【レースフォーカス】3戦連続で表彰台獲得のオリベイラ。苦戦のシーズン序盤がKTM好転の土台に/MotoGP第8戦ドイツGP

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2021年06月23日 08:41  AUTOSPORT web

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ミゲール・オリベイラ(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)
マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)がセンセーショナルな復活優勝を飾ったMotoGP第8戦ドイツGP。ここでは、マルケスの優勝とはまた別の視点からドイツGPを切り取っていきたい。ピックアップしたいのは、3戦連続で表彰台を獲得したミゲール・オリベイラ(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)、現在チャンピオンシップでポイントリーダーにつけるファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)。
 
 それから、アプリリアに21年ぶりのフロントロウをもたらしたアレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング・チーム・グレシーニ)、中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)である。
 
■KTMのオリベイラが3戦連続の表彰台
 KTMのオリベイラは、マルケスに次ぐ2位表彰台を獲得した。予選では、終盤に他ライダーの転倒によるイエローフラッグ提示でタイム更新ができずに6番グリッドに終わる。ただ、オリベイラの速さ、ペースのよさは疑いようがないものだった。レースシミュレーションが行われるフリー走行4回目では、20周以上を走ったハードのフロントタイヤでコンスタントに1分21秒後半のタイムをマークしていた。このとき、同じような状況で同じように1分21秒後半のタイムを記録していたのがマルケスだった。
 
 オリベイラは6番グリッドからスタートし、序盤は5番手付近を走っていた。ただ、序盤に落ちた雨粒は、オリベイラがマルケスを追い上げるのを阻んだ。「マルクはすぐに(路面)グリップのレベルを理解して、(後方との)ギャップを築いた。そのとき彼のすぐ後ろにいなかったから、僕としては理想的な状況ではなかった。僕が集団のなかにいる間に、マルクは差を広げていた」と、オリベイラはキーポイントとなった状況を振り返った。
 
 11周目に2番手に浮上したオリベイラは、好ペースでマルケスを追った。ただ、約2秒先のトップをひた走るマルケスもまた、オリベイラと同じようなペースで走り続け、差が詰まらない。そしてレース終盤、オリベイラはこのレースでは2位を獲得することに目標を定め、それを完遂したのだった。オリベイラにとって、第6戦イタリアGPの3位、第7戦カタルーニャGPでの優勝に続く3戦連続の表彰台獲得となった。
 
 KTMは、明らかに2021年シーズン序盤に苦しんでいたが、ここ数戦で好転を見せている。オリベイラは決勝レース後の会見で「シーズン序盤は確かにきつい時期だった。でもそのきつい時期がなければ、今のこの状況にはいなかっただろう」と語った。
 
 チームメイトのブラッド・ビンダー(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)も、決勝レース後の取材のなかで、同じように「シーズン序盤の、あの厳しい時間があったから、今の僕たちがあるのだと思うよ」とコメントしていた。ビンダーはといえば、表彰台には届かなかったが、13位番グリッドから4位でフィニッシュを果たしている。クラス参戦2年目のビンダーにとっては、MotoGPクラスでのドイツGP初レースだったことも少なからず影響していただろう。2020年シーズンは、新型コロナウイルス感染症の影響でドイツGPが開催されなかったからだ。
 
 オリベイラの話に戻ろう。KTMとオリベイラは第6戦イタリアGPからKTMは新しいフレームを投入し、大きく飛躍した。そして、ドイツGPでもその感触は悪くないと述べていた。しかし、オリベイラによればこうした要因が好成績に結びついたすべてではないという。背景にあるのは、前述した「シーズン序盤のきつい時期」の時間だ。
 
「すべてのグランプリで、フリー走行などでは僕たちは強さを示していた。(シーズン序盤は)レースを完走できなかったりしたものだから、ムジェロ(第6戦イタリアGP)から調子を上げたような錯覚に陥るけど、そうじゃないんだ。僕たちは影でずっと作業を行っていた。だからこそ、ムジェロに持ち込んだものすべてが流れを変えたものだと感じられるのかもしれない。確かに、それ(新フレーム)は役立った。でも、それがすべてじゃない」

 そして、それはKTMが一丸となって取り組んできた結果なのだとも言う。
 
「僕たちは、グループですごくいい仕事をしたと思うんだ。(KTMの)4人のライダーで取り組み、そしてテストチームのダニ(・ペドロサ)は第三者的立場にいるようだけれど、すごく貢献してくれた。このプロジェクト全体に、とても貴重な情報を提供してくれたんだ」

