時代とともに変わるジェンダー・ギャップを知る40作品 映画を学ぶ学生や上野千鶴子さんらが選んだ過去と現在のリアル

3

2021年12月04日 10:20  AERA dot.

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AERA dot.

写真「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」(2019年、日本)片渕須直監督によるアニメーション。大ヒットした「この世界の片隅に」に、遊郭で働く女性リンのエピソードなどを追加した新作(c)2019 こうの史代・双葉社/ 「この世界の片隅に」製作委員会
「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」(2019年、日本)片渕須直監督によるアニメーション。大ヒットした「この世界の片隅に」に、遊郭で働く女性リンのエピソードなどを追加した新作(c)2019 こうの史代・双葉社/ 「この世界の片隅に」製作委員会
 日本大学芸術学部の学生たちが企画する映画祭が12月4日に始まる。今回のテーマは「ジェンダー・ギャップ」。1930年代から現代まで、幅広い年代の作品を選んだ。若者たちが映画のなかに見つけた問題と、そこから学んだものは何か。AERA2021年12月6日号の記事を紹介する。


【写真特集】今回選ばれた「ジェンダー・ギャップを知る作品」を写真で紹介(12作品)
*  *  *


 ジェンダー・ギャップ映画祭は、日本大学芸術学部映画学科映像表現・理論コースの映画ビジネスゼミの一環。11回目の今年は19人(男性3人、女性16人)が半年をかけて準備を進めた。企画・運営メンバーの一人、長谷川諒(りょう)さん(21)が、こう話す。


「最初はLGBTQを含むジェンダーをキーワードにしていました。ちょうどそのころ、森喜朗氏の女性蔑視発言があったんです。こんなことを言ってしまうのかと衝撃を受け、時事性と若い世代に訴えたいとの思いから『ジェンダー・ギャップ』がテーマに決まりました」


 作品の選出や上映の交渉も学生たちが行う。担当教授の古賀太さん(60)は「2017年に始まった#MeToo運動以降、ジェンダー・ギャップを題材にした映画は増えています。だからこそ、若者ならではの切実な視点と、映画を学ぶ学生らしい意外性のある作品選びを、とアドバイスしました」という。


昔も今も問題は同じ


 メンバーは学校やアルバイト先で実際に感じたことを話し合い、15作品を選んだ。性差に疑問や悩みを持ち、行動する女性を描いた作品が中心だ。企画リーダーの林香那さん(21)は「選出過程にも学びがありました」と話す。


「1930年代の『新女性』や『浪華悲歌』と、最も新しい『ある職場』は、いずれも職場でのセクハラを扱っています。時間が経っても変わらない問題があると、改めて思いました」


 佐々木悠佳(ゆうか)さん(21)も言う。「『はちどり』や『RBG 最強の85才』など、ジェンダー・ギャップの概念ができてからの映画は理解しやすく、みんなの意見もまとまりやすかった。でも、1930年代の映画には、女は台所にいるべきだという考えが露骨に表現されていたりして、ん?と思うことも。でも、それが当たり前だった時代を知ることで、今がどうなっているかが分かると感じました」


 社会学者で東京大学名誉教授の上野千鶴子さん(73)はラインアップを絶賛する。「歴史的な映画を選んでいることに感心しました。女性のいまを知るには、まず過去や歴史を知ることが大事です。私たちの問題はどこから始まって、現在どこまできているのか。映画からはリアルに学ぶことができます」




男性も自分事と感じて


 メンバーの経験や視点の違いも15作品に表れている。海外留学経験のある嶋田萌さん(20)は「少女は自転車にのって」など海外の女性の現状に目を向けた。田崎優歌さん(21)は「人によってギャップの受け取り方が違った」という。


「私は『5時から7時までのクレオ』にジェンダー・ギャップの視点があるとは感じてこなかった。映画祭は、この作品をそう感じる人がいるのだ、ということを考えるきっかけにもなるのではないでしょうか」


「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」の監督で映画学科特任教授の片渕須直さん(61)は、2000年に手がけた「アリーテ姫」が自身のジェンダー・ギャップへの意識を高めるきっかけになったと話す。


「女性の問題を男性である自分が描くことで、問題の本質が明らかになるのではと挑戦した」と振り返る。以降、女性作家による原作の映画化を、自身の解釈を交えて手がけてきた。


「『この世界の〜』では、主人公のすずさんが嫁ぎ先で『自分の新しい名字をとっさに思い出せない』というシーンを、原作より強調して描きました。結婚によって、自分という存在が薄まっていく感覚を表現したかったんです」


 一方で、生きにくさの実感は女性に限ったことではない、と片渕さんは指摘する。「人間がいかに自己を圧迫されるか、それはどういうときかを考えると、女性、男性に関係なく、その瞬間はある。女性のことを描いた映画を見ながら男性も『これ、自分のことだよな』と感じられることが大事だし、そうした映画の見方が増えてほしい」


