【角田裕毅を海外F1ライターが斬る】ポルトガル&スペイン編:絶対にトストを怒らせてはいけない。大人になれ

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2021年05月18日 08:10  AUTOSPORT web

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2021年F1第3戦ポルトガルGP 角田裕毅とフランツ・トスト代表(アルファタウリ・ホンダ)
2021年に7年ぶりに日本人F1ドライバーが登場した。アルファタウリ・ホンダからF1にデビューした角田裕毅だ。極めて高い評価を受け、大きな期待を担う角田を、海外の関係者はどう見ているのか。今は引退の身だが、モータースポーツ界で長年を過ごし、チームオーナーやコメンテーターを務めた経験もあるというエディ・エディントン(仮名)が、豊富な経験をもとに、忌憚のない意見をぶつける。

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 子どもというのは目に入るものすべてを欲しがって、すぐに手に入らないと癇癪を起こす。そういえば、昔グスタフ・ブルナーがこんなことを言っていたっけ。「子どもは5人だ。正式にはね。世界のどこかにもっといるかもしれないが」。それはさておき、子どもがバカなことを言ったり、しでかしたりしたときには、すぐに叱って、しつけをする必要がある。欲しいものがあるときは駄々をこねれば手に入ると思わせては絶対にだめだ。最初に厳しくしなければ大変なことになる。

 何の話かって? もちろん、角田裕毅の話をしている。彼はかなり短気な人間だということが分かってきた。日本のF4からF1まで短期間に上り詰めることができたのには、当然理由がある。彼は素早く結果を出すが、チームにも同じことを求める、要求の厳しいドライバーなのだ。しかし彼は、チームを侮辱し、エンジニアに向かって怒鳴り、走行中にマシンや戦略やレースで何か少しでもうまくいかないと動揺する。チームから好かれたいなら、そういう態度はとるべきではない。メカニックは、ドライバーから不当な扱いを受けたと感じるとすぐにやる気をなくすものだ。ラルフ・シューマッハーとファン・パブロ・モントーヤに聞いてみるといい。彼らが大金のためにチームを去ると知った後、ウイリアムズのクルーたちがどうしたかをね。

 私の場合は、ドライバーがチームに対して暴言を吐くことは決して許さなかった。そんなことをした者には、すぐさま目にもの見せてやる。そいつを罵ってプライドをずたずたにしてやるのだ。そうするとドライバーは謝罪して、エンジニアやクルーに優しくした方がよさそうだと悟る。それですべて丸く収まるわけだ。

 それにしてもフランツ・トストは丸くなったものだ。以前の彼なら、角田を簡単に許すことはなかっただろう。かつてスコット・スピードがチーム全体をひどく侮辱し、無礼な態度をとったことがあった。あの時、トストは彼の首根っこをつかみ、ガレージの壁に押しつけたっけ。だからユウキ、もしもこれを読んでいたら、フランツを怒らせないよう気を付けてほしい。彼はいったんキレると大変だから。


■ヒーローからゼロに転落しないために、大人のサポートが必要

 ポルトガルはトリッキーなサーキットだが、角田は素早く学び、FP3が終わるころにはピエール・ガスリーのラップタイムに近づいていた。だがその週末、マシンがさほどコンペティティブではなかったために、ガスリーは0.05秒差でなんとか予選Q3に進出できたが、角田はQ2どまりとなった。そして決勝で角田は15位、後ろにはウイリアムズとハースしかいなかった。

 スペインはもっと悪かった。FP2とFP3ではガスリーに匹敵するペースを発揮していたが、予選Q1で16番手に沈んで敗退したのだ。ガスリーがたった1回のランで5番手タイムを出していた時にだ。

 大人ならぐっとこらえて、メディアには「僕が1周をうまくまとめられなかったんです」と言って、ガレージに戻ってデータをチェックして、自分の何が悪かったのかを調べるだろう。それが正しい行動だ。しかしユウキはどうしたか? 無線でわめき、メディアに対して、ボクのクルマはガスリーのと違うみたいに感じる、などと言ってしまった。そして、自分の発言の重大さを知って、慌てて謝罪する羽目になったのだ。とにかくこの子は興奮しないで落ち着く必要がある。レースの世界ではあっという間にヒーローからゼロに転落するのだから。

 以前も言ったと思うが、角田には速さと才能があり、レースの技術も素晴らしい。だが、まだ子どもだ。ホンダの育成プログラムは、メルセデスやルノーのドライバーへのサポート体制とは異なっている部分があるし、レッドブルのプログラムはといえば、ヘルムート・マルコの気まぐれに翻弄されっぱなしだ。F1は恐ろしく政治的な世界だ。この若者がバルセロナでしたようなひどい過ちを二度と犯さないで済むよう、彼をしっかり指導する者が必要だろう。

 もちろん、経歴から言って、自分が適任だと私は思っている。過去に、平凡なドライバーを一流に見せることにすら成功した私だ。ドライバーをうまくしつけることもできる。ただし、ホンダのなかには私を誤解している人間がいるようなので難しそうだ。なので、角田が長くF1に残れるよう、誰か若くて経験もある人物を選んで、角田の面倒を見させるべきだ、というアドバイスだけしておこう。具体的に誰が適任かって? 他の誰かを推薦して、私に何の得がある? まぁ、手数料をくれるなら話は別だが……。


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筆者エディ・エディントンについて
 エディ・エディントン(仮名)は、ドライバーからチームオーナーに転向、その後、ドライバーマネージメント業務(他チームに押し込んでライバルからも手数料を取ることもしばしばあり)、テレビコメンテーター、スポンサーシップ業務、講演活動など、ありとあらゆる仕事に携わった。そのため彼はパドックにいる全員を知っており、パドックで働く人々もエディのことを知っている。

 ただ、互いの認識は大きく異なっている。エディは、過去に会ったことがある誰かが成功を収めれば、それがすれ違った程度の人間であっても、その成功は自分のおかげであると思っている。皆が自分に大きな恩義があるというわけだ。だが人々はそんな風には考えてはいない。彼らのなかでエディは、昔貸した金をいまだに返さない男として記憶されているのだ。

 しかしどういうわけか、エディを心から憎んでいる者はいない。態度が大きく、何か言った次の瞬間には反対のことを言う。とんでもない噂を広めたと思えば、自分が発信源であることを忘れて、すぐさまそれを全否定するような人間なのだが。

 ある意味、彼は現代F1に向けて過去から放たれた爆風であり、1980年代、1990年代に引き戻すような存在だ。借金で借金を返し、契約はそれが書かれた紙ほどの価値もなく、値打ちのある握手はバーニーの握手だけ、そういう時代を生きた男なのである。

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