【中野信治のF1分析/第16戦】路面変化の難しい判断とハミルトンの人間らしさ。鍵を握った角田とペレス

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2021年10月18日 11:31  AUTOSPORT web

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写真4基目のPUに交換して雨上がりの予選日から速さを見せていたハミルトン。決勝では戦略的な齟齬も見えたが、11番グリッドから5位フィニッシュ。
4基目のPUに交換して雨上がりの予選日から速さを見せていたハミルトン。決勝では戦略的な齟齬も見えたが、11番グリッドから5位フィニッシュ。
 フェルスタッペンとハミルトンの息詰まるチャンピオン争いに、期待の角田裕毅のF1デビューシーズンと話題の多い今シーズンのF1を、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で解説します。今回の第16戦トルコGPは予選、決勝とウエット絡みの展開になるなか、グリッド降格で後方から追い上げるハミルトンの存在感が光りました。角田裕毅、ペレスのバトルと合わせて、中野氏が振り返ります。

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 イスタンブールパーク・サーキットで行われた2021年F1第16戦トルコGP、まずは予選、雨上がりの微妙なコンディションのなかでメルセデスが速さを見せました。今回はレッドブル・ホンダに比べてメルセデスのクルマにアドバンテージがあるように見えたので、ドライだったらもうメルセデスは盤石なのかなという風にも思いました。

 イスタンブールパークは高低差が大きく、独特なサーキットと言えます。コース前半はアップダウンもすごく大きく、低速コーナーも結構続く区間です。ターン1〜2あたりはそうでもありませんが、ターン3〜4あたりを抜けると極端なアップダウンと低速コーナーがあり、路面も逆バンクで、特に小さいコーナーでのアンジュレーション(路面のうねり)がかなり大きいです。そういったところで路面を掴むサスペンションといいますか、ジオメトリーなどのエアロとは少し違う部分でのセットアップが重要なので、そのあたりでメルセデスは強いのかなという風に僕は思いました。

 よく曲がるクルマであるレッドブル・ホンダも悪くはなかったと思いますが、メルセデスのクルマはダウンフォースもしっかりと出ていて、高速コーナーに関しては良いクルマだと思いますし、低速に足まわり(サスペンション)のセットアップを合わせても、元のエアロが良いので左高速コーナーのターン8などでも普通にバランスが取れて、その部分でアドバンテージがありました。

 トルコGPはアルファタウリ・ホンダも調子が良く、角田裕毅選手もいい走りを見せていましたね。角田選手は今回からシャシーを交換したということで、それがもしかしたら調子の良さと関係があるのかもしれません。モノコックというのは目に見えない部分で、本当にちょっとした違いでクルマのバランスが変わったりすることが時々あり得ます。

 もちろん、モノコックの詳細に関しては僕には分からないところですが、角田選手的にもここ数戦は良い流れがなく、気分的にちょっと沈みがちなところがあったのかなというのが走りにも現れていたので、モノコックが変わると気分転換にもなりますし、気持ちも入れ替わってもっと頑張ろうと思えるので、これはちょうどいいタイミングだったと思います。チーム側としても、リフレッシュにもなると考えてシャシー交換をしたのかもしれません。チームとしては良い判断で、角田もそれに応え、もともと持っている速さをトルコでは見せることができていました。

 そしてインターミディエイトでの難しいウェットコンディションとなった決勝ですが、ポール・トゥ・ウインを果たしたバルテリ・ボッタス(メルセデス)は王道の作戦を採り、ボッタスとマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)は、まさにここというタイミングで、タイヤ交換を行いました。

 雨が上がって完全ドライになってくるのか、また降ってくるのか最後の最後まで分からないような天気予報も含め、スリックタイヤに変えるには非常に難しい条件だったと思いますが、そのままインターミディエイトで走る選択肢もあるなか、上位勢はレース中盤あたりで一度タイヤを変えるというのは正しい選択だった思います。

