皮膚や内臓が硬くなる全身性強皮症とはどんな病気?

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2021年07月16日 15:10  QLife(キューライフ)

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 全身性強皮症という病気を知っていますか? 皮膚や内臓が硬くなったり、血管の異常により指先に潰瘍という傷ができたりする病気です。国は、病気の研究や患者さんの経済的な支援をするために、全身性強皮症を「指定難病」の1つに定めています。

 全身性強皮症の患者さんは国内に約3万人いると推計されており、女性に多いという特徴があります。病型は皮膚が硬くなる範囲によって2つにわけられます。肘や膝を越え、お腹や胸まで皮膚が硬くなる場合は「びまん皮膚硬化型」、肘や膝を越えない場合は「限局皮膚硬化型」です。これとは別に、「限局性強皮症」と呼ばれる病気があります。限局性強皮症は皮膚が硬くなりますが、全身性強皮症とは異なり、内臓の合併症は起こらないのが特徴です。

 製薬会社の日本ベーリンガーインゲルハイムは6月27日、全身性強皮症についてセミナーを開きました。セミナーでは、茂木精一郎先生(群馬大学大学院医学研究科皮膚科学)と原 健一郎先生(原内科医院、群馬大学医学部附属病院呼吸器・アレルギー内科)が講演しました。

 茂木先生によると、全身性強皮症は慢性の病気で今のところ完全に治る治療法は確立していないため、患者さんは悲観的になりがちだといいます。茂木先生は、「高血圧や糖尿病は一般的な病気だが、完全に治す治療法は確立していない。しかし、治療により病気をコントロールすることはできる」と指摘。「強皮症も同じで、病気をコントロールする治療法はいろいろと開発されてきている」とし、「病気を悪化させないようにしながら、長く付き合っていくことが必要だ」と話しました。


茂木精一郎先生(日本ベーリンガーインゲルハイム提供)

 全身性強皮症とはどのような病気なのでしょうか。茂木先生はセミナーで、「組織の線維化」「血管の異常」「免疫の異常(自己免疫疾患)」の3つが影響し合って、さまざまな合併症を引き起こす病気だと説明しました。組織の線維化では、皮膚が硬くなる「皮膚硬化」、肺の組織が硬くなる「肺線維症」、食道が硬くなることによる「逆流性食道炎」が起きます。血管の異常は、手足に十分な血液がいかなくなるなどして手指に潰瘍ができるほか、肺の血液の流れが悪くなり肺の動脈の血圧が高くなる「肺高血圧症」や、「腎機能障害」を招きます。自己免疫疾患とは、免疫の異常によって自分の体を壊してしまう病気です。全身性強皮症では、関節リウマチや甲状腺疾患など、他の自己免疫疾患と合併することもあります。茂木先生は「どのような症状が出るかは患者さんによって違うため、患者さんに合わせた治療が必要だ」と指摘しました。

間質性肺炎や肺高血圧症の合併、「早期発見が大切」

 全身性強皮症では50〜60%の患者さんが、間質性肺炎を合併することがわかっています。間質性肺炎とは、肺が硬くなり(線維化)、ガス交換が上手くできなくなる病気です。空咳や息切れといった症状があります。


原 健一郎先生(日本ベーリンガーインゲルハイム提供)

 呼吸器の病気に詳しい原先生は、「間質性肺炎は全身性強皮症患者さんの死因の35%を占める」と問題視。間質性肺炎になった場合、「ほとんど進行しないケースが約7割、数年を経て進行していくケースが約3割」だといい、「早く病気を見つけて、治療していくことが大事だ」と強調しました。

 肺の血液の流れが悪くなり、肺の動脈の血圧が高くなる肺高血圧症も、全身性強皮症患者さんの10〜20%で合併することが知られています。肺高血圧症の症状は、息切れや疲れやすい、胸痛などです。

