【多賀少年野球クラブ】なぜできる?「強い」と「楽しい」の両立

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2021年10月05日 17:20  ベースボールキング

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「世界一楽しく! 世界一強く!」を掲げ、18年、19年にマクドナルド杯を連覇するなど3度の日本一に輝いている多賀少年野球クラブ(滋賀県犬上郡)。「強い」だけのチーム、「楽しい」だけのチームは全国に多くあるかもしれません。しかしその二つを両立できているチームはいくつあるでしょうか? そもそも本当に「楽しい」と「強い」は両立できるのでしょうか? 彼らが練習するグラウンドに足を運んでみました。



何台あるんだ!? バッティングマシン


露出した肌をみるみる赤く染めあげる強烈な日差しとグラウンド脇を跳ぶ大きなトノサマバッタ。外野の奥からはときおり猿が姿を見せる。そんな長閑な自然に囲まれた滝の宮スポーツ公園で多賀少年野球クラブ(以下、多賀)は練習を行っていました。
まず驚くのはグラウンドの広さとバッティングマシンの多さ。朝10時に訪れた時にはスピードの違う5台のマシンが並べられ、それを1分間打ち込むと隣のマシンに移動してまた打ち込む練習が行われていました。
打ち込み練習が終わると、今度はレベルや学年ごとに4つのグループに別れ、広いグラウンドを4面使ってグループ別の1カ所バッティングがスタート。

「グラウンドも広いしマシンが5台もある(実はもっとあるらしい)。そりゃ強くもなるはずだ」
正直そんなことを思いました。これを読まれている皆さんもおそらくそう思われることでしょう。しかしこのあと取材を続ける中で、それは多賀が強い理由の一つに過ぎないことを思い知らされるのでした。


まず身につけるのは「打つ」よりも「捕る」


グラウンド横の土手から聞こえてくる楽しそうな子どもの声。上ってみると『遊びの広場』と呼ばれる2つの広場で、楽しそうにボールを投げたり捕ったりする小さな子ども達が姿がありました。未就学児や入部してまだ間もない低学年の子、体験入部に来た子など、ちびっ子達の顔ぶれは様々。そこに辻正人監督の姿がありました。
辻監督は簡単なゴロを何度も転がし、小さなが子の構えたグローブに収まるように何度も下からボール投げ、その都度捕れたら「入ったー!」「やったー!」「天才やー!!」と大げさに驚いてみせるなど、笑いを交えて子ども達にボールをキャッチする練習を繰り返していました。



印象的だったのは、小さな子にもグローブを下からだけではなく上から出させたり、逆シングルやフォアハンドでキャッチさせたり、色んなグローブの出し方、キャッチの仕方を教えていたこと。野球の普及と育成を楽しく行う。だから子どもは野球が好きになり上手にもなる。そこにこのチームの強さの礎、源がある気がしました。



しかし、なぜ打つ練習ではなく、捕る練習なのでしょうか? 体験に来た子を含めてこの年代の子は打つことの方が楽しいはず。そんな疑問をぶつけてみると辻監督はこんな説明をしてくれました。
「昔は打つ練習もさせていました。でも小さな子どもってね、なかなかバットに当てることができないんです。何度やってみてもできないと子どももショックを受けるんです。そうなると野球が楽しいと思ってもらえません。であれば捕ることの方がバッティングよりは簡単ですから『できた!』という喜び、成功体験を味わうことができる。だからまずは捕ることから体験してもらっているんです」




年中さんがファーストを守れる理由


ちびっ子達に「捕る」練習をさせることにはもう一つの理由があると言います。それは「ファーストとしてボールを捕れるようになること」それがテニスコートからメイングラウンドに“昇格”できる基準だから。

「見ていただいた4カ所のバッティング練習あったでしょ? あれは打つ練習と同時に守備練習も兼ねているんです。そこに入ってファーストとしてボールをしっかりキャッチできるかどうか? それができるようになったらこっち(メイングラウンド)に行けるんです。そしてこっちに来れたらバッティング練習にも参加できるんです」
実際、メイングラウンドの一番下のカテゴリーのグループに目を移すと、そこにはファーストを守る年中さんの小さな男の子の姿がありました。その子は内野手からの送球を当たり前のようにキャッチしているのです。



メイングラウンドで練習ができるのは学年や体型に関係なく、ファーストとしてボールをキャッチできるかどうか。
なるほど明確な基準です。
もう一つ驚いたのが、1、2年生の子ども達がファーストまで強いボールを投げていたこと。これもテニスコートで正しい投げ方を教わっていたからこそ。低学年のうちからこんなレベルなのですから、高学年になったときにどんな選手になっているか、想像することは難しくありません。

挨拶代わりの連続スタンドインとノーサイン野球


取材日の午後には近くの球場で近畿秋季学童軟式野球県予選が行われました。多賀は初回に1点の先制を許しますが、その裏に1番バッターがいきなりレフトスタンドに先頭打者ホームラン。試合会場がざわつきます。そのざわつきを切り裂くように続く2番バッターも初球を左中間スタンドへ連続ホームラン。たった二人であっという間に逆転です。ざわつきはやがて驚きとため息が混じったものに変わり、会場に流れていた様子見の空気も「やっぱり多賀はレベルが違う!」そんな空気に一気に変わりました。

対戦相手のレベルは決して低いわけではありませんでした。それでも終わってみれば14-1で多賀の圧勝。次々外野の頭を越えていく打撃も見事でしたが、驚くべきは初球スクイズやツーランスクイズなどを含めて試合中は全てノーサインだったこと。
試合後に辻監督に初球スクイズの場面について訊きました。
「あの場面、打者は全くベンチを見ていないし監督が打者に耳打ちなどもまったくしていませんでした。相手からしたら初球にスクイズを仕掛けてくる気配が全くなかった。だからこそ『初球はストライクを投げてくる確率が高い』と打者と3塁ランナーが共に判断してあうんの呼吸でスクイズをした、そういうことですか?」

辻監督は言いました。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。だって子ども同士で考えてやっていることですから(笑)」

強いチームは全国にたくさんあると思いますが、大人が子どもを動かして勝つのではなく、子ども達自身で考えて動き、勝てるチームは多くはないのではないでしょうか。

一体どんな練習を積み重ねればこんなチームができるのでしょうか?
残念ながらその理由の1割もお伝えすることができませんでした。詳しくは来年1月頃に発売予定の書籍『タイトル未定』(インプレス)でたっぷり紹介できればと思います。ご期待ください。(取材・写真・文/永松欣也)

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