『おしん』が切り拓いた日本ドラマ海外展開の道

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2021年04月23日 09:00  ORICON NEWS

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写真橋田壽賀子氏 (C)ORICON NewS inc.
橋田壽賀子氏 (C)ORICON NewS inc.
 日本のテレビ史に燦然(さんぜん)と輝く名ドラマ、『おしん』。TBS『渡る世間は鬼ばかり』」でも知られる橋田壽賀子氏の原作・脚本で描かれた同作は、1983年4月から翌84年3月まで1年間放送され、平均視聴率50%超えという驚異の記録を残している。明治時代末期、東北の寒村に生まれ、幼くして女中奉公に出された少女おしん。時代の波に翻弄されながらも懸命に生きる、健気で純真な姿に、多くの日本人は心を打たれ、空前の大ヒットとなった。その人気は海外にまで広がり、これまでに世界70以上の国・地域で放送されている。それから約40年が経過したが、海外展開においては未だ同作を超える日本発ドラマが生まれていない。そこで今一度、日本ドラマの海外展開が抱える課題を整理し、『おしん』の功績から学ぶべきことについて考えた。

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■言語や文化の壁を越えて受け入れられていった『おしん』

 日本を代表する脚本家の1人、橋田壽賀子氏の突然の訃報を受けて、改めてドラマ『おしん』の功績が称えられている。この大ヒット作は日本で大ブームを巻き起こした後に海を渡り、80年代後半から90年代にかけてアジア圏を中心に海外でも放送されて、人気を広げていった。今回、シンガポール最大の新聞社The Straits Timesをはじめとする多くの海外メディアが、「世界的なヒット作」である『おしん』の脚本家の死を悼み、その影響力の大きさをうかがい知ることができた。

 本作が放送された80年代の東南アジア圏は、経済成長が本格化していった時期だった。貧困からの脱却を図るアジア各国の人々は、さまざまな苦難に立ち向かい、ひたむきに生きるヒロインに自分を重ねると同時に、第2次世界大戦後の日本の発展を思い、鼓舞されたという。海外展開するスーパーマーケット「ヤオハン」の創業者が主人公のモデルの1人と言われていたこともあり、リアリティをもって受け止められたというのもあるだろう。

 その後、放送は中国や香港などの中華圏や、イランやエジプトなどのイスラム圏にも及び、“ひた向きに生きる健気でたくましい”キャラクター像は、言語や文化の壁を越えて受け入れられていった。そういったドラマ人気から生まれた思わぬ効果もあった。“おしんの精神”が宿っていると、日本や日本人像の好感度も上がったのだ。ドラマ視聴を契機に日本に興味を持ち、来日した外国人も多く、訪日外国人増加にも一役買ったと言われている。

■アジアにおける日本コンテンツ流通量縮小の訳

 80年〜90年代の東南アジア圏では、『おしん』以外にも多くの日本の音楽番組やドラマが放映されており、日本コンテンツは身近な存在だった。しかし、2000年代以降は徐々に流通量が減少していった。その理由は幾つかある。大きな理由の1つは、東南アジア各国で自国のニーズに合わせた自国産のコンテンツが増加したことだ。海外コンテンツよりも自国コンテンツが人気を集めることは何も東南アジアに限ったことではないが、注目すべきはその次の理由、韓国コンテンツの台頭である。韓国の放送局KBSで02年に放送された『冬のソナタ』人気は、アジア各地を席巻し、同作をきっかけに日本でも韓流ブームに火がついた。これを機に、韓国ドラマが大量にアジア圏で放送されるようになり、人気を集めていったのである。

 韓国コンテンツがアジア圏で不動の地位を得た10年代、世界最大級のフランス・カンヌ番組コンテンツ国際流通見本市「MIPTV/MIPCOM」で、コンテンツを取引する上での日本と韓国の違いを海外バイヤーに尋ねたことがあった。シンガポールを拠点とするそのバイヤーは、「00年代、韓国コンテンツは非常に買いやすい価格帯に設定され、徐々に値上げされていった。それでも購入し続けている一番の理由は、プロモーションがしやすいことにある。ドラマ出演者の写真の扱いに自由度があり、現地に出演者がプロモーションのために渡航してくれることも度々ある。それに比べて日本のドラマは制限が多いと感じている」と、私の疑問に端的に答えてくれた。

 そして、動画配信時代に入った現在、動画配信プラットフォーム成長の鍵になるのは、やはり韓国コンテンツと言われている。例えば、香港最大の動画配信プラットフォーム「Viu」では、視聴者のニーズに合わせて韓国コンテンツを多く取り揃えており、それが、同サービスがアジア3大プラットフォームとしての地位を固めている背景にある。

日本ドラマのポテンシャルとは何かを、今一度問い直す良い機会に

 一方、日本コンテンツも海外展開における課題解決に取り組む動きが見られる。日本のテレビ番組の海外発信を推進するため、民放連とNHKが中心となり創設された「国際ドラマフェスティバル in Tokyo」では、15年から「J Series Festival」と銘打った日本のドラマPRイベントを継続的に行っている(20年はコロナ禍を理由に中断)。これまでタイ、インドネシア、ベトナム等で開催され、現地の会場にドラマ出演者も足を運び、一般視聴者との交流を図っている。総務省の調査(『放送コンテンツの海外展開に関する現状分析』)によると、日本ドラマが海外に取引された額は16年から徐々にではあるが伸長しており、こういった地道な取り組みの積み重ねが実を結んでいると言えるのかも入れない。

 また日本ドラマのリメイク化の促進も精力的に展開され、そこから成功事例も生まれている。例えば、10年に放送された坂元裕二脚本による社会派ドラマ『Mother』(松雪泰子、芦田愛菜出演/日本テレビ)がそれにあたる。トルコ版の大ヒットをきっかけに世界展開を広げている。また、このほど、02年に放送された龍居由佳里脚本のラブストーリー『愛なんていらねえよ、夏』(渡部篤郎、広末涼子主演/TBS)が、トルコでリメイクされることも発表された。アメリカに次ぐドラマ輸出国であるトルコでの実績は、世界ヒットの成否を左右する。そんな重要な取引国であるトルコにおいて、日本のドラマが一定の評価を受けているのは明るい話題と言えるだろう。

 かつて『Mother』のトルコ版を制作した理由を、製作プロダクションのMF Yapim(エム・エフ・ヤプム)は次のように語っていた。「センセーショナルなストーリーだが決して視聴者に媚びない内容だと思った。深い情愛をベースにストーリーが展開し、いろいろな角度から“母性とは何か”、“血縁とは何か”を問いかける。これは世界じゅうで共有できるテーマであり、今あるドラマにはない内容だった」

 繊細な感情の機微や人間関係を描くことに定評がある日本の脚本の強みは、今日の日本のドラマの海外展開につなげた『おしん』が、そして前出の『Mother』が証明している。コロナ禍で世界中がほぼ同じ状況に置かれている今だからこそ、「普遍的な共通の価値観」を持つコンテンツは、国境を越えて大ヒットする可能性を秘めている。『おしん』の功績に再び脚光が当たっている今こそ、日本ドラマのポテンシャルとは何かを、問い直す良い機会と言えるのではないだろうか。

(文・長谷川朋子)
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