東海テレビの描く骨太人間ドラマ『その女、ジルバ』ヒットの背景

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2021年02月25日 17:00  ORICON NEWS

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写真東海テレビ・フジテレビ系オトナの土ドラ『その女、ジルバ』 (C)東海テレビ
東海テレビ・フジテレビ系オトナの土ドラ『その女、ジルバ』 (C)東海テレビ
 池脇千鶴主演の東海テレビ制作ドラマ『その女、ジルバ』(毎週土曜23時40分〜フジテレビ系)が「登場人物みんなが愛おしくなるドラマ」と、視聴者からの熱い支持を集めている。人生負け組の“シジュー(40歳)”娘と平均年齢70歳の高齢ホステスバーの熟女たちの織り成す、じんわりと心に沁みる温かな物語は、異色のキャスティングも含めて、今の時代のヒットの条件を満たすものとは言い難い。このヒューマンドラマがなぜ、今クール話題のドラマの1つに急浮上したのか。その答えは、開設から丸5年経つ「オトナの土ドラ」枠の連ドラ作りのモットーにあった。

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■作品の肝は40歳になった主人公が素直に成長し、変化していく姿

 『その女、ジルバ』で池脇千鶴が演じる笛吹新(うすい・あらた)は仕事も恋愛も上手くいかない40歳。「人生の残高がずっとマイナスのまま」と自分の人生を振り返り、老後に不安を感じている主人公だ。そんなアラフォー女性が、ふとしたきっかけで、パワー全開の高齢ホステスたちが働くBAR「OLD JACK&ROSE」で、新人ホステス「アララ」としてアルバイトを始める。視聴者がまるで自分事のように笑って泣いて共感を深めるその訳は、これまで数々の名演技を披露してきた池脇の見事な「さえない独身40女」っぷりによるところが大きい。
 
 遠山圭介プロデューサー(東海テレビ放送制作局東京制作部)が、「3年ほど前に原作に出合ったのですが、まず思い浮かんだのが池脇さんでした。おだんごヘアの主人公とイメージが重なり、オファーしたところ快く受けていただきました」と、キャスティングの経緯を明かしてくれた。

 原作は有間しのぶの同名タイトルの漫画で、マンガ文化に足跡を残した作品に贈られる「手塚治虫文化賞」の2019年のマンガ大賞に選ばれた作品である。池脇をはじめとする出演者は、原作ファンも納得のキャラクターイメージに沿ったキャスティングが必須であったため、役者の実年齢はキャラクターの年齢設定にほぼ重なるものとなった。草笛光子が演じる80代の「くじらママ」をはじめとする熟女ホステスたち、中田喜子、久本雅美、草村礼子、そしてマスター役の品川徹といった錚々たる面々の、酸いも甘いもかみ分けた滋味深い演技は後を引く。第2話のアルバムを見ながらBAR「OLD JACK&ROSE」の創業秘話をひもとくシーンでは、出演者の若かりし頃の写真が使用されるという憎い演出もあった。

 本ドラマにはそういった劇中のキャラクターに魂を吹き込むような演出が随所に散見される。「皆さん芝居達者な方々なので、端々で深みを感じてもらえるキャスティングになったと自負しています。“いつもはおばあちゃん役が多いけれど、こんなに着飾って、思い切りお芝居を楽しめるストーリーは今どき少ない”と楽しんでいただけているようです」と遠山プロデューサー。ある意味、既定路線から外れた異色のキャスティングとも言えるが、そのこだわりが、物語に活力を与えていると言えるだろう。彼らが演じる人生の先輩たちは、明るく軽やかで人生を楽しむ余裕すら感じさせる。その様子を目の当たりにして、池脇演じるアララと同様に視聴者も「40歳なんて、まだまだだ」と勇気をもらえるのである。

 一方、連ドラ化にあたって、原作と変更した点もある。それは、アララと同年代の“シジュー”娘たちの友情物語の描き方だった。原作では友達設定から始まるが、ドラマでは江口のりこ演じるスミレ、真飛聖演じるみかとの友情を育む過程が描かれた。その理由を、遠山プロデューサーは次のように説明する。

