『ザ・ノンフィクション』2万1,701人の、日本で就学不明の外国籍の子ども「ふたりの1年生 〜新米先生と海の向こうから来た女の子〜」

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2021年03月22日 21:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。3月21日は「ふたりの1年生 〜新米先生と海の向こうから来た女の子〜」というテーマで放送された。

あらすじ

 2019年4月に中国から東京の小学校に転校してきた1年生のナイヒ。クラス担任は教師になって1年目の23歳の橘川先生だ。ナイヒは日本語がほぼわからず、橘川先生も「まさか(言葉のわからない児童が自分のクラスに)いるとは思わなくて」「どうしようかな」と率直な思いを番組スタッフに話す。橘川先生も懸命に指導するものの、半年ほどたった19年9月においても、ナイヒはクラスになじめず、授業もわからないままで、学校では固まった表情だ。

 ナイヒは、日本で自分の店を持ちたいという母親と共に中国からやってきたが、母親は仕事に専念すべく職場の近くで暮らし、ナイヒは先に中国から来日していた叔父夫婦の家に預けられる。中国語が飛び交う叔父一家で、ナイヒはいとこたちと楽しそうに遊ぶが、母親を恋しがる。

 2学期の後半の「学芸会」で、橘川先生はナイヒに3つのセリフを割り当てる。日本語を口にするのが怖いナイヒは、練習中、小さな声でたどたどしくしかセリフを言えなかったが、橘川先生、級友のサポートや、家で叔母やいとこたちと特訓することで、学芸会当日は堂々とセリフを言うことができた。

 翌年、20年2月に行われた公開授業で、母親は来ないだろうと諦めていたナイヒのもとにサプライズで母親が現れる。橘川先生の告げた時間通りに、時計の針を合わせる授業で正解するなど、日本語の理解も深まっていた。

 授業が終わった後、ナイヒは日本語で「橘川先生大好きありがとう」とお礼を告げる。それから1年後、ナイヒは母親が家を買ったことで転校したが、日本語漢字検定の10級を取得し、スタッフとの挨拶などもスムーズになっており日々の努力がうかがえた。

 私は、 思春期以降に自国で母国語以外の外国語を習得した人たちのことを 全員尊敬している。「言いたいことはあるのに伝える手はず、 技術がない」ゆえに悔しい、恥ずかしい、 怖い思いを何度も何度もしながら、 それでも諦めずに挑戦し続けるという、 途方もない努力を成し遂げた人たちだからだ。

 一方のナイヒは、「帰国子女」枠ともいえる。7歳ならまだ頭も柔らかいし、「恥」などの意識も思春期よりは薄いだろうし、労せずペラペラになれるのでは……? 7歳なら海外生活のスタートとして割と理想的な年齢では……? とすら思っていたが、今回ナイヒの苦労やつらそうな姿、それでも努力する姿を見て、考えを改めることにした。

 小学1年生でも、すでに「できない自分が悔しい、恥ずかしい、話すことが怖い」という気持ちは当然ある。小学校入学当初のナイヒはおそらく、さっぱりわからない授業を前に固まっていたが、2年後となる番組の最後では、日本語漢字検定の10級を取得していた。番組スタッフへ向ける表情も明るくなっていて、言葉に自信がついたことがうかがえる。ナイヒの頑張りを尊敬する。

 また、番組でいいな、と思ったシーンはナイヒの中学生のいとこ、コウキの中学校でのシーンだ。コウキが日本に来た時期については触れられていなかったが、中国の学校を転校するときの映像から、小学校中〜高学年くらいで来たように見える。

 小学校入学のタイミングで転校したナイヒでも苦労するのだから、コウキの日本語習得はさらに厳しいものだったと思う。それでも勉強を続けるコウキは、中学校で同級生に話しかける。その会話がよかった。まず互いに「こんにちは」とあいさつし、「1年〇組の〇〇(名前)です」と紹介しあったあと、こんなやりとりをしていた。

コウキ「席が変わったので、よろしくお願いします」
友達「おう、そうなの?」

 話しかけようとトライするコウキも前向きだし、それを「おう、そうなの?」と明るい感じで返す同級生も優しい子だなあ、と思った。伝える側が一歩踏み込む勇気を持つことと、受け取る側が想像力という優しさを働かせることがコミュニケーションの本質なのだと思う。

 2人の中学生の短いやりとりにはそれが良く出ていた。私も仕事で一度英語のプレゼンをしたことがあり、外国語の勉強は苦労だらけと言っていいくらい大変なことだと、そのとき痛感した。一方で、外国語の勉強は、母国語だけで生活しているとつい見落としがちな、人とつながる喜びも教えてくれる。

「就学不明」の外国籍の子供は2万1,701人

 番組では日本で暮らす外国籍の小、中、公立学校に在籍している児童生徒は年々増加傾向にあり、8万2,000人いると伝えられていた。

 ナイヒの母親は、来日当初は仕事に専念すべく職場のそばで暮らし、ナイヒはすでに日本で生活している叔父夫婦に預けられ、親子別々に生活していた。学校では1日中固まったままで過ごしているのに、母親にも甘えられないナイヒの状況は気の毒だったが、一方叔父夫婦の家では中国語が飛び交い、ナイヒはいとこと楽しそうに遊んでいたし、いとこや日本人の叔母と日本語の勉強もできるなど、孤立しない環境はあったと思う。

  一方で、中学校に通う年齢にありながら、学校に通っているかを確認できない「就学不明」の外国籍の子どもが、2万1,701人に上ることが国の全国調査でわかっている(※1)。

※1:外国籍の子、就学不明2万2000人 国が初めて全国調査(毎日新聞)

 ナイヒとナイヒの母親も、もし「日本ですでに暮らしていた叔父夫婦」という頼れる存在がなかったら、日本での生活は全く違った過酷なものになっただろう。頼れる血縁者や同じ国の出身者のコミュニティがないまま日本で暮らす外国人の孤立が、就学不明の2万1,701人という数を映しているように思う。

 法律上、「教育を受けさせる義務」の対象は自国民のみで外国人の子ども(日本国籍を持っていない者)に就学義務はない(※2)。しかし、公立の義務教育諸学校への就学を希望する場合には、国際人権規約なども踏まえて、日本人児童生徒と同様に無償で受け入れができるよう、文部科学省は全国の教育委員会に通知しているとのこと。

 だが現実問題として、外国人向けのプログラムなどない公立学校では日本語についていけず孤立し、そのまま学校に通えなくなる外国籍の子どもも多いという。

 一方、日本語がわからない子どもに配慮があり、子どもが通いやすいであろう外国人学校は、授業料が高額という問題もある(※2)。日本は人口が減る一方で、社会が外国人抜きでは成立しなくなっている。孤立した2万1,701人は社会問題だと思う。

 次週の『ザ・ノンフィクション』は「新・上京物語 前編 〜煙突とスカイツリーと僕の夢〜」。製紙工場の煙突が立ち並ぶ北海道・苫小牧市から料理人を目指し上京する18歳の一摩。就職先は洋食の巨匠・大宮勝雄シェフが経営する有名店「レストラン大宮」だ。夢と現実の間でもがく18歳の姿を見つめる。

※2:外国人は「対象外」ってどういうこと? 外国人”依存”ニッポン(NHKの特集サイト)

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