 ボッタスがピットインする前には、ダニエル・リカルド(マクラーレン)が先に新しいインターミディエイトタイヤに交換しましたが、そのときはリカルドのラップタイムは思ったほど上がりませんでした。インターミディエイトはウエットタイヤよりも薄いですがタイヤに溝(ブロック)があります。路面が結構乾いてきている状況だとそのブロックが走行中に拠れるように動いてしまいますので、その状況で新しいインターミディエイトを履くと、まったく思いどおりに走れなくなってしまいます。

 ドライバーの感覚としては、ステアリングを切ったときにタイミングがズレてしまうような感じになります。ステアリングを切ったときに、『このタイミングでフロントが入って(曲がって)ほしい』というところからタイミングがズレてターンインしていくので、ひとつひとつのアクションが大きくなってしまいます。ブレーキングでもマシン全体がグニャグニャと動いてしまうような雰囲気も感じます。

 リカルドがニュータイヤを替えたあの場面では、タイヤ表面のグリップ力はあると思いますが、そこで乾き始めている路面で一気にプッシュすると1周のタイムが出ることはあったても、そこでタイヤを一気に壊してしまいます(表面のゴムが削れて本来の性能が発揮できなくなる)。ですので、乾き始めている路面で新しいインターミディエイトを装着するときはタイヤの使い方もすごく微妙で、走り始めからキレイに熱入れをして表面を減らしていき、ナチュラルに近い状態で表面をスリックタイヤに近づけていくと良いパフォーマンスを発揮してくれます。本当に雨上がりの路面でのインターミディエイトの使い方というのは独特です。

 そのような状況になるならば、ブロックが減ってスリック状態になった古いインターミディエイトで走り続けたほうが、まだ少し安心感があります。今回に関してはそこがポイントとなり、スタートから装着したインターミディエイトが最後まで持つかどうか分からないということが出ました。

 雨がちょっとでも降ってくれればタイヤが冷えてオーバーヒートなどのリスクはなくなりますが、雨が多ければスリック状態ではリスクがあります。逆に雨が降らないなかでインターミディエイトで走り過ぎてしまうとブロックが削れて、ある程度まではスリックタイヤのようになっても走行できますが、それを超えたとき急激にカーカス(構造部)が出たりして、一気にタイヤのグリップが落ちてバーストの危険性もあります。

 今回のレースに関しては先の展開が本当に読めなかったですが、特にルイス・ハミルトン(メルセデス)を見ていると、どうにも動きようがなかったというのが実際のところでしたね。

 予選トップからパワーユニット交換で11番グリッドから追い上げているハミルトン側としては、決勝で何らかのアクションを起こしたかった、他と違う作戦を採りたかったというのはすごく分かります。対して上位勢のボッタスとフェルスタッペンは手堅い作戦を採用していました。インターミディエイトでステイアウトし続けたハミルトンのインターミディエイトタイヤも、あと少し雨が降ったりすれば息を吹き返していたと思いますが、最後はピットインしてタイヤ交換して5位になりました。ただ、本当にあの状況では何が正解か分からず、こういった
振り返りはすべて結果論になってしまいます。

●ドライバーとしての人間性が見えたハミルトンとメルセデスチームの無線のやりとり。期待される今後のホンダ


 レース終盤のハミルトンとメルセデスの無線では、前戦ロシアGPのランド・ノリスとマクラーレンのようにドライバーとチームの意思疎通がうまくいっていないような雰囲気でしたが、あのような切羽詰まった状況になると、これはもう人間なので乗っている側はやはりああいう気持ちになってしまいます。ハミルトンに関して賛否両論あると思いますが、ドライバーとしては『こうやった方が良かったじゃん!』ということになるのでしょう。

 ですが冷静に考えてみると、チームの方としてもタイヤが最後まで持つか分からなかったこともありますし、やはりリスクを避けたかったと思います。ただ、それも結果論でしかありません。ハミルトンと言えども、シーズン中ずっと大人しくし続けるできないと思うので、追い上げている状況で無線でエキサイトするというのはレーサーなので仕方がないですし、チャンピオン争いをしているフェルスタッペンが前にいて、このままだとランキングも逆転されてしまうような状況のなかで戦っているので、ああいったシーンも時には必要だと思います。

