佐藤万璃音が語るFIA-F2トライデント残留に至った経緯「納得できる体制を作り上げた」【独占インタビュー】

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2021年03月25日 21:01  AUTOSPORT web

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2021年のプレシーズンテストに参加した佐藤万璃音(トライデント)
2020年シーズンに続き、2021年シーズンもトライデントからFIA-F2選手権に参戦する佐藤万璃音。F1世界選手権のサポートレースとして3月26日から始まる開幕大会の直前に、バーレーン・マナマ滞在中の彼にトライデント残留に至った経緯やプレシーズンテストの手応えを聞いた。

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──バーレーンにずっと居るのですか?
「3月8日から始まったプレシーズンテスト前からなので、けっこう居ますね。ホテルの砂浜で毎日のようにビーチバレーをやっています。でも、もうお腹いっぱいになってきました(汗)。バーレーン入国の際にはPCR検査を受けましたけれど、陰性だったらホテルで自主隔離する必要もなく、あちこちへ出歩けます。レストランは探検しまくっていますし、日本料理屋さんだけでなく韓国料理屋さんも発見しました。ただ、ホテルでの朝食はレストランではなく、毎日前日に“何を食べたいか?”と訊かれて、それを部屋へ持ってきてもらいます」

「ロックダウンされまくってお店がまったく開いていないヨーロッパに居るより、バーレーンに居るほうが良いですね。レストランはもちろんショッピングモールもここは開いています。もちろん、出歩いている人はみんなマスクしています。もともと、プレシーズンテストと開幕大会の間はいったんイタリアへ戻る予定でしたが、それを取り止めたくらいに快適です」

──さて、トライデント残留に至った経緯は?
「まず、自動車メーカーやF1チームの育成ドライバーを抱えているF2チームとは、交渉そのものが難しい。であれば、まだ伸び代のあるトライデントで今年も戦おうという結論に至りました。ただ、僕らも馬鹿では無いので、昨年と同じ状況での継続とはしませんでした。それなりに見込みがある、納得できる体制を作り上げました」

「具体的にはエンジニアリング面での変更です。トラック(レース)エンジニアやデータエンジニアは昨年と変わりませんが、エンジニアリング面でプラスアルファとなりそうな体制作りができました。現場に足を運ぶわけではありませんが、僕が信頼している新たな人材の登用をトライデント側も受け入れてくれたので、チーム残留を決めたと言っても良いでしょう」

「可能性としては、トライデント以外にもチャロウズやMPモータースポーツなども選択肢としてはありました。ただ、昨年何回か勝ったMPが本当に素晴らしいチームで今季も好調かと考えると、確信は持てませんよね? だったら、いまあるものを慣れたチームで伸ばしていくほうが良いのではないか? と考えたわけです」

「今季のモノコックは、昨季途中で投入した新品を継続して使います。それにより劇的に状況が改善したとは感じないけれど、もちろん悪くはなっていません。モノコックの入れ替えは、不安材料をひとつずつ消していく目的からでした。エンジンに関しては、プレシーズンテストで新たに搭載したものを今季の開幕大会でも使います。もちろんほかのチーム/ドライバーも同じ条件です。僕に割り当てられたエンジンは、とくに昨季と変わりませんね」

──プレシーズンテストを振り返ってください。
「初日は路面がダスティだったので、午前のセッション後半はトラベルではない中古のプライムタイヤでシステムチェックしました。その後は使えるタイヤも無いので、新品のプライムタイヤでそれなりのアタックをしました。午後のセッションは中古のプライムタイヤでロングラン。とにかく初日はクルマに問題が無いかどうかを確認する作業に終始しました」

「2日目午前のセッションは、ふたつのセットアップを比較しました。ひとつはチームがもともとバーレーン向けとしていたセットアップ、もうひとつはバーレーン向けではないセットアップ。ドライバーふたりが分担し、僕は後者を任されました。それぞれのドライバーが、新品のプライムタイヤと新品のオプションタイヤで1回ずつアタックして、違いを比較しました。午後のセッションは中古タイヤでのレースランだけでした」

