「孤高の俳優」石丸幹二 差別と冤罪の実話を描いた舞台で熱演

0

2021年03月07日 16:00  AERA dot.

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AERA dot.

写真延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー
延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー
 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。俳優・石丸幹二の使命感について。

【ミュージカル『パレード』に出演する石丸幹二さんの写真はこちら】

*  *  *
 端正な横顔に、知的で思慮深い眼差し。石丸幹二が『題名のない音楽会』の司会や、ドラマ『半沢直樹』『グランメゾン東京』『少年寅次郎』に出演するなどテレビ界でも活躍していることは知っていて、群れることをせず、孤高を保つイメージを持っていた。

 ここ数年、ラジオ対談番組(Grand Seiko 『THE NATURE O‌F TIME』TFM毎週土曜12時)でお付き合いしている。池井戸潤、神田伯山、小沢征悦、松尾スズキ、立川志の輔、藤井フミヤら多様なゲストを迎えるにあたって入念な下調べを欠かさず、内容を深く掘り下げるパーソナリティだ。

 劇作家で演出家の長塚圭史に勧められ、石丸が主演しているミュージカル『パレード』を観に、東京芸術劇場に行った。

 アメリカ南軍戦没者追悼記念のパレード当日、舞台には色とりどりの紙吹雪が舞い、いやがうえにも気分を高揚させる音楽が流れ、南軍旗が誇り高くはためいていた。主人公はニューヨークから移り住んだ実直そのもののユダヤ人の工場長。彼は記念パレードの最中に工場で働いていた13歳の白人少女を強姦し殺害した容疑で検挙される。

 早期解決を焦る州知事(岡本健一)の指揮により、華やかな祝祭で見せた市民の笑顔はドス黒く変質し、しまいに絞首台まで用意される。

 1913年ジョージア州アトランタで起きた冤罪事件を題材とする本作は、無自覚の差別や偏見、そこに生まれる人生の悲劇を余すところなく描ききる。

 主人公レオ・フランクは法廷での多くの嘘によって有罪となるが、ピュリッツァー賞受賞作家、アルフレッド・ウーリーによる戯曲とジェイソン・ロバート・ブラウンの音楽によるニューヨーク初演(1998年)は、人間関係がクモの糸のように絡みあう精緻な筋書きとミュージカルらしからぬ衝撃的結末が話題となり、トニー賞最優秀脚本賞、最優秀作詞作曲賞を受賞した。

 日本での初演はトランプ政権が誕生した年(2017年)だった。

 齢50を超えた石丸はミュージカル俳優として今後どう生きていくかを考え抜き、人種問題の溝と人間の業を身をもって表現する気概で初演に臨んだ。

 奇遇にも再演の今回はトランプの退場と重なったが、周知のようにトランプ政権は多くの傷跡を残したままだ。

「上演中、3日に一度はマッサージで体を解(ほぐ)した。それだけ大きなものを背負った」という石丸は、連邦議会議事堂に乱入したトランプ支持者が手にした南軍旗を報道で眺め、再演の嬉しさよりも、この旗の下で演技する重さと使命感を感じたと回想した。

 やるせなさの中、死に行く主人公に分断の哀しみを感じ、僕はサイモン&ガーファンクルの『アメリカ』を口ずさんだ。♪虚しい。どうしてだろう♪

 60年代末、泥沼化するベトナム戦争に揺れる母国を想う若者の呟きがアメリカの姿を象徴する曲だ。

 パレードという奇妙な明るさの奥底に横たわる近現代アメリカの闇の系譜を気づかせる別格のミュージカルだった。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞

※週刊朝日  2021年3月12日号

    ニュース設定