力不足だった高嶋ちさ子 ほめない母が「期待以上だった」と言ったワケ

0

2021年08月01日 11:30  AERA dot.

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AERA dot.

写真高嶋ちさ子さん(右)と林真理子さん [撮影/写真部・高橋奈緒、ヘアメイク/豊田ちえ、スタイリング/小笠原靖子、衣装協力/MIKIMOTO]
高嶋ちさ子さん(右)と林真理子さん [撮影/写真部・高橋奈緒、ヘアメイク/豊田ちえ、スタイリング/小笠原靖子、衣装協力/MIKIMOTO]
 そのトーク力を生かして、バラエティ番組などでも活躍するヴァイオリニスト・高嶋ちさ子さん。作家・林真理子さんとの対談では、仕事のことから家族のことまで、あけすけに語ってくれました。

【前編/昔の中国なら処刑? 高嶋ちさ子の「母もかなり手こずった」過去】より続く

【高嶋ちさ子さんの写真をもっと見る】

*  *  *
林:お仕事のことをお聞きしたいんですが、コロナ禍でコンサート大変だったでしょう。

高嶋:さすがに去年の2月から8月までは何もできなかったですけど、9月からは60本近くやって、その遅れを取り戻しました。

林:テレビでちさ子さんのコンサートを見ていたら、「私はクラシックの世界を1ミリたりとも侵していません」っておっしゃってて。つまり、自分がやってることはクラシックとは別の世界なんですよということを言っていて、潔いなと思いましたよ。

高嶋:弱点は言われる前に自分から先に言う、というのが私のモットーでして(笑)。けど、クラシックのお客さんを私が横取りしているわけじゃないというのは本当です。私のコンサートは、初心者の方とか、テレビを見て来てくださる方がほとんどですから。

林:そういう人たちが、今度はクラシックの難曲を聴いてみたいと思ったら……。

高嶋:そしたら、「そういう演奏会に行ってください」って。私、そういうのは弾く気ないんです。

林:ちさ子さんのコンサート、楽しそうですよね。

高嶋:ぜひ今度いらしてくださいね。私のコンサート、とくに地方公演では、「さっきまで田んぼを耕してました」という雰囲気の、長靴はいたままの方とかけっこういらっしゃるんですよ。

林:そういうの、すごくいいですね。皆さんが知ってる曲もちょっとまぜてるんですね。

高嶋:皆さんが知ってる曲しか弾きません。知らない曲を弾くとみんなポカンとしちゃうから、有名な曲を5分以内で弾いて、飽きないようなつくりにしてるんです。

林:たとえばどんな曲ですか。

高嶋:弾きたい曲がいっぱいあるので、困ったときは「音楽史メドレー」にします。バッハの「G線上のアリア」から始まって、モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」、ベートーヴェン、ロマン派、チャイコフスキー、メンデルスゾーン、そしてラヴェルの「ボレロ」、最後にガーシュウィンで締める、という音楽史をたどるメドレーを5分で。

林:えっ、5分? 30分ぐらいかかると思ったけど。

高嶋:30分も弾いたら、聴く人の集中力がもたないんです。だから、「本の目次のように5分で演奏いたします」というコンセプトで、凝縮して楽しんでもらおうと思って。

林:私、このあいだ由緒あるオーケストラの定期演奏会を聴きに行ったんですよ。そしたら「何しに来た」という視線を強く感じるんです。ちょっとせきばらいでもしようものならにらみつけられて、「ごめんなさい」って縮み上がって、すごくコワかった。

高嶋:よ〜くわかります。そのテーマだったら2時間でも3時間でも話したいことがありますけど、実際、そういう世界が好きな人たちもいます。けれど、日本のトップのオケの人たちも、クラシックが好きなお客さまが減っていることを肌で感じているみたいです。だから、コンサートの前にロビーコンサートをやって、ちょっとトークを入れるとか、みんな工夫をこらすようになってきているので、これからだいぶ変わってくると思います。

林:そうですか。

高嶋:うちの母は慶応のワグネル(学生オーケストラ)出身なので、そのときの友人と一緒にN響(NHK交響楽団)の会員になっていて、私も小さいころによく連れていかれました。ああいうのに行くことが当時はステータスだったんですね。

林:三枝(成彰)さんが、「高嶋ちさ子さんのヴァイオリンの音色はすごくやさしい」ってほめてましたよ。

高嶋:ほんとですか。けっこう内面が出ちゃうんです(笑)。

林:楽器はストラディバリウスでしょう?

