YouTuberを目指す人に伝えたい「ファンとの付き合い方」 登録者200万人越え、外国人YouTuberの僕が教えられること

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2021年07月24日 12:01  リアルサウンド

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撮影=池村隆司

 世界に向けて日本の魅力を発信し続けている英国人YouTuber、クリス・ブロードによる連載『ガイドブックに載っていない日本』。最終回となる8回目は、ファンとの付き合い方や今後の活動について、そして、これからYouTuberとしての成功を目指す人たちに伝えたいことを聞いた。


日本在住・外国人YouTuberの僕が、新型コロナへの日本政府の対応に思うこと


・ファンとは友人のように


 私はYouTubeでライブ配信をすることがあるのですが、最初の1時間で1万人くらい視聴者が来てくれます。そうすると、まるで自分の家に1万人のゲストを招いたハウスパーティを開いたようで、共に楽しんでいる感覚になるんです。パーティを開いてゲストと関わらないなんてありえませんから、一緒に話し、楽しみます。ファンのことはとても大事な友人のように思っています。


 そんな友人たちには、私もできる限りのことをしたいと考えています。例えば、あれはたしか2014年のこと。「日本に住みたいのだけれど、どうすれば良いか」という相談のメールをもらいました。そこで、私が知る限りの日本で仕事を探す方法や住む方法を書いて返信しました。


 それから3年半が経ち、NATSUKIと札幌にいくとホテルのチェックインカウンターで働いていたひとりの外国人が「クリス! 僕だよ!」と話しかけてきました。その時のメールの彼でした。彼は札幌で働き口を見つけ、素晴らしい時を過ごしていると、感謝の言葉を口にしました。


 あの時のメールのやりとりがきっかけで、男性が実際に日本に住むようになったとは知らなかったので驚きました。彼に限らず、メールで相談してきた人が日本で英語教師になったりもしています。自分のアドバイスが誰かの将来像を形成することに役立つなんて、本当に素晴らしいことです。動画に限らず、僕の活動やパーソナリティを信頼して声をかけてくれる“友人”たちは、今後も大切にしていきたいと考えています。


 またファンに限らず、私が相手にしているのは常に人間である、ということを意識しなければならないと考えています。


 人は、一度抱いた感情を決して忘れないものです。例えば、3年前に誰かと会って話をしたとしましょう。その時にどんな会話をしたのかは具体的に覚えていなくても、相手が自分に対してどんな態度をとったのか、どんな感情を抱いたのか、ということは覚えているはずです。


 もし渋谷で私のことを知る誰かに話しかけられたとして、その人を邪険に扱ったなら、その人は数年、数十年、もしかしたら百年に渡って「『Abroad in Japan』のクリスってやつは、最低なやつだった」と覚えていることでしょう。


 そんなこともあり、私は出会った人に決して失礼なことを言わないよう心がけていますし、短気を起こすこともありません。私と出会った人には、私に対して良い印象を持ってほしい。


 どんなに嫌なことがあって、何もかもが憎く嫌気がさしていても、道ですれ違った人から「こんにちは! あなたの動画のファンですよ」と言われたら、足を止めて笑顔で話をします。もしあなたと出会う機会があったら、この連載についてお話しできたらいいなと思います。


・オリンピック延期による影響


 さて、2020年に東京でオリンピックが開催される予定でしたが、新型コロナウイルスが原因で延期されてしまいました。私の周りでも、残念がっている人が多いように思います。


 去年の3月に新型コロナウイルスに関する動画を作った当時は、「オリンピックがキャンセルされるなんて考えられない」と話しましたが、それが延期という形で現実のものとなってしまいました。この文章を執筆している2021年7月現在の世界状況を考えると、規模を縮小しての開催を試みてはいるものの、思い切ってキャンセルすることもできたのではないかなとも思います。外国人が日本に旅行できたり、日本に注目する理由は、オリンピックでなくてもたくさんあると僕は信じています。


 いずれにしても、オリンピックに関連して制作したいと考えていた動画の企画は、すべて中止になってしまいました。例えば、日本の観光の仕方や知っておくべきエチケット、「東京でやりたい100のこと」など、オリンピックを観にやってくる外国人観光客向けの動画です。観光客がどれだけ入ってこられるかわかりませんし、エチケットについては新型コロナウイルスの前後で変わってくるでしょう。


 一刻も早く事態が収束し、日本旅行をより楽しむための動画を届けられることを願っています。


・YouTuberからフィルムメーカーに


 私はずっとYouTuberでいたいわけではありません。登録者が100万人を超えた時点で、自分の中では十分に満足しており、チャンネルの規模をさらに大きくしたい、という思いはありません。


 だから、より面白いコンテンツを作ることはもちろんですが、今は活動をルーティン化させず、新しいことに挑戦しながら自分の中での時間の流れを遅くしたいと考えています。過去2年間、外で撮影し、家に戻ってきて編集して、出来上がったものをYouTubeに投稿する、という作業を繰り返してきました。撮影で経験することは常に新しいことですが、作業としてはルーティンになり、そうすると時間の経過がとても早く感じるんです。「Journey Across Japan」の企画で2000kmの自転車の旅をしながら28本の動画を作って以来、私は自分自身を追い込んでいない、と思うことがあります。


 今後の予定としては、YouTubeとは別にショートフィルムを作っていこうと思っています。そのために、SONYの最新カメラで8K動画対応の「α1」を購入。最終的には100万円超えのフィルム用カメラを手に入れたいのですが、まずは8Kカメラです。