 しかし日本の現状は厳しい。ジェンダー・ギャップ指数は世界156カ国中120位。男女格差は依然として埋まらない。


 古賀さんによると、映画学科の現在の学生数は635人。3分の2にあたる395人が女性だが、映画業界の門戸は決して広くない。佐々木さんもぼやく。


「撮影・録音コースの学生はほぼ女子ですが、実際にプロの撮影現場にいくと女性は一人もいない。ここで学んでいる女の子たちはどこへ消えていくのだろう?と思ってしまう」




学びが行動につながる


 そんななか、映画祭での学びは行動にもつながった。先の総選挙では、取材したメンバー5人中、実家に住民票がある1人をのぞく全員が投票した。「選択的夫婦別姓やジェンダーについての政策を気にするようになった」と全員が口をそろえる。


 上野さんもエールを送る。


「日本の状況を変化させるためには、行動して社会を変えないとダメ。いまはSNSでのアクティビズムなどハードルが下がりました。こうした映画祭をはじめ、どんどん声を発信してほしい」


 前出の林さんは言う。


「ジェンダー・ギャップを一過性のブームにしたくない。そのためにも私たち自身が考え、行動を続ける必要があると感じています」


ジェンダー・ギャップ映画祭運営メンバーが選んだ15作品


「新女性」(1935年、中国)
1930年代の上海を舞台に自立か男性への依存かで揺れる女性を描く。山内菜々子の活弁と宮澤やすみの三味線付きで上映。蔡楚生(ツァイ・チューション)監督


「赤線基地」(1953年、日本)
米軍基地周辺で生きる女性の現実を描き、公開直前に反米映画として上映が見送られた異色作。谷口千吉監督


「浪華悲歌」(1936年、日本)
父の借金返済のため社長の愛人となった電話交換嬢だが──。溝口健二監督が働く女性の現実を冷静に見つめる


「月は上りぬ」(1954年、日本)
女優・田中絹代による監督第2作。3姉妹の恋愛から当時の女性を取り巻く社会が見える。父親役は笠智衆。脚本は斎藤良輔と小津安二郎


「女が階段を上る時」(1960年、日本)
女性映画の名手・成瀬巳喜男監督が銀座のバーの雇われマダム(高峰秀子)や同僚女性たちの生きづらさを描く


「5時から7時までのクレオ」(1961年、フランス・イタリア)
女性監督の筆頭、アニエス・ヴァルダ作。街をさまようヒロインが男性から多くの視線を向けられる様も印象的


「叫びとささやき」(1973年、スウェーデン)
巨匠イングマール・ベルイマン監督が19世紀スウェーデンの上流貴族女性たちの孤独を鮮烈な色彩で描く


「百万円と苦虫女」(2008年、日本)
タナダユキ監督。100万円をためるごとに各地を転々として生きるヒロイン(蒼井優)の成長を描く


「ハンナ・アーレント」(2012年、ドイツ・ルクセンブルク・フランス)
アイヒマン裁判を傍聴し「悪の凡庸さ」を世に問うた女性哲学者を描く。マルガレーテ・フォン・トロッタ監督



「少女は自転車にのって」(2012年、サウジアラビア・ドイツ)
サウジアラビア初の女性監督、ハイファ・アル=マンスールが自国の女性差別に抗う少女の奮闘を活写する


「RBG 最強の85才」(2018年、アメリカ)
女性最高裁判事として国民的アイコンとなったルース・ベイダー・ギンズバーグを追ったドキュメンタリー


「はちどり」(2018年、韓国・アメリカ)
学生たちが満場一致で選出。女性監督キム・ボラが1990年代の韓国で14歳の少女が直面する世界を描く


「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」(2019年、日本)
片渕須直監督によるアニメーション。大ヒットした「この世界の片隅に」に、遊郭で働く女性リンのエピソードなどを追加した新作


「この星は、私の星じゃない」
(2019年、日本)1970年代のウーマンリブ運動をカリスマ的に牽引した田中美津さんを追ったドキュメンタリー。吉峯美和監督


「ある職場」(2022年公開、日本)
実際のセクハラ事件をもとに舩橋淳監督が後日談をフィクションとして映画化。本映画祭でプレミア上映



女性たちの声よ届け!ジェンダー・ギャップを学べる映画25選


<歴史&名作が教えること>


「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」(2019年、アメリカ)
シアーシャ・ローナン主演。1868年に発表された名作『若草物語』をアップデートした作品。グレタ・ガーウィグ監督(日芸生おすすめ)


「ビリーブ 未来への大逆転」(2018年、アメリカ)
RBG=ルース・ベイダー・ギンズバーグの人生をフェリシティ・ジョーンズが演じる。ミミ・レダー監督


「未来を花束にして」(2015年、イギリス)
女性参政権を求めて立ち上がった女性たちの運動「サフラジェット」を描く。キャリー・マリガン主演。サラ・ガヴロン監督


「燃ゆる女の肖像」(2019年、フランス)
18世紀、画家として表に出ることのできなかった女性肖像画家と、望まぬ結婚を控える貴族の女性の恋。メイドの女性とのシスターフッドも描かれる。セリーヌ・シアマ監督


