驚異的な好決算をもたらしたiPhone 12の変化 - Apple決算を読む(1)

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2021年02月04日 07:11  マイナビニュース

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Appleは2021年1月28日、2021年第1四半期決算(2020年10〜12月)を発表した。売上高は1114億3900万ドル(約11兆7000億円)で、前年同期比21.4%増。四半期決算として1000億ドルを突破する記録的な数字となった。新型コロナウイルスについては「記憶に残るなかで最も厳しい環境だった」と決算発表の電話会議でも指摘するなか、Appleはあらゆるカテゴリーで2桁成長を記録し、アナリストの予測を上回る結果となった。

この好決算は、なんといってもiPhone 12の好調ぶりが大きな要因となった。

過去最大を記録すると予測された理由

iPhoneは引き続きAppleの売上全体の主軸であり、2021年第1四半期も655億9700万ドル(6兆8840億円)の売上となった。前年同期比17.2%増で、非常に力強い需要があった。iPhoneが四半期決算でこれだけの増加を記録すること自体が珍しいが、その理由は販売のタイミングにあった。

iPhone 12は、例年より1カ月遅い10月から6.1インチのiPhone 12とiPhone 12 Proを販売開始し、11月に第2弾となるiPhone 12 miniとiPhone 12 Pro Maxが登場した。過去にも、iPhone 8シリーズとiPhone Xを発売した2017年、iPhone XSとiPhone XRを発売した2018年と、2度に分けてiPhoneのラインアップを送り出した年はあった。

2020年が例年と異なっていた点としては、第1弾の発売が9月中に行われなかったことが挙げられる。Appleは9月末締めで、毎年の第4四半期決算と会計年度の締めが設定されている。例年、9月下旬に販売を始めるiPhoneの新モデルは、今回であれば本来2020年第4四半期に発売時の初速の売上高が含まれるはずだった。

しかし、2020年会計年度中にiPhone 12は発売されず、10月に入ってからの発売となった。そのため、2021年第1四半期決算に、iPhone 12発売の初速からホリデーシーズンの売上まで、最も販売が盛り上がるタイミングのすべてが含まれる結果となった。そのため、他のカテゴリとは異なり、iPhoneはスケジュール的に売上高が最大化する要因が用意されていたのだ。

「スーパーサイクル」

iPhoneは初代モデルから、2年縛りで450ドルを割り引く販売方式、いわゆる「2年縛り」を米国で実践し、2年に1度という買い替えサイクルを作り出してきた。しかし、米国でもSIMロックフリーをうたうT-Mobileの台頭や、本体の下取り制度の充実、Apple Storeが1年ごとに端末を乗り換えられる「iPhone Upgrade Program」を展開するなど、年を追うごとに購入パターンも変化してきた。

2年縛りが緩むタイミングでiPhone自体の高性能化も進み、またiPhoneの下取り価格が毀損しにくい事情もあり、買い替えのサイクルは2.5年や3年と長期化しつつあった。「iPhoneの魅力不足」が中国市場で叫ばれ、販売台数が非常に大きな下落を迎えていた時期とも一致する。

AppleはiPhone 12を送り出す際、5.4インチの非常にコンパクトなiPhone 12 miniを用意した。これは、4.7インチサイズの旧iPhoneを使っているユーザーを、最新モデルのiPhoneに振り向かせたいという意図があったことからも分かる通り、iPhone 6で大きく拡がったユーザーを、今一度最新iPhoneに振り向かせるための戦略モデルであったことがうかがえる。

そこで、AppleはiPhone 12シリーズに対して、次のような「変化」を用意した。

5G対応
新デザイン
新しいサイズ展開(5.4インチ、6.7インチ)
カメラの改良(f1.6の広角カメラ、iPhone 12 Pro Max向けの特別な広角カメラ)
MagSafeという新しいフォームファクター

こうして、iPhone 12シリーズは久々に「新鮮さ」「新しさ」を演出し、買い替え需要を喚起させた。発売タイミングの遅れも相まって、こうしたiPhone戦略が狙い通りに実現した、あるいはそういう演出となった、といえる。これまでの2年の買い替えサイクルが不明瞭になる中で、販売の山である「スーパーサイクル」を作ることができた点は、今回のAppleの決算の一つのハイライトといえる。

iPhoneのインストールベースは10億台

Appleは、サービス部門の成長の原動力として、どれだけのデバイスが稼働しているかを表す「インストールベース」の数字を発表するようになった。2021年第1四半期におけるiPhoneのインストールベースは、ついに10億台を突破したという。

詳しくはサービス部門の数字で触れるが、サービス部門における「サブスクリプション」のユーザー数は6億2000万人に達し、2020年中に6億人を突破するという目標を前倒しで達成した。

iPhoneは力強い需要が続いているようで、在庫レベルは1年前に比べて縮小しており、引き続きiPhoneの販売は上振れしながら推移していくことが予測される。これも、スーパーサイクルにユーザーが順次応じていく結果といえるだろう。

その一方で、Appleは決算発表の電話会議で、気になる指摘をしていた。それは販売奨励金についてだ。質疑応答で販売価格の値引きについて聞かれると、顧客にも、キャリアにも、Appleにもメリットがあるとし、常に販売の助けになるとの考えを示した。

日本市場は、政府が乗り換えの促進による競争状態の維持を目指し、携帯電話会社による新規加入を伴う端末販売への大きな値引きが制限されるようになった。Appleが日本のiPhoneの販売環境について不満を持つ場合、Apple Storeや正規販売代理店、オンラインストアを通じた独自のキャンペーン施策に乗り出す可能性がある。(続く)

著者 : 松村太郎 まつむらたろう 1980年生まれのジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。Twitterアカウントは「@taromatsumura」。 この著者の記事一覧はこちら(松村太郎)

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  • 林檎の利益の柱はスマホを買うお金が無いから仕方なくMNO各社が無料で配っているiPhoneを使っている人たちだ。アメリカではそれが当分続きそうだが、日本ではまもなく終わる。
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