「石原さとみは、何をやっても石原さとみ」説は本当か、主演級に上り詰めた“実力”

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2021年04月21日 17:00  週刊女性PRIME

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石原さとみ

 石原さとみと綾野剛が主演を務める新ドラマ『恋はDeepに』(日本テレビ、水曜夜10時)がスタートした。これまで数多くのドラマ主演を務めてきた石原さとみに対して、一部からはこんな声が聞こえてきた。「石原さとみは何をやっても石原さとみーー」。“何をやっても〜”の代表格と言えばキムタクだが、石原さとみは本当にそうなのか? ドラマのプロはどう見るか。ドラマ評論家の吉田潮さんに聞いた。

「何をやっても同じに見える」は本当?

 どんな役を演じても同一人物に見えるというのは、ある意味、役者として凄腕なのではないか? 事務所の戦略なのか、本人の希望なのか、作り手側の勝手な思い入れなのかは知らんが、専門特化・差別化を実現できるのは選ばれし者の証でもあり。

 むしろ、いつのまにかその特色が「大物の風格」という扱いになり、伝説として語り継がれることもある。吉永小百合、沢口靖子、木村拓哉、深田恭子はもはや伝説というか、伝統芸能の域だし、米倉涼子やディーン・フジオカ、大谷亮平、有村架純に本田翼も、その背中を追っていると思われる。

 この「何をやっても同じに見える」枠にエントリーされているのが、石原さとみらしい。え、そうなの? 垢ぬけないおぼこいもっさり娘役から着々と場数を踏み、ボリューミーな唇と媚びた可愛らしさを武器にしたせいか、一時期は女性票が低かった。

 ところが、逆転現象が起きた。女性誌や美容雑誌の表紙を飾るほど垢ぬけて、いまや連ドラの主演級までのぼりつめた石原。個人的には、何をやっても同じとは思わないけれど、この10年でメインやレギュラーのキャラクターを演じるようになってからは定型のパターンがあるな、とは思う。

 まず、「正」の石原。正しさやひたむきさ、当たり前にまっとうな感覚をもって共感を呼ぶ。もちろんドラマなので、ただの凡人ではない。それなりの能力や才能があったり、情熱や不屈の精神を持ち合わせていたりする。

『リッチマン、プアウーマン』(フジテレビ系・2012)では、東大卒で記憶力抜群だが就職できずに詐称しちゃったヒロイン、『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系・2016)ではファッション誌希望だが校閲部に配属された編集者役、『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』(フジテレビ系・2020)では、医師よりも看護師よりも患者の人生にありえないくらい寄り添う病院薬剤師の役。そうそう、『アンナチュラル』(TBS系・2018)の凄絶な過去を抱えた法医解剖医役も、こっちかな。

 正直、ここは「何をやっても石原さとみ」というよりも、誰がやっても同じ「連ドラによくある王道のヒロイン」でもある。綾瀬はるかでも新垣結衣でも吉高由里子でも違和感なし。連ドラのヒロインは、ほら、大手事務所の当番制だからさ。石原本人というよりは、テレビドラマ業界があえて定型ヒロインを作り出しているわけで。だから「何をやっても同じ」枠に入れられるのではないか。

 一方、「邪」の石原。傲慢でワガママ、あるいはナチュラルボーンのあざとさを売りにするキャラで、周囲を巻き込んだり振り回したり惑わせたり。高飛車な物言いや我の強さ、類まれなる媚び感を前面に押し出すのは、石原の十八番でもある。

『失恋ショコラティエ』(フジテレビ系・2014)ではモテモテぶりぶりの魔性系ヒロイン、『ディア・シスター』(フジテレビ系・2014)では生活も下半身もゆるめで奔放な妹役、『高嶺の花』(日本テレビ系・2018)ではエキセントリックで高飛車&芸術家肌の華道家役、『Heaven?〜ご苦楽レストラン〜』(TBS系・2019)では傲慢でワンマンなレストランオーナー役。

 この手の「邪」の役柄のほうが、本人も心の底から楽しそうというか、板についているというか、自然体な印象が強い

 素に近いからこそ、「邪」の石原がワンパターンに見えてしまうのかもしれない。

 私は、「邪」の石原のほうが断然好き。綾瀬はるかや新垣結衣にはできないんじゃないかと思う「専門性」があるから。正と邪の役柄で、振り幅は結構あると思うのだが、いかがでしょう。評価は人それぞれだけれど、『失恋ショコラティエ』『アンナチュラル』『高嶺の花』あたりで、女優・石原さとみのレイヤーがぐっと増えて、多彩な女優になったような気もしている。

「観たことがない石原」を生み出せるか

 で、今期の新作。『恋はDeepに』(日本テレビ系)。石原が演じるのは海洋生物をこよなく愛する研究者。海中にレジャー施設を建設する会社の次男(綾野剛)とは、出会ったその日からいがみ合う。石原は、この手のドラマによくあるキャンキャン吠えるタイプかと思ったら、意外としっとり、湿度が高め。それもそのはず、石原はどうやらただの海洋学者ではない。

 初回の終盤、開発予定地の海を調査するべく、ひとりダイビングしていた綾野は、うっかり岩場に挟まって溺れかける。そこを偶然、石原が「虫の知らせ」ではなく「カニの知らせ」で気づいて助ける(お決まりの人工呼吸で救命ってやつですな)。

 そこでわかる。石原はウツボやミノカサゴ、カニとしゃべれる。あー、そっちかぁ。人魚姫的なヤツか。人間から離れちゃったかぁ。今のドラマ業界では、植物や無機物と会話できる「モコミ(※1)」的なファンタジー企画が通りやすいのか……。ともあれ、有能で怜悧な塩顔御曹司の綾野と、海の魔物・石原のファンタジーラブコメディというわけね。

 今回は「正」「邪」で言えば、「正」の石原。でも、神話というか童話というか要するにファンタジーが入っちゃってるので、手厳しい視聴者からどう判断されるか、だな。「今までに観たことがない石原」を生み出せるかどうか。

 個人的には、逆のほうがしっくりくる。つまり、綾野が魚としゃべって美しい海を守る心優しい魔物(塩顔だし)で、石原が得意の無慈悲と発音よさげだが感じ悪い英語力で、レジャー開発と海の汚染を進める企業サイドの人間を演じたほうがよかったのでは。ま、それこそ「何をやっても石原さとみ」になってしまうかもしれないが、「邪」の石原推しとしては、ちょっとだけ暴論吐いておく。

(※1)1月から放送されていた小芝風花主演の土曜ナイトドラマ『モコミ〜彼女ちょっとヘンだけど〜』

吉田 潮(よしだ・うしお)

 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『くさらないイケメン図鑑』(河出書房新社)、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか』(KKベストセラーズ)などがある。

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