日本の記者会見は変わるか ルーマニア映画が照らすマスコミの問題点

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2021年10月24日 16:00  AERA dot.

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写真延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回はルーマニア映画『コレクティブ 国家の嘘』について。


【ルーマニア映画『コレクティブ 国家の嘘』の写真はこちら】
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 菅内閣が短命に終わった一因は、会見での首相のトークが不得手だったからと言われている。しかし、ラジオ的には上手い必要などなく、朴訥(ぼくとつ)で詰まったりするほうがよほど伝わる。


 映画監督の小栗康平さんによると「言葉を使えば、感情が小さくなる」。岸部一徳さんに伺った。


 昭和の政治家、大平正芳はしばしば言葉に困り、「あー、うー宰相」と揶揄されたが、クリスチャンらしく自分の言葉を大切にする思慮深い姿勢が印象に残った。


 菅政権の政治家の多くは会見で作文を読む姿が目立った。橋本聖子五輪組織委員会会長が組織委の度重なる不祥事でマイクの前に立った際も原稿に目を落とし、棒読みするだけ。これでは伝わらない。それを許す僕らマスコミにも問題があったのかもしれない。


 ルーマニア映画『コレクティブ 国家の嘘』に登場するカタリン・トロンタン記者が現れたら日本の記者会見は変わると思った。彼は嘘を許さず、容赦なく、徹底的にやる。ブカレストのスポーツ紙「ガゼタ・スポルトゥリロル」記者の彼はチームを率いて巨悪が隠す真実に迫る。


 ライブハウス「コレクティブ」火災事故の被害者が次々と死んでいく。病院に運ばれ一命を取り留めたはずなのに。そこに何かが隠されていると勘が働く。消毒液に問題がとの告発があり、病院と製薬会社、政府の癒着が明らかになる。


 死因の多くは感染症だった。巨大医療汚職事件が国民の知るところになる。記者の向こう側には国民がいた。


「自分のドキュメンタリー映画の制作プロセスは純粋に観察することにある」とアレクサンダー・ナナウ監督は語る。カメラを携えて主人公に近づき、同化し、「視聴者が登場人物のそばで生活し、発見しているかのようにフレームに収めていく。他人の人生を通して自分も成長していく感覚を観客に持たせる。これがドキュメンタリーの理想です」




 なるほど、であれば客観的なナレーションは不要になる。客観という言葉には「第三者」「他人事」という意味もあるのだから。


「国家というものは嘘をつくものなのか?」と訊くと、「権力があるところに腐敗は存在する。重要なのはプレスの機能。権力はまずプレスを滅ぼそうとする。プレスが独立した強固なものであり、記者も勇気を持っていないといけないのです」と監督がZoomで答えてくれた。


「映画というものはジャーナリスティックであり得るし、ジャーナリストの調査報道もサポートできる」


 惨劇、隠蔽、脅迫と全てが事実のこの作品、当局から盗聴されていたと知るや、監督は素材を国外に運び出したという。


「(事件を追う記者は)暴露の渦に入り込み、政府の最高レベルまで手が届いていた。その全ての段階を追った私もリスクを負っていました」


 世界各地で権力による報道の抑圧が広がる中、人権侵害や汚職の政権批判を続けたとして、ロシアとフィリピンの2人のジャーナリストのノーベル平和賞受賞が決まった。


延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞

※週刊朝日  2021年10月29日号


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