 原先生は肺高血圧症についても、「軽症の時点でいかに早く見つけて、早く治療をするか」と早期発見の重要性を指摘しました。

働き続けるために、具合が悪いときは休むという考え方が大切

 セミナーには、「明日の会」の世話人で難病ピアサポーターの桃井里美さんも参加しました。桃井さんは、診断を受けたばかりの患者さんに対して「情報も少なく見通しが立たなければ、悲観的になってしまうのは無理のないこと」と理解を示しました。その上で、「心が落ち着かない要因は、わからないことがわからないままでいるストレスと、自分の辛さを誰かと共有できないことがある」との考えを表明。「疑問をため込まないように、受診の際には1つは質問をする」「具体的な病気との付き合い方を知り、治療を最大限に活かす自己管理をする」「話を聞いてもらい、辛さを吐き出す」と対処法を挙げました。桃井さんによると医師とのコミュニケーションはとても大切で、「治療を医師任せにせず、検査をしたときは、何のための検査か、結果がどうだったのかを確認することが大事だ」といいます。「自分はどの検査項目に注目すればよいのか主治医に聞き、自分で数値の変化を見ていくことも、安心材料になる」と話しました。また、明日の会では面談やグループワークを行うことを紹介し、「話を聞いてもらい、他の患者さんから情報を得ることで、“自分だけじゃない”“仲間がいる”と思えると安心することができる」と述べました。

 仕事との両立については、「自分の体を守れるのは自分しかいない。働き続けるために、具合が悪いときは休むという考え方が大事だ」と強調しました。桃井さん自身は、間質性肺炎で強い息苦しさがあり、主治医から診断書を職場に提出することを何度も提案されたにもかかわらず、仕事を優先して断ってしまった経験があるそうです。桃井さんは「結局、病気が悪化して入院した後、仕事に復帰することができなかった」と過去を振り返り、今の自分に合わせた働き方を考える必要性を訴えました。

 桃井さんは、「働く難病患者の7割が問題を抱えていて、ドクターストップよりもストレスで仕事を辞める方が多いと聞く」と紹介し、そうなる前に働く上での配慮を職場に求めるよう呼びかけました。「1人で悩まず、困っていることを産業保健総合支援センター、難病相談支援センターなどの専門機関に相談するのもひとつの方法。話し合いの機会を持ち、少しでも働きやすい環境につなげてほしい」(桃井さん)

 全身性強皮症の診断を受けてから10年が経つという桃井さん。セミナーでは、自身の反省や気づきを通しての10か条を提示しました。

  1. 無理をしない。できることをやらない勇気を持つ
  2. 我慢しないで、「助けて」「できない」と言う
  3. 自分が一番大事にしたいことを考える
  4. 体の声を聞く
  5. 心身のストレスを避ける環境を調整する
  6. 胃の負担にならない食事量を守る
  7. マスク着用、手洗い・うがい、薬の備蓄を行う
  8. 楽しみを見つける。日々の小さな楽しみを大切にする
  9. 話せる人を見つける
  10. 強皮症患者には明日の会がある。1人で悩まないで連絡してほしい

 桃井さんによると、明日の会ではピアサポーターによる電話相談を受け付けているほか、オンラインコミュニティを開く準備を進めているそうです。

 記事を読んで初めて全身性強皮症という病気を知った方もいるのではないでしょうか。冒頭でもお伝えしたように、全身性強皮症の患者さんは国内に約3万人と多くはありません。しかし、指定難病の数はすべてをあわせると333疾患あり、94万人を超える数の患者さんがいます1)。さらに、指定難病には含まれていない難病もたくさんあります。そう考えると、難病を抱え、困難に向き合っている人の数は決して少なくはないのです。すべての人が過ごしやすい社会を作っていくために、難病を抱える患者さんへの理解を深めていきたいものですね。(QLife編集部)

1)厚生労働省『令和元年度衛生行政報告例(令和元年度末現在)』(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450027&tstat=000001031469)

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