 KTMの進化は疑いようがない。2021年シーズン残りのレースで、安定した成績を収められるか、それがまた一つのポイントとなるだろう。
 
■クアルタラロ、経験で得た3位
 チャンピオンシップリーダーのクアルタラロは、3位表彰台を獲得。ランキング2番手のヨハン・ザルコ(プラマック・レーシング)に対し、ポイント差を広げてドイツGPを終えた。
 
 クアルタラロはフリー走行4回目で、一度もピットインせずに周回を重ねてレースに向けた準備を行っていた。レースシミュレーションを行うのが常のフリー走行4回目といっても、ピットインせずに走るライダーはそういない。クアルタラロは、よりレースの状況に近いタイヤの消耗を確認したかった。
 
「このコースでは20周も連続して走れば、タイヤがまったく変わっていく。それで、フリー走行4回目の時間をフルに使ったんだ。20周連続して走ってみると、ピットインを挟んだときのほうが、20周連続したときよりもタイヤがフレッシュだとわかる。(レースと同じ)本来のグリップ低下ではないけれど、それはいい経験になったよ」

 レースに向けた準備を淡々と進めたクアルタラロ。レースでは2番グリッドからスタートしたが、レース序盤に5番手に後退。そこから周回をかけてオーバーテイクを重ね、3番手に浮上した時には、トップのマルケスと2番手のオリベイラはすでに遠かった。ただ、クアルタラロは厳しいレースになるとわかっていたという。
 
「午前中に、チームには『ペースはいいんだけど、優勝争いは難しいみたいだ』って伝えた。彼ら二人(マルケスとオリベイラ)はとても速かった。目標は、ドゥカティの前でフィニッシュすることで、表彰台を獲得することにした。そしてそれを成し遂げたんだ」

 クアルタラロはまた、チャンピオンシップにおけるこの表彰台についての重要性を問われると「すごく大事(な表彰台ではあった)けれど、これについては大きな過去の事例があるのを覚えているんだ」とも明かした。
  
「(2019年第15戦)タイのことだ。チャンピオンを獲得するために、(そのときランキングトップだった)マルクはただドヴィ(アンドレア・ドヴィツィオーゾ)の前でフィニッシュすればよかった。でも、僕たち二人(マルケスとクアルタラロ)は最終コーナー、最後の瞬間まで戦った。あのとき、チャンピオンシップで勝つためには、優勝と表彰台を獲得する必要があるのだと知ったんだ」

 そしてまた、それとは別に、もう一つの教訓を明かしている。
 
「毎戦経験を得て、僕も学習していると思う。今日は僕が5番手にいたとき、マルクは先に行ってしまい、ミゲールは2番手に上がっていた。以前ならば、アレイシ(・エスパルガロ)やジャック(・ミラー)をオーバーテイクするために必死になって攻めていたところだけれど、(今日は)それはすごく難しいとわかった。速くなっている、ということよりも、走りながら考えることができるようになったのだと思う。ただ速く走ることと、考えて速く走ることはまた違う。今年はうまくそういうことができているのだと思う」

 チャンピオンシップシップを戦うために必要な攻めの姿勢と目標設定、そしてそれを完遂するためのレースマネジメントが、クアルタラロのなかで蓄積されているということではないだろうか。2020年シーズンの序盤にチャンピオンシップのトップに立ったときのことについて、クアルタラロはこれまでに何度も、経験がなかったこと、と説明している。そして、今季はそうではない。シーズンが進むにつれ、彼が積み上げてきたものの真価が問われるはずだ。
 
■7位に怒りのアレイシ・エスパルガロ
 今季、唯一コンセッション(優遇措置)を受けるアプリリアは、第8戦までに昨年からの確実な前進を見せている。確かに表彰台はまだ獲得していない。ただ、フリー走行ではたびたびその速さを発揮し、予選でも同様だった。そして、ドイツGPではアレイシ・エスパルガロが3番グリッドを獲得。アプリリアとしては2000年シーズン第16戦オーストラリアGP以来、グリッドの1列目に並んだ。

「(ザクセンリンクは)普通、アプリリアが得意とするサーキットで、エンジンにとってもさほど厳しいわけじゃない。それに、RS-GP 21の安定性はすごく高くて、特にコースの後半部分では強みがあると感じている。レースでは何があるかわからないけれど、3番手スタートは有利だから、最後までトップグループについていきたい」

「今日の3番グリッド獲得はとてもうれしいことだけど、そこまで驚いているわけではないんだ。これまでのレースで、だんだんライバルたちに近づいてきていたからね。ここまでのレースでは、土曜日に速いライダーからそう離れてはいなかった。新しいバイクのバランス、そして競争力の高さは格段に上がっているようだ」

