妊娠できないのは女性のせいか 認知されにくい「男性不妊」に、鈴木おさむが正面から切り込む

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2021年10月17日 17:05  AERA dot.

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写真すずき・おさむ/1972年生まれ、放送作家。数多の人気番組の企画、構成、演出を手がけるほか、近年はドラマ「M 愛すべき人がいて」の脚本、舞台「もしも命が描けたら」の作・演出なども務めている(撮影/写真部・高橋奈緒)
すずき・おさむ/1972年生まれ、放送作家。数多の人気番組の企画、構成、演出を手がけるほか、近年はドラマ「M 愛すべき人がいて」の脚本、舞台「もしも命が描けたら」の作・演出なども務めている(撮影/写真部・高橋奈緒)
 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。


【写真】鈴木おさむさんの著書『僕の種がない』はこちら
 鈴木おさむさんによる初めての小説『僕の種がない』が刊行された。「男性不妊」という難しいテーマを扱いながらも、「面白いことは尊い」という視線が作品全体を貫いている。


そこには、ビートたけしさんや明石家さんまさんといった、人生で起こったことを笑いに変えてきた、日本の大物芸人たちに対する尊敬の念が刻まれている。筆者である鈴木さんに、同著について話を聞いた。


*  *  *


 ストレートで潔くて、目を背けようとも脳裏に焼きついて離れないタイトル。恐る恐る読み始めると、そこに宿る熱量に圧倒される。『僕の種がない』は、鈴木おさむさん(49)が「男性不妊」という、現代的なテーマに真正面から切り込んだ小説だ。


 ドキュメンタリーディレクターの真宮勝吾は、がんで余命半年の芸人、一太に「子どもを作り、その姿をドキュメンタリーとして残さないか」と提案する。一太は無精子症で、妻との間に子どもはいなかった。勝吾と一太は深い信頼関係で結ばれながら、無謀とも言える挑戦に乗り出す。


 鈴木さん自身、妻である大島美幸さんと妊活を始める際、精子検査を行った。そこで目にした光景が忘れられない。雪が降る日にもかかわらず、病院の前には朝から100人以上もの人が列をなしていた。


「好奇心が強いこともあり、僕はどこかウキウキしていたところがあったのですが、なかには暗い顔をしている人もいました。実際に検査をしてみると『精子の運動率が悪い』と言われて。そこで初めて、『自分のせいなのか?』と」


 周囲の仕事仲間たちに話すと、「実はうちも」という言葉が何度となく返ってきた。


「男性の多くはオープンに口にすることができないんだ、と気づきました。男性不妊に対する認知度の低さから『妊娠できないのは女性のせい』と思われてしまう傾向もある。自分なりの形で世に知らしめることはできないか、と」



 一太はがんを患いながら、そのうえで子どもをつくろうとしている。繊細なテーマゆえに、執筆中は不安や悩みから解放されることはなかった。


 書くことから逃げ出したくなるようなシーンもあった。それでも、逃げずに向き合った。「自分がエンターテインメントにすることで、傷つく人がいるかもしれない」という思いがあったからだ。


 鈴木さんの“本気”が充満する、印象的なシーンがある。一太の睾丸を包む膜をメスで開き、医師が精子を見つけだそうとするシーンだ。そうした一見小さな行為から生命が誕生することのすごさを知ってほしいという鈴木さんの姿勢は、作中に登場するベテラン医師の言葉にも滲(にじ)む。


「また僕がトリッキーなことを題材にしている、と思われても、世の中がちょっとざわつくきっかけになったらいいな、と本気で思っています」


 近年はドラマや舞台の脚本も手がける。多忙を極めてまで「小説」に挑むのはなぜか。


「文字だけで表現するって、とてつもないことだと思うんです」と鈴木さんは言う。


「でも、挑戦してみたいし、そこでしか表現できないことがきっとある。例えば、小説で描いた、精子を探し出すシーンをそのまま映像にしても、文字で書いたものと同じにはならないと思うんですよね。すべてを文字だけで表現するって、エンターテインメントの中で一番難易度が高い。そう僕は思っています」


(ライター・古谷ゆう子)



※AERA 2021年10月18日号


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