吉岡里帆の“癒しの笑顔”はアートになり得るーー写真集『里帆採取』で見せた表現力

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2021年01月10日 10:11  リアルサウンド

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『吉岡里帆写真集 里帆採取 by Asami Kiyokawa』

 吉岡里帆の2nd写真集『里帆採取 by Asami Kiyokawa』。アーティストの清川あさみがクリエイティブディレクションを担当し、熊谷貫、三瓶靖友といったタイプの違う二人のカメラマンが吉岡里帆の本質的な姿を丁寧に撮り下ろした作品だ。吉岡里帆が大ファンだという詩人・最果タヒによる吉岡里帆にあてた詩も一篇収録されており、一冊を通して色彩や言葉の表現に終始心動かされる。


 清川あさみは代表作『美女採集』で、広末涼子や吉高由里子、AKB48などの美女、またアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』に登場するキャラクター・綾波レイのような二次元の美女をも作品にしてきた。清川あさみの表現には、女性に対するリスペクトや希望が感じられる。本作でも、撮影前の絵コンテを細かく書き上げ、吉岡里帆の表現を全面的にプロデュースしているが、表現に対して真っすぐな吉岡里帆が身を委ねられたのも、清川あさみの表現姿勢へのリスペクトとプライベートでの親交の深さがあったからではないだろうか。グラビアとして、アートとして。女優・吉岡里帆とは。その本質的な部分を一つ一つ採取したくなる。


いつまでも変わらない無垢な笑顔

 本作は3つのチャプターで構成されており、チャプター1は川をメインに自然のなかで撮影されたグラビアが掲載されている。吉岡里帆の出身地である京都府は、鴨川や桂川など大きな川が流れる地域であり、彼女の実家もまた川の近くにあるという。そのことから、水が感じられる「自然」のなかで撮影することとなったようだ。


 チャプター1のカメラマンは、デビュー間もない頃の吉岡里帆のグラビアを撮り下ろしたグラビアカメラマンの巨匠・熊谷貫。グラビア、女優とキャリアを積み重ねた吉岡里帆ではあるが、清川あさみのディレクションと熊谷貫の誠実な光のある写真が交わることで、グラビアを始めた当初と変わらない無垢さが見られるような気がする。逆に、余裕のある伸び伸びとした姿勢も印象的で、あの頃とは違う落ち着きが見られるのも面白い。


 短い丈の白シャツにショートのデニムパンツ。ラフでシンプルな衣装も、吉岡里帆の体形にすっぽりハマっていて、唯一無二の衣装のように見える不思議。また、黄色いワンピースの下に白ビキニを着て川遊びを楽しむシーンでは、楽しさのあまりいつの間にかワンピースを脱いでいたと本作内のインタビューで語っており、天気の良さも相まって、非常にパワーのある絵に仕上がっている。太陽の反射によってキラキラ輝く、純白のビキニと川。普段はいち女優として、着々と大舞台へと駆け上がっていく逞しい背中を見せているが、グラビアのなかでは、いつまでも近い距離で屈託のない笑顔を見せてくれている。そんな変わらなさも彼女の魅力。何年経っても、等身大の笑顔でそばにいてほしいと願ってしまう。


吉岡里帆の繊細で豊かな内面

 チャプター2は表紙に使われているカットを含む、清川あさみの代表作『美女採集』を彷彿とさせるスタイリングが続く。カメラマンはビューティー誌での撮影が多い三瓶康友が担当。すっきりとしたライティングで、吉岡里帆の潤いと艶をシンプルに写している。


 目元や頭に花を飾ることで、吉岡里帆自身が1つの花となる。繊細だけど、内から溢れるオーラはカラフルだ。喜怒哀楽には属さない複雑な感情にもしっかり向き合い形にする。感情に正直で、些細な動きも見逃さない。その表現には、ただ美しいという言葉で形容するには収まりきらないほどに、吉岡里帆の感性が詰まっている。視覚的な豪勢さにただ惚れ惚れするけれど、その豪勢さと一体化して伸び伸びポーズをとる吉岡里帆の体現する力も侮れない。


 冒頭でも述べた通り、清川あさみの『美女採集』は女性へのリスペクトと希望に溢れている。それは吉岡里帆に対しても同じだ。吉岡里帆の繊細な心、癒しの笑顔、真面目さを汲み取って、見事にアートに落とし込んでいる。チャプター1のような自然体の表情も魅力的だけれど、内面に触れて、着飾って、ライトを浴びて魅せる表情に、吉岡里帆は表現の人なんだと改めて実感する。


 また、花や植物などの装飾なしに、ただブルーバックに立つ吉岡里帆を写したカットもある。花や植物のような鮮やかな一面もあれど、どちらかというと吉岡里帆は水のような存在なのかもしれない。取り巻く環境に合わせて形を変えて、周囲に溢れる才を潤わせていくような。チャプター2全体を通して、吉岡里帆の内面的魅力をファッションとアートで表現されているように感じ、より彼女の真っすぐさに触れられた気がした。


演じる人・舞台に立つ人

 吉岡里帆の本業は言わずもがな女優である。地元の小劇場で見た舞台に影響を受けて以降、「演じること」に興味を持ち、当初は独学で芝居を勉強していたという。明るい癒しの笑顔を見せる彼女だが、ストイックで熱い一面も持っている。


 チャプター3の冒頭は、詩人・最果タヒの詩「わたし」から始まる。吉岡里帆に対して純粋に好きな気持ちを向けたくなる感情に共感するし、吉岡里帆を介さずとも優しく心に響く言葉が連ねられているので、ぜひ実際に写真集を手に取って読んでもらいたい。チャプター1で見せた無垢な笑顔と、チャプター2で見せた繊細な内面。そして舞台に影響を受け、真っすぐ努力を重ねた「演じること」への熱い思い。最果タヒの詩が、写真とともに吉岡里帆の生き様と人柄を立体的に伝えてくれているようだ。


 続くページでは、大きなコンサートホールの階段をゆっくり上がっていく吉岡里帆の姿が。詩がひっそり頭の中をこだまする。ふわりと下ろされた髪のせいだろうか。そこにいる吉岡里帆は、舞台に憧れる少女のようでもあるし、舞台に立った記憶に思いを馳せる人のようでもある。そして観客席に座る姿からは、純粋に芝居が好きだという「好き」の軸がハッキリと見える。幕が上がる前、期待から高揚する気持ち。幕が閉じた後、余韻からさらに高揚する気持ち。演じる人になっても、その感覚はずっと変わらないのだろう。


 3つのチャプターで構成された写真集のラストを飾るのは、舞台に立つドレス姿の吉岡里帆。スポットライトが似合う。やっぱり吉岡里帆は、舞台の人で、演じる人なんだ。自然に触れる明るい表情と、内面を投影したようなアート表現と、女優としての職業を全うする真剣なまなざしと。今の吉岡里帆の真っすぐさを、あらゆる角度から感じることができる写真集。言葉では言い表せられないような不確かで繊細な魅力。その不確かな部分に確信を持てた気がする。これが『里帆採取』。出会えてよかった。読後の余韻が、とてもあたたかい。


■とり
日々グラビアに勇気と希望をもらって生きており、 グラビアを熱くドラマチックに語るのが趣味。 読んだ後に心が豊かになるような文章を心がけています。 好物はカレーとサーモンです。Twitternote


■書籍情報
『吉岡里帆写真集 里帆採取 by Asami Kiyokawa』
著者:吉岡里帆
監修:清川あさみ
写真:熊谷貫
写真:三瓶康友
定価:本体2,300円+税
出版社:集英社
公式サイト


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