【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第8回】ウイリアムズを上回る速さを示したミックと、僚友に勝つことに捉われたニキータ

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2021年06月25日 10:51  AUTOSPORT web

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写真小松礼雄エンジニアリングディレクター(ウラルカリ・ハースF1チーム)
小松礼雄エンジニアリングディレクター(ウラルカリ・ハースF1チーム)
 2021年シーズンで6年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。3連戦の初戦となった第7戦フランスGPは、予選でミック・シューマッハーが今季初めてQ2に進出した。直近のライバルであるウイリアムズを上回る結果に喜ぶ一方、レースではコース特性にも苦しめられた。そんなフランスGPの現場の事情を、小松エンジニアがお届けします。

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2021年F1第7戦フランスGP
#9 ニキータ・マゼピン 予選18番手/決勝20位
#47 ミック・シューマッハー 予選15番手/決勝19位

 前戦アゼルバイジャンGPの決勝レースでは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)のインシデントの後、ダブルイエローフラッグが提示されていた区間で減速が不十分だったドライバーがいたこと、またセーフティカーの出動が遅すぎたという問題がありました。

 これらの件について、今回のフランスGPのブリーフィングで議論が行われました。まずセーフティーカーの件は、出動が遅すぎたとマイケル・マシ(FIAレースディレクター)が認めました。一方ダブルイエローの件では、ドライバーに対して「君たちは誰もスローダウンしなかった。今度からスローダウンするように」という感じで話があったようですが、はっきり言ってこれでは何も解決しません。本来ならミニセクタータイムを示して、「もし今後まったく同じ状況が起きた場合は、このドライバーとこのドライバーにはペナルティーを与える」と数字で明確にするべきです。そうすれば、ドライバーたちも何が求められているのかがはっきりと具体的にわかるからです。このようにうやむやなままでは、また同じことが起こるのは避けられないのではないでしょうか。

 さてポール・リカールでは、FP3から予選にかけて大きくタイムが上がりました。ミックの今回の予選は特によかったと思います。同じ新品タイヤでアタックしたウイリアムズの2台を上回っていましたからね。Q1での最後のアタックではターン6で攻めすぎてクラッシュしてしまいましたが、ターン5までに自己ベストをコンマ1秒ほど更新していました。

 このクラッシュによる赤旗がなければQ2進出は可能だったのかというと、まずウイリアムズの2台に勝てる可能性は十分にあったと思います。またニキータはミックと同じペースでは走れていなかったので、ニキータにも勝てたでしょう。

 しかし、ランス・ストロール(アストンマーティン)は赤旗が出た時点でちょうどアタックを開始するところだったので、赤旗がなければストロールには負けています。よって、もし赤旗がなかった場合に想定されるベストの予選結果は16番手で、残念ながらQ2進出は無理だったと思います。しかし、予選でウイリアムズに勝る速さがあったというのは大きな進歩だと思っています。

 クラッシュによってギヤボックスやシャシー側面へのダメージを心配していたのですが、幸いダメージはサスペンション、ノーズ、フロア、リヤウイングなどペナルティなしで交換できる部位に留められていたのでホッとしました。

■ミックに勝つことに集中しすぎたニキータ

 レースではハードタイヤがメインになると想定していて、結果的にハードタイヤとミディアムタイヤの性能は予想どおりでした。ミディアムはややリヤに不安がありスティントを通じてプッシュすることはできず、一方でハードはプッシュし続けることができるタイヤと踏んでいましたし、実際にそうなりました。ただレースではフロントタイヤが金曜のフリー走行の時ほど機能しなくて摩耗も進んだので、特に左フロントタイヤの摩耗に気をつけて走らなければならない状態でした。ミックは長い第2スティントでこれをうまくやってのけてくれました。

 レース戦略はタイヤが比較的長持ちするので1ストップになります。ミックとニキータの予選順位を考えて、ミックはセオリー通りのミディアム→ハード、ニキータは逆のハード→ミディアムにすることにしました。これはいくつか理由があるのですが、ニキータには燃料を多く積んだレース序盤にリヤに不安のあるミディアムで走るよりは、攻められるハードを与えたかったということがあります。彼はまだタイヤマネージメントに改善の余地がありますし、なにせリヤが安定しないクルマではタイムを出せないので、より安定して走れるであろうハードでスタートしました。

 レースが始まると予想どおり、ミディアムはリヤが厳しくなっていきました。ですからミックは15周目にピットインしてプラン通りハードで最後まで走ることに。ニキータはなるべくハードでの第1スティントを長く走って、レース終盤にミディアムでいい状態で走らせたかったので、31周目までひっぱりました。タイヤ的にはまだ走れたのですが、青旗の状況を考慮してこのタイミングでピットインするのが最適だという判断です。ニキータは残り21周をミディアムで走りましたが、やはりリヤのグリップがすぐに落ち、前を走っていたミックに追いつくことはできませんでした。

 残念ながら結果は19位と20位でしたが、ふたりともベストを尽くしてくれました。ミックとウイリアムズは同じ戦略だったのですが、ウイリアムズのタイムで走ることはできませんでした。しかしGPSから出てくる車速を見ると、コーナーではよく走れていたことがわかります。ウチはどうしてもDRSなしの状態での直線スピードが伸びないので、特にポール・リカールのようなサーキットでのレースはクルマ的に厳しいです。そのなかでふたりともよく走ってくれました。

 レース序盤の4周目にはニキータがミックを追い抜きましたが、このやり方はあまりいいものではなかったです。ミックはあの時、ターン1の進入でジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)に対してアタックをかけたものの成功せず、そのせいでターン2の立ち上がりが非常に悪かったのです。ここでニキータは一気に差をつめ、ターン3の進入でミックのインに飛び込んできました。ただターン4出口でミックに対してまったくスペースを残さなかったので、ミックはエスケープロードに逃げることになりタイムを5秒ほどロスしました。

 これは特にチームの現状を考えると、チームメイトに対する行為としてあまり褒められるものではありません。しかし、今回はレース後に話をすることはしませんでした。ニキータにはまず自分で考えて結論を出してほしいのですが、もしこの先もう一度このようなことがあればチームとして介入することになると思います。

 ニキータは特にミックに勝とうとすることにどうしても集中してしまいます。今年の目標はチームメイトとバトルをすることではないと何度もはっきりと言っているのですが、頭ではわかっていても、どうしてもそうなってしまうようです。これからニキータが成長していくには、この点は改善しないといけません。

 3連戦の残り2戦はオーストリアのレッドブルリンクで行われます。天候が荒れそうですが、少ないチャンスでもものにできるようにやってきたいと思います。
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