうか、ご一緒したい監督の作品かどうかというだけで判断している感じですね。ベタなヒロイン役をエライザが演じるのは違うなとか、本人が「これは受けたくない」とハッキリ意思表示をすることもあるので、それを尊重することもあれば、僕らの意向でオファーを受けることもあります。また、その反対で彼女がやりたいと言ったものを事務所側でお断りする場合も。僕らは当然戦略も考えるので、そこの調整はしっかりとしているつもりです。
――ときにはエライザさんと意見が衝突することもあるのでは?
【中田しげる】 決まった仕事に関しては僕ら以上に先方に気を遣う子なので、逆に僕らがダメ出しをされることもあります(笑)。ただ、CMに関しては短い時間にインパクトの強いワードを言ったりするので「この言葉を私が言うのは違います」と強くこだわることも。それはあくまでもクライアントや商品、コンテンツに真剣に向き合っているからこその発言なので、そこも尊重するようにしています。そういったバランス感覚も非常に長けていると感じますね。
――モデルや俳優としての活動だけじゃなく歌手として音楽番組にも出演されていますが、今後は歌手デビューする可能性もあるのでしょうか?
【中田しげる】 実はプライベートでエライザと親交のある大物アーティストから、楽曲プロデュースの話を頂いたんです。ところが、彼女は「音楽だけはビジネスじゃなくて趣味でやりたい」と言うのでお断りすることになって。あくまでも主体性を持ってやって欲しいので、いつかタイミングが当たった時と考えてます。
■監督陣に愛される理由は“オタク気質” エライザの口癖は「知らない自分が恥ずかしい」
――園子温監督や蜷川実花さんなど、オリジナリティ溢れるクリエイターからのオファーも絶えませんが、その理由はどんなところにあると思われますか?
【中田しげる】 監督ってオタク気質の方が多いのですが、エライザに同じ匂いを感じてオファーしてくださるのかなと、そんな風に思いますね。何事も突き詰めればオタクになるじゃないですか。彼女は色んなことを深堀りして知識を貯えていますから、話していて面白いのかもしれませんね。若いタレントで彼女のような子はいないです。
――24歳にして、錚々たるクリエイター陣と肩を並べて話せる知識量を蓄えているんですね。
【中田しげる】 彼女はしょっちゅう「知らないことが恥ずかしい」と言うんです。最近で言えば、BLM運動が起こった時に、聖書と旧約聖書を読んで差別について勉強したそうなんです。それでも「昔から根付いている差別問題はちょっと勉強したぐらいじゃわからない。そんな自分が恥ずかしい」と言うので、布留川正博さんが書かれた『奴隷船の世界史』という文献を薦めたら、その日に夜通し読んでいたようで、翌朝には「読み終わった」と連絡がきて。本当に恥ずかしいと思っているからすぐに行動できるんだなと感心しましたよ。顔や名前が派手なので誤解されることもありますが、真面目で嘘がないです本当に。悩めば悩むほど様々な情報を詰め込んでいって、それでどんどん強くなっているように思います。
■誰でも自己発信できる現代の芸能事務所の役割とは「同じやり方を続けていたら数年後にはなくなる」
――中田社長の思うエライザさんならではの魅力を教えて頂けますか。
【中田しげる】 幅広く色んな知識を入れて、常に自分の意見を持って作品と向き合うところではないかなと思います。Twitterにしても発信する理由が彼女の中にはちゃんとありましたし、頂いた仕事に対して“やる意義”というのを必ず見いだして全力で毎回挑んでいる。それに彼女は誰に支えられているかというのもちゃんとわかっていて感謝しているので、そこも凄く良いところだと思いますね。だからこそ、SNSも作品に関しても受け止めてくれる人達のことを考えて表現できているんだと思います。
――今後、エライザさんにはどのような活躍を期待されていますか?
【中田しげる】 “こうなって欲しい”というのは特にないです。僕らの要望や理想の通り進んでいくだけでは、売れなくなっちゃいますから。彼女自身トライアンドエラーを繰り返して多くのことを学んでいますから、そこに僕らは必死に追いついていくだけというか。最近は個人事務所を立ち上げたりフリーで活動される方が増えていますよね。だから、同じやり方を続けていたら数年後には芸能事務所はなくなると思うんです。お互いにメリットがなければいけませんし。事務所の人間としてタレントに新しい提案ができるように学んでいきつつ、エライザには常に自分のやりたいことを表現していって欲しいなと思っています。
並外れた経験値と突出したマネジメント・プロデュース力を持ち、業界では広く名の知れた中田しげる社長。しかし、自身の経験や価値観を押し付けることない柔軟さには驚かされた。最後に、自己プロデュース力に長けたタレントや独立するタレントが続々と出てきている中で、「今の芸能事務所の役割とは?」と尋ねると、「事務所がなくてもやっていけるようなタレントを育てること」との答えが返ってきた。タレントを“商品”としてではなく、きちんと“人”として向き合ってるからこその回答だと強く感じた。
(取材・文=奥村百恵)