 エスパルガロは、アプリリアRS-GP21の進化に手ごたえを感じていた。そして、ザクセンリンクがチャンスだとも思っていた。決勝レースに向け「トップ5が現実的」と語っていた……のだが。
 
 決勝レースでは、好スタートを切って1周目の1コーナーでトップに立った。最終コーナーでマルケスに交わされるも、2周目では再びトップを奪わんとマルケスをオーバーテイクした。トップを維持することはできなかったが、2番手を走行していたのだ。ただ、エスパルガロにとっておそらくは予想外が二つ起こった。一つは雨、そしてもう一つがリヤのトラクション不足だ。
 
「すごく怒っている」。エスパルガロは決勝レース後の取材のなかで、開口一番にそう言った。

「レース序盤はマルクの後ろについて走って、とてもいい感じだったんだ。でも雨が降ってきて、マルクのように果敢に走れなかった。それに、8コーナーでは危うくクラッシュしそうになった。それで、ペースを少し落とすことにしたんだ。そこで多くの選択肢を失った。マルクが先に行ってしまったからね」

 いつもどちらかといえば早口なエスパルガロの口調は、この日、さらに感情が乗っていた。エスパルガロは9周目まで2番手をキープしていたが、それからは後退していき、7位でレースを終えている。
 
「表彰台争いがしたかった。でも実際には、その準備ができていなかったんだ。まだやることがある」

「問題は、ブレーキでかなりのリスクを冒しているのに、トラクションが得られないことなんだ。レースで何が起こったのかわからない。リスクを冒したけれど、常に限界を超えていた。今日はかなり不満だ。もっといいポジションを期待していたのに」

「特に、コーナーの中間だ。バイクがニュートラルなときに、フロント、リヤに荷重をかけてもバランスがとれない。前のライダーについていけなかった。コーナーではことごとく、何度も何度も、ハイサイドしないように抗っていた」

 そう語るエスパルガロは、予想だにしていなかった結果にがっかり、といった様子。ただ、「全体的にはこの週末のパフォーマンスについては満足している」とも語っている。アプリリアが進化していることは確かで、今季、それを結果として証明する日がくる、かもしれない。
 
■中上、痛恨のタイヤ選択ミス
 中上のドイツGP決勝レースは、タイヤ選択がすべてだった。中上はホンダライダーのなかでただひとり、フロントにミディアムタイヤ、リヤにソフトタイヤを履いた。さらに、リヤにソフトタイヤを選んだのは全ライダーのなかでも中上だけだった。結論から言えば、中上の苦戦はこのタイヤ選択ミスにあった。中上は9番グリッドからスタートし、周回ごとに後退して13位でレースを終えている。

「今週末、バイクにはいいフィーリングがありましたし、レースへの自信もありました。ただ、タイヤ選択を大きく間違えました。(リヤは)ミディアムタイヤでいくべきでしたが、ソフトを選んでしまったんです。これが大きな間違いでした」

 決勝レースの午前中に行われたウオームアップセッションでも、中上は同じタイヤ選択をして走った。それまで中上としては、リヤはミディアムタイヤだと考えていた。しかし、ウオームアップセッションでフロントにミディアム、リヤにソフトを履いて3番手タイムを記録すると、これが中上の判断を狂わせてしまった。
 
 ただ、ドイツGPのレースウイーク全体として、バイクのフィーリングとしてはよかったのだという。
 
「フリー走行4回目では、レース距離を考えてペースを刻むことができました。数レース前には、これは難しいことだったんです。そういう状態ではありませんでした。でも今週はよかった。自信がありました。僕は(タイヤ選択で)ミスをしてしまいましたが、マルクが優勝しました。つまりは僕たちは正しい方向に向かっているということです。ここ数戦と比べれば、バイクのフィーリングはよくなっていますよ」

 中上によれば、ドイツGPでは、カタルーニャでのテスト(第7戦カタルーニャGP後に実施)と同じ仕様のバイクだったと言う。わかりやすいのはアップデートされた空力デバイスなのだが、これはマルク・マルケス、ポル・エスパルガロ(レプソル・ホンダ・チーム)、アレックス・マルケス(LCRホンダ・カストロール)の3人が使用。中上はドイツGPに投入していない。
 
「あまり大きな違いがあるようには感じておらず、新しい空力デバイスのほうがいいところもあれば、古いものの方がいいところもあります。今週は新しいものよりも、スタンダード(以前のもの)を使った方がいいと思いました」と、中上はドイツGPで新しい空力デバイスを使用しなかった理由を説明している。
 
 ドイツGPでは痛恨のタイヤ選択ミス。ただ、少なからず風向きはいい方向に変わっているようだ。次戦オランダGPは2021年シーズン前半戦の区切りとなるレース。いい形で締めくくりたい。

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