太宰治が誰よりも「転生」させられる理由とは? 異世界に、現代に……時には異能力者に変身も

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2020年12月05日 09:01  リアルサウンド

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 太宰治は遍在する。高橋弘の『太宰治、異世界転生して勇者になる 〜チートの多い生涯を送って来ました〜』(オーバーラップノベルス)では異世界に。佐藤友哉の『転生!太宰治 転生して、すみません 』(星海社FICTIONS)では現代に。1948年6月の玉川上水から転移・転生しては、持ち前の才能や新しく得た異能の力で活躍する。


 朝霧カフカ原作、春河35作画の漫画『文豪ストレイドッグス』(KADOKAWA)では、宮野真守のようなイケボで話す探偵になって難事件に挑む。大勢いる文豪たちにあって、どうして太宰治だけが引っ張り回されるのか? 恥の多い人生だったからこその魅力にあふれているからなのか?


 川を流されていた「太宰治」が「中島敦」に助けられる。太宰は「福沢諭吉」が率いる武装探偵社のメンバーで、武装探偵社に加わった中島や、メンバーの「江戸川乱歩」「与謝野晶子」らと共に、「中原中也」や「芥川龍之介」が横浜で起こす事件に異能力を振るって立ち向かう。生まれた時代も、死んだ年齢もバラバラな作家や詩人や歌人たちが、同じ名前で美形や美少女のキャラとして描かれ、作品にちなんだ異能力をふるって暴れまわる作品が、『文豪ストレイドッグス』だ。


 多彩なキャラたちにあって、太宰の人気ぶりは断トツだ。彼の「人間失格」という異能力は、誰かの異能力を打ち消すだけで攻撃したりはしない。飄々としていて優しげで、川があれば飛び込んでしのうとする姿が、守ってあげたい気持ちをかきたてる。切れ者で謎めいているところも、ファンの心を捉えてやまない。創作や恋愛に悩み、最後は愛人と玉川上水に飛び込んだ現実の太宰を知っている人なら、どこかシンクロする匂いを感じるだろう。知らない人が現実の太宰の作品を読み経歴を知れば、『文スト』の太宰に劣らず愛してしまうはずだ。


 無頼の生き様と残した作品群が、太宰治という存在に強烈なキャラ性を持たせ、現実の壁を超越した支持を集めさせた『文スト』とは違い、太宰本人が時空の壁を超えてなお、強烈な存在感を放ち続ける作品もある。11月25日に出た高橋弘『太宰治、異世界転生して勇者になる〜チートの多い生涯を送ってきました〜』だ。


『太宰治、異世界転生して勇者になる 〜チートの多い生涯を送って来ました〜』(オーバーラップノベルス)

 富栄という女性と玉川上水に飛び込んだ太宰が目を覚ますと、そこは異世界で川端康成という魔王に脅かされていることが分かった。川端といえば、太宰が授与を願って手紙まで書きながら、芥川賞をくれなかった憎い敵。異世界でも魔王として立ちふさがった彼を、太宰が勇者として倒す展開になるかというと、やる気に乏しい太宰は川に飛び込んで死のうとする。


 そこで発動する異能の力。転生した太宰は、水でもカルモチンでも首吊りでも死ねない体になっていた。仕方なく川端に挑もうと、トミエという名の金髪で下半身が魚という少女を伴い、旅をする太宰の前に川端が現れ、異世界芥川賞をやると言って太宰を誘う。太宰なり、川端にまつわる数々のエピソードがモチーフになった会話が繰り広げられ、情景が描写される展開を、太宰のファンならニヤニヤしながら読んでいける。


 それは、『1000の小説とバックベアード』が三島賞に輝いた佐藤友哉が、2018年に出した『転生!太宰治 転生して、すみません』でも同様だ。


『転生! 太宰治 転生して、すみません』

 やはり玉川上水で心中しようとしたところ、2017年の現代に転生してしまった太宰治が主人公。救助され運び込まれた部屋で目覚めて知り合った女性に、すぐさま「死のうか」と呼びかけ、死に場所をさがしてさまようという、いかにも太宰といった姿を太宰のような文体で書いていく。


 受賞できなかった芥川賞のパーティに潜り込み、「芥川賞とは、悪魔の食卓である!と叫んで繰り出した演説は反文壇的。太宰の“亡霊”の口を借りつつ、「いつまで、サロン遊びを、つづけるきだ」となれ合いを糾弾する。過去の人間の感性を借り、現代の社会や変化した文学を見る批評的な部分もある作品だ。


 続編『転生!太宰治2 芥川賞が、ほしいのです』ではツイッターを始め、映画『カメラを止めるな』を見る太宰を通して、現代の文化や社会が斬られる。次があるなら、新型コロナウイルス感染症のパンデミックで死があふれた現代を、その感性で斬る太宰を見てみたいが……。


 太宰とは名乗らずとも、太宰の転生ものとしか思えない漫画もある。野田宏原作、若松卓宏作画の『異世界失格』(小学館)だ。


『異世界失格』

 玉川上水のそばで、女性と心中しようとしてトラックにはねられ、目覚めると異世界に飛ばされていた作家が、すぐさま薬をのんで死のうとしたり、怪物に襲われて「グッド・バイ……」とやられるままに任せていたりする。


 ここでも本人は無力ながら、女神やネコ耳の少女が味方となって護り、敵と戦ってくれる。まさに太宰的。こうして多彩な作品世界に遍在している太宰治たちが一堂に会したら、同族嫌悪から互いを罵倒し始めるのだろうか。それとも連れだって心中しようとするのだろうか。そんな太宰バトルロイヤルがいつか、この太宰人気の中で見られたら楽しいに違いない。


■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。


■書籍情報
『太宰治、異世界転生して勇者になる 〜チートの多い生涯を送って来ました〜』(オーバーラップノベルス)
著者:高橋弘
イラスト:VM500
出版社:オーバーラップ
出版社サイト


『文豪ストレイドッグス』
原作:朝霧カフカ
漫画:春河35
出版社:KADOKAWA
出版社サイト


『転生! 太宰治 転生して、すみません』
著者:佐藤友哉
イラスト:篠月しのぶ
出版社:講談社
出版社サイト


『異世界失格』
原作:野田宏
作画:若松卓宏
出版社:小学館
出版社サイト


このニュースに関するつぶやき

  • 気になってたけれどそういう話だったんだ。転生系の漫画、最近本当に多い。死ぬ前にやり込んでた乙女ゲーの異世界の悪女に転生した〜って漫画沢山あるよ
    • イイネ!1
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