「アンモナイトの目覚め」(2020年、イギリス)
19世紀イギリスで功績を男性に奪われ続けた実在の女性古生物学者(ケイト・ウィンスレット)と主婦(シアーシャ・ローナン)の邂逅を描く。フランシス・リー監督


「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」(2017年、アメリカ)
エマ・ストーン主演。女子テニスプレーヤーの地位向上をかけて闘った実在の元世界チャンピオン、ビリー・ジーン・キングを描く。ヴァレリー・ファリス&ジョナサン・デイトン監督


「ドリーム」(2016年、アメリカ)
NASAに貢献した女性科学者たちの知られざる物語。セオドア・メルフィ監督


「アリーテ姫」(2000年、日本)
フェミニズムの児童文学とされる『アリーテ姫の冒険』をアニメーション映画化。望まぬ結婚で人格を奪われた姫が、自分の力で自分の生き方を切り開いてゆく。片渕須直監督



<世界の状況を知る>


「ペトルーニャに祝福を」(2019年、北マケドニアほか)
北マケドニアの女性禁制の祭りで1番になった女性の実話をもとに描く。テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ監督(日芸生おすすめ)


「モロッコ、彼女たちの朝」(2019年、モロッコほか)
未婚女性の妊娠が「ふしだら」とされるイスラム社会を描く。マリヤム・トゥザニ監督。公開中



「少女は夜明けに夢をみる」(2016年、イラン)
薬物や売春などで更生施設に収容されたイランの少女たちにカメラを向けたドキュメンタリー。メヘルダード・オスコウイ監督(上野千鶴子さんおすすめ)


「あなたの名前を呼べたなら」(2018年、インド・フランス)
インドで若くして未亡人になった女性が田舎にいられず、都会でお金持ちの男性のメイドとして働くうちに叶わぬ恋が芽生える、現代社会の問題を内包したラブロマンス。ロヘナ・ゲラ監督


「ソニータ」(2015年、スイス・ドイツ・イラン)
アフガニスタン難民の16歳の少女が強制結婚から逃れようとラップで世界に苦境を訴えたドキュメンタリー。ロクサレ・ガエム・マガミ監督


「裸足の季節」(2015年、フランス・トルコ・ドイツ)
トルコの田舎の封建的な社会のなかで自由を奪われた5人姉妹を描く。デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督


「第三夫人と髪飾り」(2018年、ベトナム)
19世紀ベトナム。富豪に嫁いだ若き第三夫人の運命を描く。アッシュ・メイフェア監督(上野千鶴子さんおすすめ)


「娘よ」(2014年、パキスタン・アメリカ・ノルウェー)
パキスタン北部で部族間の争いの代償として婚姻させられる10歳の娘を救おうとする母の逃避行を描く。アフィア・ナサニエル監督(上野千鶴子さんおすすめ)


「パピチャ 未来へのランウェイ」(2019年、フランス・アルジェリアほか)
アルジェリア暗黒の10年のなかの少女たちを描く。ムニア・メドゥール監督(日芸生おすすめ)



<#MeToo先進国の現状は?>


「プロミシング・ヤング・ウーマン」(2020年、アメリカ)
キャリー・マリガン主演。レイプされて自殺した親友の仇討ちを独自の方法で実行する女性の復讐劇。エメラルド・フェネル監督



「17歳の瞳に映る世界」(2020年、アメリカ)
現代の米ペンシルベニア州で望まぬ妊娠をした高校生が中絶のため従姉妹とニューヨークへ旅する。エリザ・ヒットマン監督(古賀太さんおすすめ)


「スキャンダル」(2019年、アメリカ)
シャーリーズ・セロン×ニコール・キッドマン主演で#MeTooの先駆けとなった全米テレビ局のセクハラスキャンダルを描く。ジェイ・ローチ監督


「スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち」(2020年、アメリカ)
ハリウッドで道を切り開いてきた女性スタントたちを描くドキュメンタリー。エイプリル・ライト監督


「<主婦>の学校」(2020年、アイスランド)
ジェンダー平等・連続12年1位のアイスランドの「男女共学」の家政学校のドキュメンタリー。ステファニア・トルス監督


<現代の日本を生きる女性たち>


「あのこは貴族」(2020年、日本)
山内マリコ原作。地方出身者の苦労人女子(水原希子)と東京・松濤生まれのお嬢様(門脇麦)のつかの間の邂逅に、階級や女性の生きにくさを潜ませた話題作。岨手由貴子監督


「明日の食卓」(2021年、日本)
椰月美智子原作。フリーライター(菅野美穂)、専業主婦(尾野真千子)、シングルマザー(高畑充希)、それぞれ子育てとキャリアの両立や、ワンオペ育児に苦しむ3人の女性をミステリータッチで描く。瀬々敬久監督


「由宇子の天秤」(2020年、日本)
フリーのテレビディレクター由宇子が思わぬ事件に巻き込まれる。男性の身勝手さを前に正義を揺さぶられる女性をリアルに描く。春本雄二郎監督(古賀太さんおすすめ)


(フリーランス記者・中村千晶)

※AERA 2021年12月6日号


ニュース設定