Go To イベントは5万円でたった2千円の還元!? ぴあ社長の危機感

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2021年01月23日 11:35  AERA dot.

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写真矢内廣 (撮影/写真部・高野楓菜)
矢内廣 (撮影/写真部・高野楓菜)
 ぴあ創業者で社長の矢内廣さん。エンタメ業界の代表として、コロナ禍で大打撃を受けている窮状を訴えるものの、その声は政府になかなか届かず、作家・林真理子さんとの対談でも「このままでは業界が成立しなくなる」と強い危機感を訴えました。

【矢内廣さん(左)と林真理子さんのツーショット写真はこちら】

*  *  *
林:矢内さんは、私が幹事長をしているエンジン01(文化人のボランティア団体)の副幹事長と事務局長で、私も矢内さんがおやりになっている「チームスマイル」(東日本大震災後のエンタメを通じた復興支援活動のための一般社団法人)の理事をやらせていただいて、日ごろから親しくさせていただいてますが、あらたまってお話するのは初めてかもしれないですね。

矢内:ええ、そうですね。

林:正月早々、コロナの話題で気が重いですが、矢内さんはコロナが出始めた去年の3月でしたか、安倍前総理のところに行って「このままだと日本のエンタメ業界は大変なことになります」と訴えられたそうですね。そのとき安倍さんはなんとおっしゃったんですか。

矢内:そのときの模様は、口外しないことになってるので、話せないんです(笑)。

林:でも安倍さん、もう辞めちゃってるんだし(笑)。

矢内:政府の偉い方と話していると、最初に「損失補填は税金ではできません」と言われるんです。「えっ?」と思うんですけど、そうじゃない例は過去にいくつもあるんですよ。例えば、かつて産業再生機構が扱ったいくつかの大企業の例や、リーマンショックのあとの銀行もそうですよね。最近の大手航空会社の例もそうですし、いずれも経営がうまくいかなくなって経営破綻した結果、公的資金、つまり税金を注入されたわけです。だけど、「エンタメ業界の損失補填は税金ではできません」とおっしゃる。私たちは政府の自粛要請に応えているわけですよ。

林:はい、そうですよね。

矢内:これは費用であって損失ではない。その費用は政府が補償するのが正当な考え方だと思いますよ。それを申し上げてるんですけれども、どうもご理解いただけないんですね。

林:それはつらいですね。

矢内:今回のコロナの最初のころ、ヨーロッパの政治家たちは「芸術文化は人間生活に必要なものだ」と明言していますが、そういう認識が日本の政治家たちは薄いなと思いますね。

林:旅行業界の声は政府に届くのに、エンタメ業界の声が政府に届かない一つの要因として、「業界として、国会に議員を送り込んでいないからだ」という声もありますね。

矢内:業界の声がちゃんと政府に届いてないことは事実です。芸術文化、エンターテインメントの世界の人たちは、政府におもねることがあってはいけないという大原則でやってきた経緯がありますから、政治の世界に自分たちからアプローチしてこなかったんです。

林:なるほど。「好きなことをやってるんだから仕方ないじゃないか」という声もあって。

矢内:残念ながらそういう見方をされる方もいます。でも、小説の世界もそうだし、芸術文化、エンターテインメントがどれだけ多くの人たちの心の支えになっているか。エンターテインメントは、励ましたり勇気づけたりする力を間違いなく持ってるわけですよね。

林:そうです。エンタメ業界にも、実際にいろいろと弊害が出てるわけでしょう? わりと有名な俳優さんたちも、CMをやってる方以外は大変みたいで、裏方の人は田舎に帰る人も多いと聞いてます。

矢内:そうなんです。このままだと、この業界を支えているたくさんのフリーランス契約の個人事業者たちがやっていけなくなり、コロナが収まってもライブ・エンタメ業界が成立しなくなることを心配しています。追い打ちをかけたのが大晦日の電車の終夜運転の中止で、カウントダウンイベントも軒並み中止。しかも、ロック系、ポップス系のコンサートは、入場制限がキャパシティー50%、上限5千人という設定で、コンサートがビジネスとして成立しないから、ほとんど開催されず、対象となるコンサートそのものが存在していません。これらの制限も、去年の11月で外れる予定だったのが、3カ月延長されて今年2月までになりましたからね。

林:三枝(成彰)さんなんて、ヤケになって「クラシック音楽は滅びるぞ!」とか言って。

矢内:「もうやれない」と思ってる人はたくさんいます。政府は一方でイベントの入場制限を延長してコロナを抑えようとして、もう一方で経済復興のためGo To トラベルで消費の喚起をしようと、二刀流で対応しようとしています。この考え方は理解はできますが、それならそれに対応した予算をつけてほしい。私はGo To トラベルは、経済再興としてこれはこれでいいことだと思うんです。そのために2兆1千億円ぐらいの予算を組んで、旅行費用の35%がキャッシュバックされて、15%はクーポン券として地元で使えて、合計50%戻ってくるという非常に手厚い内容ですが、それに比べると、ライブ・エンタメ業界に対する政府の支援は非常に微々たるもので、1800億円ぐらいのあまりに貧弱な予算なんです。

林:そんな程度なんですか。

矢内:Go To イベントも始まりましたが、これも不発です。消費者への還元は、チケット1枚につき上限2千円なんですよ。旅行で5万円使えば2万5千円戻ってきますが、5万円のオペラのチケットを買っても2千円しか戻りません。Go To トラベルであれだけ手厚い補償をしてるんだから、ライブ・エンタメ業界にもちゃんと補償をしてほしいと思いますね。ライブ・エンタメ業界のマーケットは9千億円ぐらいあるんですが、ぴあ総研の調べでは8割が棄損します。年間売り上げが8割なくなったら普通潰れます。私は、ライブ・エンタメ業界がほとんど補償のないまま、政府の感染拡大防止策のスケープゴートにされていると思ってます。

(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)

矢内廣(やない・ひろし)/1950年、福島県いわき市生まれ。72年、中央大学在学中にアルバイト仲間とともに雑誌「ぴあ」を創刊。74年、ぴあ株式会社を設立し代表取締役社長に就任。84年、オンラインによる日本初のチケット販売サービス「チケットぴあ」をスタート。オリンピックなど世界規模のイベントのチケット販売も多数手掛ける。また、77年から「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」の開催を続けるなど、文化支援活動にも力を注ぐ。2003年、東証1部上場。一般社団法人日本雑誌協会常務理事、公益財団法人ユニジャパン評議員、公益財団法人新国立劇場運営財団評議員なども務める。

>>【後編/ぴあ社長・矢内廣「地方のコンサートは減るかも」 コロナ後のエンタメ業界は…?】へ続く

※週刊朝日  2021年1月29日号より抜粋

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