 そして、作ったショートフィルムはコンペティションに出す予定です。普段は次々と機材を買うようなことはしません。現在使っているカメラも2017年に購入したものですし、登録者数が多いからといって最高の機材を持っていなければいけないということもないと思っています。今回、大枚叩いて最高の機材を揃えるのは、フィルムのためです。フィルム制作は今までとは違う冒険になりそうです。


 とはいえ、Netflix用のドキュメンタリーやフィルムコンペティション用のショートに挑戦するのは、そんなに難しいことではないと考えています。これまでにも、自分のステップアップのためにドローンの飛ばし方やグリーンスクリーンの使い方などを学んできました。今だって、フィクション作りに挑むために、作業の隙間をぬってシネマトグラファー(撮影監督)とライティング(脚本)の勉強をしています。


 手始めに、完成したショートフィルムをYouTubeチャンネルでテスト配信するかもしれません。将来的には映画業界に入っていくことも考えています。いつの日か、ハリウッドの大物スターが私の動画に登場するかもしれません(笑)。


・フィルムを撮るなら


 まだ具体的な構想はありませんが、ショートフィルムならドキュメンタリーではなく、フィクションを撮れたらと思っています。


 日本に関するドキュメンタリーは既にたくさんありますが、リサーチ不足を感じる内容が多い印象です。イギリスでも、渋谷のスクランブル交差点から始まる日本のドキュメンタリーが何度も放送されました。しかし、そのほとんどが「日本がどれほどぶっ飛んでいてヘンテコな国なのか」という、ステレオタイプでデフォルメされた内容ばかりなんです。


 また、視聴者の関心をひく狙いなのか、衝撃的でネガティブな内容もありますね。例えば、Netflixのオリジナルコンテンツである『Dark Tourist(世界の現実旅行)』では、福島が死の町のように紹介されていました。その歴史や人、土地に対する敬意が払われていない。ガイガーカウンターの数値と警告音に恐れ慄く観光客が、インスタグラムの写真を撮るだけの深みのないものでした。そこに住んでいる人たちに焦点を当てることもないなんて、失礼だと怒りを感じます。


 私は福島に実際に行きましたが、ガイガーカウンターは警告音を鳴らしても数値としては非常に低く、危険性は感じませんでした。真実を伝えていないし、偏った見方で福島の印象を悪くしていると思います。


 私なら、視聴率重視といってもコンテンツの扱いには細心の注意を払います。それに、プロパガンダになりうるコンテンツも、想像力を欠いてしまうので作りません。


 もっとも、Netflixには優れた作品も多く、犯罪をテーマにしたドキュメンタリーは名作揃いです。『Unsolved Mystery(未解決ミステリー)』や、脳震盪がきっかけで犯罪者になってしまった元NFLのプレイヤーであるアーロン・ヘルナンデスを描いた『Killer Inside(内なる殺人者:アーロン・ヘルナンデスの素顔)』は素晴らしかった。コロナ禍の代表的なコンテンツとなった『タイガーキング 』は、娯楽性に重きを置いたからかリアルを伝えていたとは思いませんでしたが。


・YouTuberとしての成功を目指すみなさんへ


 私がフィルムメーカーを目指す一方で、コロナ禍でYouTuberデビューする人も増えてきました。


 新米YouTuberに何かアドバイスをするとしたら、「視聴者のためになるものを作ってください」でしょうか。笑いでも教育でもいいのですが、視聴者に利益を与えることが重要です。もし私が明日YouTubeチャンネルを開設したとして、「昨日吉野家に行きました。美味しかったです。楽しかったです」と話したところで、面白味はないでしょう。私の動画は新しい知識を得られるだけでなく、人と話すネタにもなるようにデザインされています。グランクラスの新幹線の中を見せたり、現実逃避できたり、ジョークを楽しんだりといったように。YouTuberになるなら、番組を通して視聴者に何を得てもらえるかを考えなければなりません。自分の利益より、まず視聴者の利益になるコンテンツを発信すると言うことが最も重要なのです。


 自分では気がつかなくても、誰もが長所や得意なことを持っていて、それぞれの方法で、人にメッセージを伝えることができます。なので、YouTubeを始めるなら、自分の得意分野は何か、何に興味あるのかを追求することが重要です。私は日本で英語教師をしていたので、その経験を視聴者に伝えようと思いました。自分が経験したことや自分が得意としていることを主軸にすることが成功の鍵だと思います。


 私は自分の持ち味を生かし、これからコンペ用のショートフィルムを作りたいと考えていますし、この文章が出るころには、複数の作品が完成しているかもしれません。YouTubeにあらためて注力して200万人登録を目指しているかもしれないし、Netflixのオファーを受けてビッグバジェットで作品をつくっているかもしれない。YouTuberに決まった道はなく、だからこそ可能性は無限大なのです。(構成=中川真知子)


■Chris Broad(クリス・ブロード)
30歳、イギリス出身。YouTubeチャンネル「Abroad in Japan」を運営。登録者数250万人。日本を拠点に活動するトップ外国人YouTubeクリエーターとして200以上の動画を制作。東北地方太平洋沖地震に関するドキュメンタリーや、L’Arc-en-Cielのボーカルとして世界中にファンを持つHYDEのソロ活動密着動画など動画のジャンルは多岐にわたり、訪日インバウンド集客から実行まで行うTokyo Creativeと共に、日本各地の自治体や企業向けのコンテンツも制作している。2012年にALTとしてJETプログラムに参加し、英語教師として2,000時間以上を費やした後にフルタイムの動画クリエーターへ。夢はプロのフィルムメーカーになり、チョコレートでできた家を建てること。


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