歴史小説を読まない春風亭昇太が絶賛! 人気作家と語り尽くした"お城の魅力"

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2021年10月29日 06:41  週プレNEWS

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写真今村翔吾氏(左)と春風亭昇太師匠(右)
今村翔吾氏(左)と春風亭昇太師匠(右)


話題となった小説『じんかん』では、歴史上の悪役キャラ・松永久秀の知られざる顔を織田信長に語らせ、絶賛された注目の作家・今村翔吾氏が新刊『塞王の楯』(さいおうのたて)を上梓。天下分け目の"関ケ原の戦い"直前、大津城を舞台に繰り広げられた「最強の楯」×「至高の矛」とは――お城好き有名人の代表格、春風亭昇太師匠とのマニア必読"石垣トーク"が実現!

昇太 僕、一気に読みました。面白かったです。

――いきなり、師匠からお墨付きいただきました。

昇太 全部、大好物でしたね。普段はそんなことしないけど、スマホを横に置いて、お城の名が出てくるたびに行ったことあるお城もないお城も調べながら読んでいったら、すごく楽しかった。

今村 いやぁ、貴重な時間をそんなに費やしていただいて。申し訳ないというか、ありがたい限りです。

昇太 実はね、歴史小説ってあんまり読まないんです。歴史好きなので歴史書は読むんだけど、敬遠してたとこがあって。久しぶりに読んだら、あっ面白いなって。本当にあった歴史の史実と、小説って部分の程(ほど)もいい。

川守城のところで「弓が得意な人が......」と書いてあって、検索したら「近代弓道発祥の地」ってあるとこなんかも、ちゃんと頭に入れられてるんだなと。

今村 僕、元々は京都生まれなんですけど、やっぱり小学生の時から「城連れてってくれ」って言ってるような子どもで。母親と小谷城に行ったんですけど「もうほんまやめて。ただの登山や」みたいなことは言われてました(笑)。

昇太 それは優秀な子だったんじゃない?(笑)

今村 で、滋賀県といえば、城の宝庫ですから。いろんなものが残ってるってことで、たびたび好きで訪れて、今は自分もそこに住んでるという。大津城も今はないですけど、有名なのでは彦根城の天守が大津城らしいとか、膳所城に移築されたとか説がありまして......。

昇太 僕も一番最初に見たのが跡形もないお城だったんです。生まれた静岡の二の丸町ってところの江尻城っていう、そこが出発点だったので、どこ見ても楽しいんですよ。最初に熊本城見てたら、他の城がみんな頼りなく見えちゃうでしょ。立派なお城じゃなかったからよかったのかなって。

今村 山城ぐらいから入るのが一番ベストですよね(笑)。

――早速、シブすぎる"偏愛トーク"さく裂ということで(笑)。師匠のそのエピソードは著書『城あるきのススメ』にも書かれていますが、さんざん歩かれてる身からしても、今作ではマニアックな城が次々と?

昇太 ほんと、ここ出す?っていうようなお城を出してるんでね。好きなんだな、この人はって。

今村 城に関わらず、今回登場させた穴太(あのう)衆の里に行くと、今でも石垣がバーッって残ってるのを見て、これで小説書いたら面白いのではと思ってたんです。

昇太 鉄道好きに「撮り鉄」とか「乗り鉄」があるように、お城好きでもいろいろあって、僕は「縄張好き」っていう人たちなんです。まさに石垣のつくり方であるとか、あと横矢を入れるとか、読んでいて"縄張"が頭に浮かぶのがすごく楽しかった。

武器の変遷によってお城のつくりも変わっていくので、鉄砲が導入されると堀幅は広くなるし、そういう実際の事柄がほんとに読みやすく書かれていて。

――その石垣をつくる技能集団・穴太衆を率いる主人公・匡介が、鉄砲をつくる国友衆の後継者たる彦九郎と大津城を舞台に対峙する決戦までが描かれます。

今村 穴太衆というのが文献を残さない集団なので、わからないことだらけなのも大変でしたけど。逆にエンタメとしてフィクションの面白さを膨らませやすいのではと。山本兼一先生の『火天の城』とかもありますけど、静と動でいうと、より動の石垣の話を書きたかったんです。

そこで今も唯一、穴太衆の生き残りである粟田建設さんに行って、話を聞いたりご協力いただいて。これは書ける、エンタメとして成り立つなと確信しましたね。

粟田さんって、第二名神の下の礎(いしずえ)とか担当してるんですけど、それがコンクリートより石垣でつくったほうが強度調査で上回ってたとか。野面(のづら)積みの堅固さは今の技術を超えるというデータなんかを見て、これは面白いぞと。

――これまでの作品でもメインストリームではない題材や人物を取り上げ、光を当てられているのが魅力かと。

今村 それは北方謙三先生も仰ってましたけど、歴史作家ってのは自由なもので、歴史家に比べたら、1行の文章をどこまででも膨らませることができる仕事だと。少ない史料の点と点をつなぎ合わせていく中で、その思想とか考え方にできる限り、迫りたいというのが僕のやり方ですね。

昇太 最近の大河ドラマとか見ても、有名な武将じゃなくて、割とちょっとマイナー系の人を出したりしてね。『おんな城主 直虎』とか、あの人なんて史料残ってないんだから、逆に自由にドラマが展開できるんだなと思って。

――師匠も跡形のない、土塁やお濠だけ残っている城址ですらそこから想像するのが楽しいと仰られてますね。

昇太 そうなんですよ。何も残ってなくても、立地のことを考えると「なるほど、ここにこうやってつくるんだ」って。「あそこ、何もないでしょう」とか、よく言われたりするけど、なんにもないお城なんてないんです。何かあるから行くのが楽しいんですよ。