「こうした仕事の振り分けも、チームメイトのベント・ビスカールはまだF2経験が少ないからベースセットアップで走り込み、僕が新しいセットアップでテストするという意味で理にかなっています。僕が担当したセットアップは、チームとして確信できるものではなかったし、僕もクリーンなラップを取れなかった。ただ、クルマの動きなどで確認できる部分はあったので、決して無駄ではありませんでした」

「3日目午前のセッションでも新品のオプションタイヤを投入しました。じつのところ、僕のクルマは2日目にギアボックスの問題を抱えていて、このセッションへはチェック走行から入ったので、新品のオプションタイヤを履くタイミングがほかのドライバーとはズレていました。僅かなフラットスポットを作ってしまったこともあり、また1周しかタイムアタックの機会が無いタイヤだけにクリーンなラップも取れず、満足できるタイムは記録できませんでした」

「とはいえ、トラフィックでロスした以外は悪くなかったし、パフォーマンスランとしてはまとまっていて酷いものではなかったと思います。1分41秒台突入は難しかったかもしれませんが、1分42秒台前半は余裕で見えている感じでした」

──タイヤについてもう少し詳しく教えてください。
「今季は1大会でプライムタイヤを4セット、オプションタイヤを2セット使えます。オプションタイヤは変わりませんが、プライムタイヤが大きく変わっている印象があります。コンストラクションは変わっていないと思いますが、コンパウンドが変わっています。よりハード方向になりました。僕は昨季までのタイヤも経験しているので、プレシーズンテストではピレリのタイヤエンジニアからセッションごとにコメントを求められました」

「プライムタイヤ全般の印象としては、デグラデーションが緩やかになっています。もっとも、その部分で大幅に改善されているとは言い難いですね。いっぽう昨季はフロントのグレイニングが多かった。その対策をピレリは施してきたようです。グレイニングに関しては昨季よりもかなり改善されたと感じます」

「とはいえ、一発のタイムを出すのは昨季よりも難しくなっています。また、プライムタイヤとオプションタイヤの性能差が広がったので、練習走行から公式予選の間に施すセットアップの調整が以前よりも難しくなりそうです」

──予選はともかく決勝の走り方が変わりそうですか?
「そうですね。ただ、レースフォーマットの変更で、予選が従来よりも大事になりました。そこでトップ10に入っていれば、最初のスプリントレースで沈んでも週末を通してチャンスはあります。逆に予選でトップ10に入れなかったら、週末を通して中段以降からスタートしなくてはいけません」

「個人的には予選を2回やって決勝も2回やってというほうが良いですね。普通のレースっぽいじゃないですか? そう思っているのはたぶん僕だけではないと思います。だって、せっかく予選を戦っても、1回目のスプリントレースからトップ10のリバースグリッドスタートですよ。しかも、2回目のスプリントレースのスターティンググリッドは1回目のスプリントレースの結果を受けてのリバースグリッドスタート。変な感じですよね」

■佐藤万璃音が語る今季の目標と角田裕毅のF1での能力


──今季は8大会だけで公道レースが多いですね。
「僕自身、F2で公道レースの経験がありません。ソチはパーマネントみたいなものですし。モナコもバクーも経験はありません。まあ、ジェッダは誰も走った経験ありませんけど。モンツァは良く知っているから、しっかりと結果を出したいですね。とにかくサーキット入りして、チームも僕もいかにクルマを早く合わせ込めるかが大事となります」

「昨年12月のF1テストが今季のF2に役立つかどうか、プレシーズンテストを終えて改めて考えてみましたが、やはりクルマが違いすぎます。でも、F1のクルマに乗ってF2のクルマに乗ると、メチャクチャ遅く感じられますね。速度感に関しては以前よりも余裕が持てます」