 もちろん、あのようなやりとりが毎回だと僕も『ちょっとな……』と思ってしまいますが、今回は逆にハミルトンの人間らしくファイターの部分を見た気がします。どのドライバーも同じようにパッション(情熱)を持っていて、激しい感情を持っているので、それがどこかのタイミングで出るというのは極めて正常なことだと思います。そのパッションはチームにとっても刺激になる時もありますし、お互いのリスペクトにもつながることがあります。やっぱりレーサーはこういう部分もなきゃダメだなと思いましたし、ハミルトンも『ここはアピールしないと!』という風に使い分けていると思うので、ハミルトンなりに考えての無線だったと思います。



 そのハミルトンですが、レース前半には角田選手との良いバトルも印象的でした。角田選手としてもチャンピオンシップでレッドブル・ホンダを助けるという部分、自分のアピールという部分でも、簡単には抜かせない意思を見せるのはすごく重要なことだと思うので、数周に渡ってハミルトンを抑えたというのは本人の自信にも繋がると思います。ハミルトンも結構、様子を見ながらアタックしていたと思うので、一気に攻め込むという感じではありませんでしたね。タイヤの状況も見ながらバトルをしていたので、簡単にはオーバーテイクができなかったということもあります。

 また、角田選手もすごくクリーンなバトルで序盤はクルマも良かったように見えました。今回のアルファタウリ・ホンダはウエットでもマシンバランスが良かったと思います。ただ、角田選手に関しては、あのハミルトンとのバトルでタイヤを使いすぎましたね。その後はガクッとペースが落ちてしまいスピンもしてしまいました。そこは角田選手にとっては勉強ですね。

 レースはトータルで見なくてはいけないので、あそこでアピールすることも大事ですが、やはり最後は上位でフィニッシュすることが大事です。角田選手もああいった難しいコンディションで、さらにインターミディエイトであそこまで長く走るという経験は当然ないと思うので、今回すごく良い経験になったなと思います。インターミディエイトがどう変化していくのか、路面が乾いていく状況のなかでタイヤがスリックに近い状況になってきて、グリップがどのくらいまで落ちて、どのくらいまで堪えてくれるかというのはベテランドライバーたちは知っています。今回の角田選手は、これから上位を戦うための大きなステップになったのではないのかなと思います。

 それと今回はセルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)のパフォーマンスが良かったですね。レース中盤ではハミルトンをバトルで抑え、終盤にはシャルル・ルクレール(フェラーリ)をオーバーテイクして3位表彰台に上がりました。

 あのあたりはペレスの強さ、レースでのしぶとさを見せてくれて、レッドブル・ホンダにとっても今後のコンストラクターズ争い、チャンピオンシップを考えても、今回のペレスの頑張りが結構影響してくると思います。今回のリザルトでペレスの前にハミルトンが行くのと後ろに行くのとでは意味合いが全然違いますし、あのバトルで簡単にハミルトンが前に出ていたら流れが大きく変わっていたと思います。その部分でも今回はペレスがすごく良い仕事をしました。

 今回のトルコGPの展開を見ても、レッドブル・ホンダとメルセデスの勢力図、そして今後のチャンピオン争いは本当に分からないですね。次のアメリカGPもクルマ的にはメルセデスが優位かなという気がしていますが、今シーズンはクルマの得意不得意、そしてセットアップの方向性の違いなどでサーキットごとに勢力図が変わっているので、単純に『このコースはこのクルマが速い』というのが予想どおりになりません。そこが今シーズンの面白さでもあり、次戦のアメリカGPも非常に楽しみですね。

 そして最後になりますが、今回のトルコGPではレッドブルがホンダと日本のファンのために日本GP仕様のカラーリングに変更して、そして、2022年以降ホンダがレッドブルとの関係を強めていくという日本のファンにとってはうれしいニュースがありました。

 僕にとっては国内ドライバーの育成面で大きなことで、若いドライバーたちにとっても希望が持てます。今年でホンダはF1活動を終了してしまいますが、これからヨーロッパに行って戦いたいというドライバーたちにとってもすごく朗報だと思いますし、我々、育成の立場としては、そういった道を残してあげるということはすごく重要なことだと思っています。将来への選択肢はたくさんあったほうがいいですし、すごく良いニュースだと思いましたので触れさせて頂きました。






中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24
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