たまに現存の天守とかに行くと、観光客が「殿様はこんなとこに住んでたのか」って口々に言ってたりするでしょ。でも、あんな寒いとこに住んでるわけない。トイレもなきゃ、風呂もない、いちいち降りてからおしっこしなきゃいけないのに(笑)。

日本人でも、普段からまだ天守が城だと思ってるような人がすごく多いんで。僕みたいな立場の人間がそこをちょっとずつでも切り崩していければいいなって。この作品を読んだら「あっ、同志がいた」と思いました。

今村 それ、めちゃくちゃわかります。ダンスとか教えてた時があって、子どもたちを連れて行っても、天守とかないとやっぱりつまらなそうですしね。熊本城ぐらいでやっと喜んでもらえる。そこから想像して広げてやるのが楽しいねんって言って、10人にひとりぐらい、好きになってくれたらなっていう。

昇太 やっぱり、変わり者じゃないとね(笑)。

――そのダンスインストラクターに、「埋蔵文化財調査員」というキャリアも異色で興味深いですが......。

今村 発掘調査も一応できるんで(笑)。僕のいた場所が特に古代の遺跡が多くて、なかなか中世をやれる機会がないまま、運悪かったんですけど。ほとんど弥生時代の環濠集落なんかをメインでやってましたから。

昇太 僕は大学が文学部の史学科で日本史を勉強してたのね。もう40年前の話だけど、古代史だったんです。今でも歴史博物館みたいなの行くと、もう一目瞭然で古代史7割、中世がちょろっとあって、いきなり近世へ飛ぶんです。ほんと中世って、あまり研究されてこなかったんですね。

ところが今、すごくキテるんですよ。テレビ見ても、歴史の先生が出てくると、ほぼ中世史でしょ。僕らが勉強し始めた頃には考えられないくらい、すごく注目されていて。だからナイスタイミングでこの作品を出されたなって。

今村 穴太衆とか大津城ってのもありますけど、京極家というのも書きたかったんですよ。あの戦いって、立花宗茂という戦国きっての猛将に対して、"蛍大名"とまで揶揄(やゆ)された高次という、最下位に近い城主が相まみえて拮抗してる......そこがまた面白いなと。

昇太 京極高次の肖像画を見ると、ほんとにかわいい顔してますよね。ぽちゃっとしてて。それを読みながらスマホで調べて、ひとりでくすくす笑いながら。

今村 僕も顔を描写する時に、あの肖像画見ながら書いて。ちょっといい感じに肥えてはってね......絶対、お人好しで性格いいはずやと。

昇太 お城のことを知らないだけじゃなく、穴太衆が架空の人たちだと思う読者もいるかもしれないんで。だから、スマホを横に読み進めると、より楽しめるんじゃないかなと。

今村 大津城なんかは今、何もなくて。水城とされてますけど、現在の研究では外堀に水が入ってたかどうかもわからないんですよ。で、発掘調査が進んでない今がチャンスっていうのもね。はっきりする前に入れてまえって(笑)。

昇太 読む人のために中身はあんまり語らないほうがいいと思うけど。特に後半、「あっ、石垣でこれをつくるか」「なるほどなぁ」っていうのがよく出てきて、そのたびに心の中で万歳をしながら。

――お墨付きに加えて、万歳までいただきました(笑)。

昇太 末期のほうが縄張も上手になるんで、割とそっちを見てるんだけど。中世のお城って、つくった人の色とか地域性が出るんで、それがすごく面白いんですよ。やっぱり地形も関係あるし地質もね。それによって、つくれるお城が変わるんですよね。

土のお城の時代だと制約があるけど、それを乗り越えられるようになって石垣の時代が登場したんだろうと思うし。武器の変遷でもいろいろ変わってくるので、そういう意味でもほんと僕が好きな中世のお城と、近世に向かう間の面白い時代を書いてるなと。

今村 粟田建設さんには「この石垣、ひと晩でできますか?」「何メートルまでやったらつくれますか」とか、最後の大砲も角度を出して「この高さを1日で組めますか?」って教えてもらいながら。サイン、コサインとか久々に自分でもやりました(笑)。

昇太 そんな細かくいかなくてもよかったんじゃない?(笑)

今村 ははは。フィクションですけど、裏付けるために一応というか。ある程度ギリギリのラインにリアリティを持たせないとダメやなと。城好きの方ってほんとに好きなんで、やっぱりエンタメであっても最低限、できるとこまでは突っ込んどきたいなって。

☆後半のインタビューへ続く

●春風亭昇太(しゅんぷうていしょうた)
1959年、静岡市生まれ。東海大中退後の1983年、春風亭柳昇に弟子入り。型破りな新作落語で人気となり、92年に真打昇進。人気番組『笑点』の大喜利レギュラーとしても活躍、16年から司会を務める

●今村翔吾(いまむらしょうご)
1984年、京都府生まれ。2017年に『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』でデビュー。18年の『童神』で第10回角川春樹小説賞、20年には『じんかん』で第11回山田風太郎賞を受賞し、いずれも直木賞候補となる


◆『塞王の楯』(集英社)
秀吉が死に、戦乱の気配が近づく中、石垣職人の穴太衆に後継者として育てられた匡介は京極家より大津城の守りを任される。一方、石田三成は鉄砲づくりの国友衆に大砲での攻めを託すが......大群に囲まれ絶体絶命、宿命の対決を描く究極のエンターテインメント戦国小説

撮影/五十嵐和博

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