15年続く『全力坂』の魅力 少女が全力で坂を上る“45秒”に視聴者は何を見る?

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2021年08月06日 08:40  ORICON NEWS

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写真菅 明日香 (C)テレビ朝日
菅 明日香 (C)テレビ朝日
 2005年から放送されている『全力坂』(テレビ朝日・毎週月〜木曜 深夜1:20〜1:26)。放送枠6分に対し、走る時間を見せるのは45秒。過去には福原遥や土屋太鳳なども出演しており、売り出し中の若いタレントらが、ただただ坂道を全力で走り切る、という内容は当初から変わっておらず、芸能人にもマニアが多い。その特異性から、他局含め多くの番組でパロディとして行われることも多い。だが、一般的には「誰が観てるんだろう」、「全力坂は謎」といったコメントも。『全力坂』が続いている理由や番組制作の裏側は? 演出の長嶺正俊氏に聞いた。

【画像】ほとばしる汗が美しい… ミニスカートやタイツ姿で走る少女たち

■スタッフが語る『全力坂』誕生秘話 初期には土屋太鳳や木村拓哉も坂を疾走

 「この坂もまた、実に走りたくなる坂である」――俳優・吹越満のナレーションにより大地を蹴って、坂道を走り出す少女たち。ある少女は真剣なまなざしで、ある少女は軽い苦悶の表情を、そしてまたある少女は凛と口を引き結んで。様々なカメラアングルで坂道を駆け上る少女たちを映し出し、登りきった彼女たちのみずみずしい息切れで番組は幕を下ろす。先月から、放送開始15周年の新企画「イケメン坂」もスタート。初回ランナーには、仮面ライダー俳優の三浦涼介が挑んだ。この『全力坂』は、果たしてどのような背景で生まれたのだろうか。

「深夜のミニ番組ということを鑑みた時に、気楽に見ていられる企画…演出が過多にならず、素材に力があるものが良いと考えました。深夜の帯なので、図鑑的な側面を併せ持った方が良い…深夜ザッピング中に、皆の手が止まるもの…そんな様々な思いがあったなか、『坂』を女性に走らせるというアイデアが出ました。調べると、東京には600を超える坂道があるという事実を知り、いろいろな思いが合致し制作に至ったのです」(長嶺氏/以下同)

 今なおファンが多い理由については、「キャストが常に新鮮であることが第一の要因。同じ女性が数ヶ月・数年先にまた走ることはありません。出場者は1000名を超えています。加えて年に数回、各ドラマや映画、番組とのコラボもあり、〇〇が全力坂に?という興味が常にあること」と分析する。過去には女優の福原遥、土屋太鳳などのほか、売出し中だった高梨臨などの名前もあり、まさにフレッシュなキャスティング。『SMAP☆がんばりますっ!!』(同系)とのコラボでは、2009年に木村拓哉が、2010年に草なぎ剛も出演しており、大きな反響を呼んだ。

■青春?エロティシズム?視聴者のさまざまな感情を引き出し15年の長寿番組へ

 なぜこの番組が15年も続いたのか。長嶺氏は「走り時間たった45秒の中に、視聴者によって捉え方の違ういくつかの〇〇イズムと括られるような、ある“ニュアンス”が存在し、それがネット等で広がり、ファンを作っていったんだと思います」と回答する。この○○イズムはまさに十人十色だろう。まず考えられるのは“青春”。少女が体育祭などで真剣に走り、飛び、奮闘し、やり切った後のハアハアという息切れ。それを見て、若者だった自分を回想し、あたかも体育祭の場にいるかのように懐かしむ人もいたに違いない。