高嶋:はい、そうです。

林:私、前にちさ子さんから聞きましたよ。「どういうヴァイオリンを持つかは、歌手の人がどういう声を持つのかと同じだ」って。

高嶋:はい、そうですね。

林:だから皆さん、借金してでも名器を手に入れたいと思うわけですね。貸与される方もいるみたいですけど。

高嶋:財団が持ってることが多いんですけど、財団から借りるなら、世界のトップ層と認められるようにならないといけないんです。

林:これも三枝さんからの受け売りですが、「音大に入るなんて、失業者への道をたどるようなものだ」と言ってましたよ。

高嶋:それについても3、4時間しゃべれますけど、そもそも音大に入れることを目的に子どもを育てちゃいけないと思うんです。どういう音楽家にしたいのかによって、音大に行くのか、行かないのかのチョイスがある。うちの子はチェロをやってますけど、コンサートチェリストになる気がないんだったら、音大に行かなくてもいいと思います。たとえば海外では、大学受験に楽器などの特技がけっこう効くので、「そういうときに武器にしなさい」と言ってあります。

林:ほぉー、なるほど。ちさ子さんは、お子さんを音大に入れると決めているわけじゃないんですね。

高嶋:はい。需要が少ないので、音大に行っても食べられないのはあたりまえです。音大卒のコンサートよりも、真理子さんがコンサートやったほうが絶対お客さんが集まりますよ。

林:私、何をするんですか。タンバリン?(笑)

高嶋:歌、歌われてましたよね。

林:それは遠い昔で、もう声も出なくなりました。

高嶋:もう一回やってください。一緒にやりますか?

林:いいですねえ。今度ゲストで……ウソウソ(笑)。ヴァイオリンとかチェロを趣味とするエリートの人って、カッコいいですよね。

高嶋:でも、趣味にするにしても、自転車とか水泳みたいに、一回できたら忘れないならいいけど、チェロとかヴァイオリンって、やめたら初心者みたいになっちゃうんです。それで、「昔やってたんだよ」「じゃ、弾いてみて」「いや、無理無理」ってなっちゃう。だからヴァイオリンとかチェロって趣味にしづらいのかなとは思いますね。

林:なるほどね。

高嶋:うちの母は、私たちが大きくなってからまたピアノを始めて、友達とカルテットを組んだりしてすごく楽しそうでしたけどね。

林:私がうらやましいなと思うのは、東京のおハイソと言われるおうちって、家族で合奏するんですよね。天皇家みたいにお母さんがピアノを弾いて、お父さんがチェロを弾いてとか。たとえプロになれなくてもすごくうらやましい。

高嶋:母は私に、「あなたはかわいそうね。あなたは人前で弾いてちょっとでも間違えると“下手くそ”って言われるけど、私たちは家の中でただただ楽しんで弾けるのよ」って言ってました。

林:それは素晴らしいことだと思う。お母さまはピアノによって豊かな人生を送られたんですね。

高嶋:芸大に行きたかったのに行けなかったという思いがあるわりには、上手に軌道修正したと思います。

林:お母さまはちさ子さんのこういう活動を何とおっしゃったんですか。「もっとクラシックの世界に行ったほうがいい」とは……。

高嶋:上には上がいて、それには力が足りないということが、高校(桐朋女子高)に入ったときからわかっていたので、自分で自分の道を見つけたことに関して「あなたは期待以上だった」と言ってました。

林:それは素晴らしい言葉じゃないですか。

高嶋:ありがたいけど、だからといって私のことをほめるとか、そんなことはぜんぜんないんですよね、うちの家族は。なんか気に入らないみたいです(笑)。

林:そんなことないですよ。口に出して言わないだけで。パパだって自慢の娘だと思うな。

高嶋:(首をかしげて)どうでしょうね。

林:ちさ子さんも、お子さんが二人とも立派になって、旦那さんとも仲良しで、大活躍なさって、もう望むものはないでしょう。だからこんなに生き生きしちゃって。

高嶋:そんなふうに思われることが多くて、同業の人たちにも一人勝ち的なことを言われるし、「高嶋ちさ子が死んじゃえばいいのにと思ってるヴァイオリニストがいっぱいいるよ」って言われたこともあるんですよ。けど、この幸せと今のポジションを維持するのってむちゃくちゃ大変で、そういう大変な部分を人は知らないから。

林:幸せとポジションの両立ってすごく難しいと思う。でも、久しぶりにお会いしたら、すごく健康的で、ほどよく筋肉がついてて、すてきですよ。こんがり日に焼けてますけど、ゴルフでも始めた?

高嶋:はい。子どもが二人ともアメリカに行っちゃったので。

林:ゴルフは初めてじゃないでしょう?

高嶋:学生のころ、チャラチャラしてたころにちょっと。

林:カッコいいですよ、ますます魅力的になって。必ず「美貌の」って形容詞がつくしね。

高嶋:もうつかないですよ。15年ぐらい前までは「美人ヴァイオリニスト」って書いてもらえたんですけど、それがしばらくすると「毒舌」になって、それ以降もう“美”の形容詞は戻ってこないです。

林:いやいや、まだ十分「美貌のヴァイオリニスト」でいけますよ。

高嶋:私、見た目なんかどうでもいいんです。おもしろければいいんです。

林:そんなこと思ってないくせに(笑)。

高嶋:アハハハハ。

(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)

高嶋ちさ子(たかしま・ちさこ)/東京都生まれ。6歳でヴァイオリンを始め、桐朋女子高音楽科、桐朋学園大学を経て、1994年、イェール大学音楽学部大学院修士課程アーティスト・ディプロマコースを修了。デビュー後は多彩な演奏活動を続け、年間100本近いコンサートをこなす。「12人のヴァイオリニスト」「Super Cellists」などのプロデュースも手掛ける。テレビやラジオなどでも活躍。近著に『ダーリンの進化論 わが家の仁義ある戦い』(小学館)がある。

※週刊朝日  2021年8月6日号より抜粋

    ニュース設定