グループ魂による“激しくておもしろくて切ない”世界 理由なき前向きさ生む『神々のアルバム』の醍醐味

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2020年12月29日 12:01  リアルサウンド

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グループ魂『神々のアルバム』

 グループ魂が5年ぶりのフルアルバム『神々のアルバム』をリリースした。


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 シングル「もうすっかり NO FUTURE!」、峯田和伸(銀杏BOYZ)が作曲した「モテる努力をしないとモテないゾーン」など全14曲+5コントを収めた本作は、結成25周年記念にして、破壊(Vo)&暴動(Gt)の50歳記念アルバム。メンバー全員がアラフィフになり、いろんなところで加齢を感じながらも“それでもモテたい! おもしろいことしたい! いろいろヤリたい!”という欲望を1970〜1980年代のパンクロックを軸にしたバンドサウンドとともに放ちまくる「これぞグループ魂!」な充実作だ。


 破壊(阿部サダヲ)、暴動(宮藤官九郎)、バイト君(大道具/村杉蝉之介)の3人で1995年に結成されたグループ魂。その後、小園(Ba/小園竜一)、石鹸(Dr/三宅弘城)、遅刻(Gt/富澤タク)、港カヲル(46歳/皆川猿時)が加入、バンドスタイルに移行し、2002年にアルバム『Run魂Run』でメジャーデビューを果たした。暴動が手がけるギャグと下ネタ満載の歌詞とコント、1970〜1980年代のパンク、邦楽ロックをルーツにしたサウンド、そして、役者ぞろいのメンバーによるパフォーマンスによって人気を得たグループ魂は、2005年に『第56回NHK紅白歌合戦』に出演、2011年に日本武道館公演、2017年にフジロックのメインステージ(GREEN STAGE)に登場。結成当初は、大人計画の若手俳優による企画モノだったのだが、バンドマンの憧れである“紅白、武道館、フジロック”をすべて叶えたバンドとなった。


 どんなに有名になっても、どれだけの称号を手に入れても、くだらなさ、おもしろさ、品のなさがグループ魂のすごさ。それを象徴しているのが、本作『神々のアルバム』に収録されている「モテる努力をしないとモテたいゾーン」。2005年リリースの3rdアルバム『TMC』収録の「モテる努力をしないでモテたい節」にインスパイアされた楽曲だ。


 「モテる努力をしないでモテたい節」は、題名通り、“モテる努力、チューする努力、ヤレる努力をするのはカッコ悪い”という、こじらさせたプライド(?)を爆音で鳴らしまくるアッパーチューン。当時のメンバーは、30代半ば(バイト君は40歳)。“俺はまだまだ若いぜ、何もしなくてもモテるんだぜ”という歌が似合うお年頃だった。


 しかし今回の「モテる努力をしないとモテないゾーン」では“努力しないでモテたい”とカッコつける余裕がなくなり、〈モテる努力をしないとモテないぞ 令和!令和!〉と叫ぶ。アラフィフになってもモテたいんじゃあ! という切ない思いは曲の後半に向けてどんどんエスカレートし、最後は〈心臓が止まる 1秒前までモテたいです!〉というシャウトに至る。中年男性の願望、妄想、煩悩をネタにし、爆笑のカタルシスをもたらす「モテる努力をしないとモテないゾーン」は、まさにグループ魂の真骨頂。破壊、峯田の〈もっとグイグイ来い!もっとグイグイ来い!〉のハイテンションなボーカルも文句なくカッコいい。


 「Over 50 めんどくさい」も、“加齢”をテーマにした曲。2002年のアルバム『Run魂Run』収録の「Over 30 do The 魂」のアラフィフ・バージョンだ。「Over 30 do the 魂」では〈「40過ぎてもシコるよなあ」〉と歌っていたのだが、今回は〈愛より エロより めんどくさいが勝つ〉。〈少年のリビドー 老人のボディ〉というパンチラインにも笑わせてもらったが、この徹底したウソのなさもパンクだ。


 その他にも「昼も蕎麦だった」「それでも生きなきゃ死んじゃう音頭」「痛風だけど恋愛したい」なども、50代ならではの“おもしろくて、やがて悲しき”状態の楽曲だが、一方でこのアルバムは、パンクロックバンドとしてのグループ魂のまったく枯れることのないパワーが感じられる作品でもある。前作『20名』(「津川雅彦」「彦摩呂」など全曲“人名”タイトルによるアルバム)では幅広い音楽性を取り入れていたが、今回はシンプルなパンクロックに回帰。1970〜1980年代の洋邦のパンクロック(つまりメロディックパンク以前のパンクです)を軸に、いなたさと鋭さを兼ね備えたサウンドを体現している。破壊こと阿部サダヲのボーカルも絶好調。ジョン・ライドン(SEX PISTOLS)のような巻き舌や近藤房之助ばりのソウルフルなシャウトを交えながら、“激しくておもしろくて切ない”グループ魂の世界を生々しく描き出している。


 名作コント「中村屋」の新作「助演男優賞」(フリーアナウンサー・幸坂理加の演技も聴きどころ!)などコントもたっぷり。くだらなさ、情けなさ、どうしようもなさを笑い飛ばすパンクロックを聴いているうちに、「いろいろあるけど、まあ大丈夫じゃない?」という理由なき前向きさが生まれてくる。これが本作『神々のアルバム』の醍醐味であり、グループ魂の最大の魅力なのだと思う。いや、マジで。(森朋之)


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