楽勝ではなかったメルセデス陣営。13人が表彰台に乗ったエキサイティングなシーズン/2020年レビュー(1)

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2020年12月30日 08:11  AUTOSPORT web

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2020年F1第14戦トルコGP表彰式 ルイス・ハミルトン(メルセデス)、トト・ウォルフ(メルセデス チーム代表)、セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)、セルジオ・ペレス(レーシングポイント)
わずか6カ月の間に17戦を戦い抜いた2020年シーズンのF1。メルセデスがコンストラクターズ選手権で7連覇を達成し、ルイス・ハミルトンは最多タイ記録に並ぶ7度目のタイトルを手にした。

 メルセデスとハミルトンが圧倒的な実力を見せつけた一方で、今年はF1初優勝を挙げたドライバー、あるいはF1で初めて表彰台を獲得したドライバーが誕生したりと、表彰台の顔ぶれに変化があった。そしてF1直下のFIA-F2では角田裕毅が躍進し、2021年のF1デビューを決めた。この半年の間に様々な話題があったが、そんな2020年シーズンをF1ジャーナリストの米家峰起氏が振り返る。

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 2020年シーズンはとにかくルイス・ハミルトン(メルセデス)が記録を更新し続けた1年だった。

 ミハエル・シューマッハーに並ぶ7度目のドライバーズタイトル獲得を筆頭に、優勝回数でもシューマッハを抜いて95回まで記録を伸ばした(シューマッハは91回)。表彰台回数165回(同155回)、入賞回数でも229回(同221回)と史上最多を更新し、ポールポジション獲得は98回まで伸ばした。

 これら史上最多記録の更新と17戦11勝という記録が物語るように、2020年はハミルトンの圧勝だった。しかしそれが楽勝のように見えて実際にはそうではなかったこともまた事実だった。

 第14戦トルコGPの難しいコンディションのなかでは、誰よりも巧みにタイヤマネージメントをやり遂げ、攻守のメリハリの効いたドライビングで下位から追い上げて勝利をもぎ取った。ポールポジションから独走して勝てるのは、マシンの速さのみならずこうしたマネージメント能力を遺憾なく発揮しているからだということだ。ポールポジションからスタートすればそれが見えづらいが、トルコGPのような展開では彼が普段のレースでいかに巧みなドライビングとレースの組み立てをしているかということがはっきりと見えた。

 その一方で、新型コロナウイルス感染から復帰した第17戦アブダビGPではマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)とバルテリ・ボッタス(メルセデス)には遠く及ばず3位に終わった。体調が完璧でなければハミルトンらしいレースができないということは、それだけ普段のレースでは高いレベルで身体能力を発揮している、そうでなければあのような独走劇は演じることができないということだ。

 メルセデスAMGのマシンもチーム力ももちろん素晴らしかった。しかし最終戦アブダビGPの決勝フィニッシュ直後にピーター・ボニントンが「1年間を通して苦しみ続けたけど、僕らは良くやった」と無線で述べたとおり、実際には外から見えるほど完璧なクルマでもなければ、楽勝のシーズンでもなかったということだ。

 アブダビGPではタイヤの温度を上手く管理できず、予選でも決勝でもフロントタイヤが機能せず回頭性が発揮できずに大不振に陥った。実は2020年型W11は2019年型に比べると低速域での回頭性というアドバンテージは小さくなっており、フロントタイヤに厳しいサーキットでは苦戦を強いられてきた。

 第4戦イギリスGPの左フロントタイヤバーストや翌週の敗北がその好例だが、バルセロナやスパ・フランコルシャン、ムジェロ、ニュルブルクリンク、アルガルベ、イモラ、イスタンブールパークのようにフロントリミテッドのサーキットではレッドブルとの差が小さくなり、ボッタスも苦戦する傾向にあった。

 それを上手く対処し勝ち星を拾ってきたのがハミルトンだった。外からは楽勝に見えたが、誰よりも努力し成果を上げたからこその11勝と幾多の記録更新だったこともまた事実であり、名実ともに史上最強のF1ドライバーと認められてしかるべき走りを見せたシーズンだった。

■ふたりの初優勝、3人の初表彰台、13人の表彰台登壇

 2020年はピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)とセルジオ・ペレス(レーシングポイント)が初優勝を挙げ、アレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)とランド・ノリス(マクラーレン)、エステバン・オコン(ルノー)が初表彰台を獲得するという初記録尽くしでもあった。

