映画『あのこは貴族』は都会のお嬢様と地方出身の自立した女性の生き方を描いた傑作 / 友情ではなく認め合う女たち

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2021年02月27日 16:01  Pouch[ポーチ]

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【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは門脇麦と水原希子の初共演作『あのこは貴族』(2021年2月26日公開)です。山内マリコの同名原作の映画化作品。

結婚を焦るお嬢様と地方出身者で都会で懸命に生きる女性。別世界で生きてきたふたりが、あるきっかけで出会う物語です。試写で観たのですがとても良かったです!

主演の門脇さん、水原さんはじめキャスト全員がはまり役でした。ではストーリーから。

【物語】

榛原華子(門脇麦)は東京の上流階級に生まれたお嬢様。「女性の幸せは結婚」と信じていますが、華子はなかなか結婚ができず焦るばかり。そんなとき、義兄の紹介で弁護士の青木幸一郎(高良健吾)と運命の出会いをし、ふたりは結婚へと進んでいきます。

一方、地方から猛勉強の末に名門大学に入学して上京した美紀(水原希子)は、バイトで学費を稼いでいましたが続かず中退。大学の同期生であった幸一郎とひょんなことから再会し、ときどき会うようになります。

幸一郎という共通の人物をきっかけには別世界で生きてきた華子と美紀は出会い、それぞれの人生が、思いもよらない方へと走り始めるのです。

【ひとりの男をめぐる二人の女性を描いても爽やかな意外性】

箱入り娘の華子は、女の幸せ=結婚だと疑わないお嬢様。「いまどきそんな子いるのか?」と思ったけれど、映画を観ているとうなずけるんです。

華子は三姉妹の末っ子で、祖母と母がひいた完璧なレールの上を1ミリもずれることなく歩んできた女性。姉ふたりからも「華子はこうしたほうがいい」とヤンヤ言われ、もはや自分の意思など持たず、流れに身を任せた方が幸せだと思っています。

ところが華子が出会った「理想の王子様」の幸一郎は、華子と結婚しながらも大学時代の同期・美紀と関係を続けていました。これが偶然、華子の親友の逸子(石橋静河)経由でバレるんですね。普通ならここで「浮気!」とドロドロとした女のバトルが展開するところですが、そうならないのがこの映画の凄いところです。

【自分で人生を切り開いてきた美紀】

美紀は地方出身者で田舎の狭い人間関係に辟易していました。大学は中退したけれど、賢く社交的な彼女はバイト時代の人脈で就職を果たすなど、実家に帰らず、自力でステップアップしていった女性です。

美紀と幸一郎はつかず離れずの関係。幸一郎は、華子の前では仕事のできる一流の男の姿ですが、美紀の前では愚痴も言うし、気を抜いて素顔を見せています。

ただ幸一郎は良家の子息なので、結婚は家柄が絶対条件。だから華子を見初めて結婚したのです。美紀は「田舎の友達は親の人生をペーストして生きている」みたいなことを言いますが、良家の人々も似たようなもので、お金持ちの世界も田舎の人間関係も、狭い世界の常識にとらわれているように見えるのが本作の面白いところです。

【お互いを認め合う大人の関係】

華子は美紀と幸一郎の関係に最初こそざわめきますが、逸子が華子と美紀を会わせたことをきっかけにじっくり話すように。そのとき、華子は美紀が自分の意思で人生を突き進んできたことを知り、刺激を受け、心が動きます。

そして、彼女は自分の意思である大きな決断をすることになるのです。

華子と美紀は、仲良しの友達という関係とは違い、一定の距離を保っていますが、華子は美紀の生き方に希望を見出し、美紀は華子が歩んできた道を決して否定せず、華子にエールを送ります。

二人の間には、ベタベタしない大人の女性の関係が築かれつつあり、お互いを認め合う姿がとても気持ちよいんです。

【門脇さん&水原さんベストパフォーマンス】

門脇麦さんは、華子が自分の人生に疑問を抱き、心が外へ外へと動いていく感じを実に自然に演じており、華子の心がスクリーンを通して伝わってくるよう。これは門脇さんが華子を丁寧に演じきったからこそ!

水原希子さん演じた美紀は、たくさん傷ついてきたけれど、その傷跡さえパワーに変えてきた魅力的な女性で、水原さん以外演じられない役。美紀の生き方は多くの女性に勇気をもたらすと思います。

また高良健吾さん、華子の親友役の石橋静河さんも素晴らしかった! 高良さんは御曹司の品格があり、華子と美紀に見せる表情の微妙な違いなど繊細な演技が圧巻。石橋さんは華子と美紀を繋ぐきっかけを作る逸子役で、女性を縛る価値観を突破する強い意志を持った女性を好演していました。

すごく新しい息吹を感じさせる作品で、演出&脚本の岨手由貴子監督の素晴らしさも実感。私は映画を観た後、山内マリコさんの原作も読んだのですが、原作の核をしっかりとらえた脚色でもう本当に完璧!

アラサー世代にぜひぜひ観ていただきたい映画です!

執筆:斎藤 香 (C)Pouch

『あのこは貴族』
(2021年2月26日より、ヒューマントラストシネマ有楽町、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー)
監督・脚本:岨手由貴子
出演:門脇麦 水原希子 高良健吾 石橋静河 山下リオ 佐戸井けん太 篠原ゆき子 石橋けい 山中崇 高橋ひとみ 津嘉山正種  銀粉蝶
原作:山内マリコ「あのこは貴族」(集英社文庫刊)
配給:東京テアトル/バンダイナムコアーツ
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会

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