「40歳のオトナになってからの友情を築いていく様子を描きたいと思いました。原作者の有間さんの同意も得て、吉田紀子さんの素晴らしい脚本によってそれが実現しました。漫画原作を実写化する場合、そのまま描いてしまうと、漫画と映像表現とのギャップから連ドラ作品として成立しにくいことがあります。この作品の肝は40歳になった主人公が素直に成長し、変わっていくところにあると思いましたので、それを表現したいと考えました」

 主人公の再生には、熟女たちとの出会いはもちろんのこと、同年代の女友達との出会いも大事な糧となっている。はじめは気恥ずかしくも感じる、互いを「ちゃん」付で呼び合う関係性を丁寧に描いていったことで、視聴者の共感ポイントはさらに増した。これもまたリアリティが増幅する演出の1つである。

■60年近く変わらない東海テレビの骨太人間ドラマ作り

 本作が放送されている「オトナの土ドラ」枠が新設されたのは2016年春のこと。その年の3月に東海テレビ制作の昼の帯ドラマ枠が51年半の歴史に幕を下ろし、それに代わる形で春から週1放送の1時間の連ドラ枠がスタートした。第1弾はユースケ・サンタマリア主演のサスペンスドラマ『火の粉』で、後味の悪さが病みつきになると話題を集めた。以降、お得意のサスペンス・ミステリーから、『さくらの親子丼』(真矢ミキ主演)のようなホームドラマまで、様々なジャンルの作品が投入されてきた。
 
 現在、この土曜23時台では、よるドラ『ここは今から倫理です。』(NHK総合)、土曜ナイトドラマ『モコミ〜彼女ちょっとヘンだけど〜』(テレビ朝日系)も放送されており、ドラマ激戦区となっている。インターネット普及によるメディア環境も変化するなかで、今求められる連ドラ作りをどのように追求しているのかと尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「 “人間ドラマ”を描くという点は昼ドラの頃から基本的には変わってはいません」と言うのだ。「台本を作る時に先輩方から言われ続けたのは、『人間を描け。ストーリーの展開ではなく、人がどう変わって、動くのか』ということ。それが上手く反映できたと実感できた時は、視聴者からの反響が大きいですね」

 そういったドラマ作りの精神は、昼ドラ時代から60年近くにわたって東海テレビに脈々と受け継がれてきた。それが“オトナの土ドラ枠”に骨太の人間ドラマを描くというイメージを定着させ、固定ファンを獲得していった。本作が同枠の最高視聴率を記録するという好発進を切った背景には、そういった要素もあったものと考えられる。

 もう1つ、『その女〜』の人気の理由を付け加えるならば、観終わった後の幸福感だろうか。「謎を残して翌週に引っ張る形にはあえてせず、毎回満足感のある作りにしようと心がけています。1話毎にリアリティに軸を置きながらも、ファンタジー要素も加えることを意識しています。(アララたちが)倉庫で働いている現実があるからこそ、(BAR「OLD JACK&ROSE」の)扉の向こう側にはジブリやディズニーのような夢のような世界が広がり、そこに感動を持たせることができると思っています」と遠山プロデューサー。

 その最たるものが1話の描き方だった。主人公が置かれているどんよりとした現実描写に時間をかけることで、その後のストーリー展開の“タメ”を作った。ともすれば、視聴者が途中で観るのを止めてしまうというリスクがあり、連ドラのセオリーとは真逆のチャレンジだったわけだが、それを怖れずにシンデレラストーリーとしての感動を提供することにこだわった。

 伝統を重んじつつ、新たなチャレンジを加える。前述のリアリティ要素とファンタジー要素のバランスにも通じることだが、本作のヒットはそんな絶妙なバランスから生まれていると言えるのかもしれない。『その女〜』も最終話間近。早くもロス症状が出ることに不安を覚えるが、今後も東海テレビが伝統とする骨太の人間ドラマによって、視聴者を楽しませてくれるに違いない。
(文・長谷川朋子)
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