 20人のレギュラードライバーのなかで実に13名が表彰台に立ったという記録からも、波乱の多い激動のシーズンだったことが分かる。メルセデスAMG独走で退屈だと言われた一方で、2番手・3番手争いがこれだけ波乱に満ちたシーズンというのも珍しく、充分にエキサイティングだったと言える。

 ただしそれは“3強チーム”の一角であるはずのフェラーリが大ゴケし、レッドブル・ホンダも1台しか上位争いに加わることができなかったという状況によるところが大きかった。つまり例年なら“上位6台”がほぼ確定の状況なのに対し、今シーズンは常にトップ争いをしているドライバーが3人しかおらず、そのうち1人でも躓けば中団グループトップのドライバーに表彰台のチャンスが巡ってくるわけで、だからこそ13人ものドライバーが表彰台に立つという結果になったわけだ。

 ただ、トップと中団グループの差がこれまでになく縮まっていたからでもある。トップが躓けば中団に喰われてしまうくらいの余裕しかなく、僅かなミスでも犯せば無傷で表彰台に立てるような余裕はなかったということだ。

 その最たるものがガスリーとペレスの初優勝だ。トップが大きく躓けば中団グループに優勝のチャンスが巡ってきて、なおかつそのチャンスを最後まで守り切るだけの速さが中団グループにあった。メルセデスAMG独走ばかりが批判されたが、実際にはトップと中団グループの差はこれまでになく縮まり、激戦のシーズンだったと言えるだろう。

■FIA-F2でトップのクラスの実力を誇った角田裕毅

 日本のファンにとっては間違いなく、角田裕毅の活躍は2020年シーズンの最も大きなトピックのひとつだっただろう。

 4回のポールポジションを獲得し、レース1の結果だけを抜き出せば獲得ポイント数はトップだったということからも、純粋な速さとレースの巧さという点では今シーズンのFIA-F2選手権のなかでトップの実力を持っていたことは間違いない。

 ただし、それも最初からそうだったわけではない。開幕当初はまだタイヤマネージメントが完成されていたわけではなく、タイヤを使い切るという点で手探りのレースをしていた。攻めすぎた末に他車と接触することもあり、未完成の部分はあった。

 しかしシーズンを経るなかで大きく成長し、純粋な速さだけでなくタイヤマネージメントも身につけてメリハリの利いたレースができるようになった。

 特に終盤のレースがそうであったように、守るべき場面ではタイヤマネージメントに徹し、攻めるべき場面では残しておいたグリップを最大限に使って攻めるレースができた。コース上のバトルについても、相手の動きをよく見て瞬時に判断を下し一発で仕留める生まれ持っての感性があるだけでなく、そこに至るまでいくつも前のコーナーからチャンスを組み立てていく冷静さも持ち合わせていた。

 バーレーンラウンドの予選ではF1昇格のプレッシャーから責めすぎてスピンを喫するというミスを犯してしまったが、レース1で最後尾から6位まで追い上げる見事なレースを見せた。そして最終サクヒールラウンドではポール・トゥ・ウインで完璧なレースをやり切った。

 シーズンを通した成長という点でも、シーズン閉幕時点での純粋なパフォーマンスの高さでも、角田裕毅は2020年のFIA-F2で最高のドライバーであることは間違いなかった。FIAのルーキーオブザイヤーに選ばれ、F2の年間表彰式でもひっきりなしに様々な賞を表彰されたことからも、日本人であるという贔屓目なしでも素晴らしい評価を得たことは間違いない。

 彼の戦績やコメントだけを見れば、来たる2021年シーズンに期待が大きく膨らむのは当然だ。ただし生身の彼に接してきた者としては、コクピットから降りればまだ幼さも残る人なつっこいひとりの若者でもあると感じられるし、前述の通り今季もいくつもミスを犯しては成長を繰り返してきた、成長の途上にあるドライバーだとも思う。

 だからこそ、彼がパーフェクトなドライバーであるかのような評価の仕方や期待の寄せ方が急に広がってきた持て囃し方には違和感を覚えるし、彼自身が語っているようにF1デビューを果たしてからも攻めてミスをしてそこから学びながら成長していく過程を見守りながら応援していくべきなのではないかと思う。

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(2)に続く

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