吉本興業から“報復”を受けた? ハラスメントに抗議して1人になった加藤浩次に、いま伝えたいこと

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2021年03月12日 00:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。

<今回の有名人>
「吉本興業さんのほうから『契約は延長しない』と言われまして」加藤浩次
『スッキリ』(日本テレビ系、3月10日)

 今、話題の卓球女子五輪メダリスト・福原愛の不倫報道。「女性セブン」(小学館)が、福原と一般男性の横浜デート、また高級ホテルに泊まったことを報じ、一方で「週刊文春」(文藝春秋)は、福原の中ですでに離婚を決意済みで、その原因は夫である台湾卓球五輪代表・江宏傑のモラハラだと、福原の肩を持つかのように思える報道をしている。なお福原本人は「一緒の部屋に泊まった事実はありません」と不倫関係については否定した。

 私は、このニュースに対するフリーアナウンサー・大橋未歩の反応が印象深かった。3月7日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ系)で、この話題を取り上げた際、彼女は「全力で愛さんを擁護しようと思って」と語り、その理由について「はっきりと本人が(不倫を)否定していますし」「愛さんにテレビ業界はどんだけのものをもらった?」と、彼女がテレビ界の功労者であることを挙げた。

 テレビ東京時代、スポーツニュースを担当していた大橋アナは、真冬でも下着なのかと思うくらい薄着だったし、『やりすぎコージー』などで自分の性癖を話すこともあるなど、どちらかというとお色気担当であったように、私は記憶している。それは上司の指示なのか、それとも本人の判断かは不明だが、最近の大橋アナは「料理は女性がするものという考えにドン引き」と話したり、東京五輪組織委員会の森喜朗元会長の「女性の入る会議は長くなる」「女性は競争意識が強い」発言に対し、『5時に夢中!』(TOKYO MX)で「私の中にも、ふかわさん(同番組MC・ふかわりょう)の中にも、みなさんの中にも森さんは住んでいると思うんですよ」と述べるなど、ジェンダーを意識したかのような発言が目立つ。

 彼女はこれまで、局にお色気キャラを押し付けられるセクハラを受けてきたが、時代が変わって、今は言いたいことを言えるようになったと思っているのかもしれない。もしくは、お色気で勝負できない年齢になってきて、「そもそもお色気で勝負しなければいけない社会の在り方が悪い」と開眼したのかもしれない。彼女自身、自らを「女性の味方であるフェミニスト」と思っているようにも感じるが、それで売っていくには、ちょっと中途半端ではないだろうか。

 というのも、彼女は福原の不倫問題について、「愛さんに、テレビ業界はどんだけのものをもらった?」と口にしていた。それはつまり、「業績がある人だから、ほかのことは大目に見よう」という業界最優先の考えだといえるだろう。こうした思考回路では、セクハラに抗議するどころか、セクハラが軽視もしくは放置されてしまうと思うのだ。

 誰もがハラスメントを含めた差別のない世界を望んでいるだろう。もちろん私もその1人だが、差別を一気になくすことは簡単ではないと思っている。なぜなら、たいていハラスメントには利権が絡んでいるから、構造そのものを改革しないとトカゲのしっぽ切りで終わってしまう可能性がある。また、ハラスメントを告発したことで、告発者が不利益を被らないとは言い切れない。もし告発した人がバカを見るようなことがあれば、誰もが口をつぐんでしまうから、ますますハラスメントはなくならないだろう。

 そういう意味で、私が注目していたのは、加藤浩次だった。

 2019年、闇営業問題で吉本興業を解雇された雨上がり決死隊・宮迫博之は、その後、自分で会見を開き、ロンドンブーツ1号2号の田村亮とともに吉本から圧力をかけられたと暴露した。2人はいち早く釈明会見を開きたかったが、岡本昭彦社長に「会見するなら、(闇営業に関わった芸人を)全員クビ」と言われたという。また、亮によると、会見を全編ネット配信したいという要望に対し、吉本側は「テレビ局の在京5社、在阪5社は吉本の株主だから大丈夫」と話し、テレビ局と吉本興業の“結びつき”の強さを示唆したそうだ。これはつまり、会見のネット配信を阻止し、吉本の意向に沿った内容をテレビ局に放送させる……という意味にも取れるだけに、宮迫と亮は吉本からパワハラを受けたと考えられる。

 そんな中、おそらくギャラの取り分なども含めて、吉本に思うことがいろいろあったのだろう、加藤は自身がMCを務める情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)で、岡本社長や大崎洋会長を批判し、この体制が変わらなければ「俺は吉本を辞める」と発言していた。ネットユーザーは加藤の発言を称賛していたような印象があるが、加藤は大崎会長と2人で話した結果、エージェント契約を結ぶことになり、吉本を辞めることにはならなかった。

 若い世代は特に、「不正に声を上げて、会社を変えていくべき」「声を上げれば、悪しき体制は変わる」と考えがちだろう。しかし、そうした世界を描いたドラマ『半沢直樹』(TBS系)が大ヒットするのは、現実社会に半沢直樹がいないからだ。

 一般人の世界でも、社員が大会社の会長を批判して、無傷でいられるわけがない。加藤は必ず“報復”されると思っていたところ、今年になって、彼のレギュラー番組『スーパーサッカー』『この差って何ですか?』(ともに同)が、この春終了することになった。また『スッキリ』の裏番組であるTBSの『グッとラック』は、まもなく終了し、その新番組のMCには、吉本興業の後輩、麒麟・川島明が抜てきされた。吉本が、加藤包囲網を作っているのではないかという記事もちらほら見られた中、3月10日放送の『スッキリ』で、加藤は「吉本興業さんのほうから『契約は延長しない』と言われまして」とはっきり発言したため、やはり彼は吉本に「切られた」ということだろう。

 エージェント契約にした加藤と吉本のギャラの取り分は「8対2」だといわれており、吉本からすれば、確かにこの契約ではうまみが少なすぎるのかもしれない。しかし私はそれよりも会社の見せしめ的なものを感じた。会長をテレビで批判するような加藤を放置すれば、第2、第3の加藤が生まれかねないし、そうすると、組織自体が崩壊する危険もあるだろう。一気に排除するとネットでいろいろ言われるので、時間をかけて実行したのではないだろうか。今のところ『スッキリ』は続くそうだが、この分だといつまで続くかはわからない。加藤は、会社のハラスメントに抗議した結果、組織を優先させたい吉本によって、窮地に立たされてしまったわけだ。

 闇営業問題に関しては、ダウンタウン・松本人志も「松本、動きます」とツイートして、称賛された。宮迫の代わりに番組に出たり、見えないところで吉本芸人に対していろいろと尽力したのだろうが、何がはっきり変わったのかは、一般人には伝わってこない。それは松本の能力不足ということではなく、上述した通り、利権が複雑に絡んだ業界というのは、そう簡単に壊せないからだと思う。

 「#MeToo運動」がSNSで世界的な盛り上がりを見せたが、ネットの意見が世の中の総意ではないし、仮に総意だったとしても、抗議する人の思うようにコトが進むかはわからない。だから、社会や組織に歯向かうなというのではなく、私は加藤の件も踏まえて「1人ではとても太刀打ちできないし、社会的な死が待ち受けている可能性もあるから、1人で戦うな」と言いたいのだ。まず同じ志を持つ人たちを探して、その人たちと団結する。事務所の庇護をなくして1人になった加藤も、再スタートを切るにあたり、まず信頼できるスタッフで周りを固めることから始めるといいのかもしれない。

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