 もう1つは一種のエロティシズムだ。漫画『松田優作物語』(秋田書店)には、“ショーケン”こと萩原健一が往年の名作『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)に出演する際の裏話が描かれている。出演することに消極的だった萩原。その萩原を、当時のスタッフはこう言って説得した。「君はただ走るだけでいい。君には天性のスター性が宿っている。その君が全力で走ることで全身から君の持つ魅力そのものがあふれ出してくるんだ」。『太陽にほえろ!』の刑事が走るシーン誕生秘話でもあるが、ショーケンといえば当時の色気のある男性の代表格。この“色気”が存分に発揮され、『太陽にほえろ!』は名作となった。

 同じように、売出し中で野望を持った少女が全力疾走する。そこから彼女らの夢が、希望が、溢れ出す。さらに筋肉が絞られ、汗も噴き出し、息切れもする。それらにエロティシズムを覚える視聴者も少なくなかったはずだ。

 その一方で「謎の番組」との声も多い。長嶺氏は「先述の“ニュアンス”には、その“謎の…”も含まれています。この“ニュアンス”が番組最大の演出効果だと考えていますので、そこにハマっていただけたのだと捉えています」と話す。

 そのために、演出も徹底する。「ちゃんと“坂”感(全体像、傾斜感)と女性の可愛らしさ、今回だとメンズの格好良さでしょうか、それと、なんといっても『全力感を捉えるように』とスタッフには言っています。また、キャスト選び、坂選びを含め、見飽きた感を出さないように、新鮮さを失わないよう心がけてもいます」

 坂選びに関しては、地図とGoogle Earthとのにらめっこ。2016年にすでに放送2000回を超えているが、実は坂道を2000も紹介はしておらず、同じ坂道を走らせることもある。だが、日本は四季の変化を楽しむ国。撮影の季節や時間帯によって同じ坂でも違った表情が見られるため、新鮮さが保たれているのではないか、という。

■他局でもパロディになるほど話題に「ミニ番組でも長尺番組を凌駕できる証明ができた」

 こうして「なんか変な番組なんだけど、なぜかずっと続いている」と囁かれ続けた『全力坂』は業界でも話題を呼び、多くのパロディ企画を生んだ。2010年には『世界!レアレア☆ミュージアム』(日本テレビ系)で「デヴィ夫人の全力坂」が。『リンカーン』(TBS系)では、お笑いタレントが全力で坂を下る「全力坂下り」というミニコーナーが。さらにドラマ『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』(同系)では、レギュラーで刑事役を努めていた松澤一之と載寧龍二が港区の円通寺坂を駆け上がるシーンに「全力デカ」のテロップが挿入された例もある。

 そして今年7月。月に2回、男性が走る企画「第1・第3木曜日はイケメンが走る坂!」がスタートした。この男性の起用に関して、長嶺氏は「昨今のイケメンブームに乗っかった」とぶっちゃける。「女性の走りとはまた違った力強さと疾走感をお届けしたかったということも当然あります」先述のショーケンよろしく、男女関係なく、全力で走るその姿からは、走者の別の“魅力”が溢れ出してくる。

「ちょいと休憩、またぎの時間と言われる時間帯の番組が多いカテゴリーですが、企画によってはこういう形で取り上げられ、話題性で他の長尺番組を凌駕することもできるという証明ができたと思います。意味、役割は?と問われれば、やはり番組と番組の間のブレイクタイムであることは間違いないと思います。が、そんな中でこの2分間にチャンネルを合わせる視聴者がいる…そこでちょっとほっこりする。『今日は頑張れたか?』『明日は頑張ろう!』といったことを感じてもらえると嬉しいです」

 全力で走る、全力で頑張るという姿を映し出す『全力坂』。奇しくも現在は東京オリンピックも開催中だ。選手たちの全力、その肉体からはまたさまざまな“魅力”や“物語”が溢れ出してくるに違いない。また、ひいきの選手を、日本を、全力で応援する“あなた”からも、なんらかの“魅力”が溢れ出しているのかもしれない。

(文/衣輪晋一)

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  • 港区は特に坂が多いから始めたんだろうね
    • イイネ!1
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