「F2はそもそも低速コーナーの速度がかなり遅い。僕が乗ってきた旧F3と比べても遅い。タイヤ温存のため、F2では意図的に遅く走る必要があるとも言えます。しかも、F2は旧F3みたいにもっと高いコーナリング速度で走っていたクルマよりも低速コーナーでの安定感に欠けます」

──自身の今季ドライバーズランキング予想は?
「もちろん、今年のうちにスーパーライセンスを取れるくらいのランキングで終えたいですね。まあ、それほど甘くは無いでしょう。ともかく、僕の持っているスーパーライセンスポイントは、2019年ユーロフォーミュラ・オープンのチャンピオンとして獲得したものが今年いっぱいで期限切れになってしまうと思うので、今季のF2で15ポイントを追加しなくてはいけません」

──チームメイトのベント・ビスカールはどんな人ですか?
「レースランに関しては、昨年のいまごろの僕と似たようなところがあって、これから勉強すること、覚えることがいっぱいある感じでした。ただ、一周をまとめてくるという部分では結構巧いと思いますね。とりあえず嫌なヤツではない(苦笑)。うまくやっていけると思います」

──今季、F2以外で走る可能性はなかった?
「うーん、無かったですね。いま、これはやり遂げなければいけないと思っています。これ以外にやることは思いつきません」

──角田裕毅選手のF1での能力をどう見ていますか?
「バーレーンのF1プレシーズンテストに関しては、あれが速かったかどうかは彼本人も分かっていないでしょう。F1のテストはF2のテスト以上にタイムは参考になりません。開幕戦バーレーンGPの金曜日になるまでは誰も分からないでしょう。もちろん、関係者ではない第三者はあのパフォーマンスを受けて嬉しいと感じるでしょうが、本人は2番手タイムを出しても何も思っていないはずです。チームもそれは同じでしょう」

「世界のトップドライバーがF1には集まっているわけですから、どうなっても不思議じゃないですよね? もちろん、裕毅は速いし良いドライバー。メンタルも強い。でも、F1はそれほど甘い世界ではないと思います。ただ、昔から付き合っているドライバーだから、うまく行ったら嬉しい。同じ日本人で一緒にレースをやってきましたしね。そんな彼がF1でぜんぜんダメだったら、僕自身も否定されちゃうわけですから」

「彼はメンタル強いですよ。たしかに、ユーロフォーミュラ・オープンでチームメイトのリアム(ローソン)とスパ・フランコルシャンのレースで絡んでリタイアし、コース脇に座り込んじゃうようなところはありますよ。でも、彼は怖いもの無しなんですよ。座り込んじゃうのもメンタルが弱いわけじゃなく、勝てるレースを失って残念だったというだけに過ぎないでしょう」

「僕自身は当てられてリタイアしても、そこに居た自分が悪かっただけと考えています。だから、クルマを降りて感情を露にすることもありませんね。もちろん、時と場合によりますけれど、週末の初めから調子が悪ければ“そういう日もあるよね?”となります。基本的に僕は昔から、“当てられるような場所に居たオマエが悪い”と周囲から言われているので、どれほど見えない後ろから追突されても、“そんなヤツの近くで走っている自分が悪い”というメンタリティです。そういうふうに仕込まれてきました」

「もちろん、絶好のチャンスが当てられて絶たれたとなったら、さすがにガッカリするとは思いますよ。たぶん態度にも表わすと思います。まったくブレーキングしないで突っ込まれたら、そりゃあ話が違うだろうと。でも、相手が得するわけでもないのに突っ込んできて、両者痛み分けくらいならしようがないですね。もちろん、僕とタイトルを争っているドライバーから突っ込まれて、僕からチャンピオンを奪おうという状況なら話は別ですけれど。とにかく昨年は一度もそういう立場に居ませんでした」

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 体制を自ら仕切り直して再びトライデントから2021年シーズンのFIA-F2へ挑む佐藤万璃音、今週末の開幕大会に注目したい。

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