一之輔、落語会に帯を忘れツイート 「『帯』ください」の結末は?

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2021年12月05日 16:00  AERA dot.

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写真春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家
 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「解決」。


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 先日、昼間の落語会で帯を忘れた。5年に一度くらいあるミステイク。幸い三遊亭兼好兄さんが帯を2本お持ちで貸してくださった。しかし、私は一席やったらすぐに新幹線に飛び乗り、夜の独演会のため京都に向かわねばならない。夜の会はどうしよう。兄さんが「お客さんからお差し入れで帯があればいいねぇ(笑)」と言う。「そんな都合よくあるわきゃないでしょ!」「でも、ツイッターで募ったら来るかもしれないよ。やってみれば?(笑)」「はは。じゃ、試しに呟いてみます」


 楽屋で『これから京都独演会。帯を忘れました。差し入れは「帯」ください』と投稿。もちろん洒落だ。私だって本当に来るとは思っちゃいない。「いいね」が速いペースでついていく。東京駅から新幹線に乗る。私へのリプライで「あらたいへん!」「帯無しでやりますか(笑)」「誰か持っていけばいいのに〜」みたいな他人事なものや、「○○の帯がいいですよ」とお店の情報を寄せてくれる人も。「商売道具を客にたかるとはなにごとか!」とお怒りの人もいるなか、「沢山集まっちゃうんじゃないか?」とか「私が持っていきます!」みたいなごく前向きなご意見も多い。


 不安になってきた。洒落で呟いたのに……これ、どうかすると大変なことになるのでは? 一本あれば十分なのに、何本も届いたら全部締めないと申し訳ないぞ。高座降りて、帯を締め直しての繰り返し……落語どころではない。御礼状も書かねば。帯は安いモノでない。お返しの品も要るかも。「箪笥の肥やしを一之輔におっつけよう!」と大量の使い古しを持ってくる輩がいても、自分で募ったんだから要らないとは言えない。それに京都なんて人口の8割は呉服屋さん(嘘)。落語好きな京都人はほとんどが呉服屋の丁稚(妄想)。奉公先の蔵から黙って私のために帯を差し入れる心優しい定吉どんが大勢いるかもしれん。怖くなってきた。




 楽屋入り。主催者「見ましたよ。今コロナで差し入れお断りしてますが、今回はお受けしますね(苦笑)」私「すいません。余計なコト言いました……」。スマホを見るとリプライには「沢山届いてますか?」「持っていきたい!」「帰りは帯が沢山で大変ですね!」とガヤガヤしている。


 開場。帯は来ない。開演15分前。長細い箱がひとつ届いた! 開けるとお菓子……そろそろ着替えねば。開演5分前……弟弟子の一蔵くんが「……来ませんでしたね……よかったら私の使いますか?」と哀れみを含んだ声で聞いてきた。「いや、いいよ……なんとかするから……」と私。風呂敷を折って帯状にして腰に巻く。背後はみっともないが、客からは見えない。いけるぞ、風呂敷。無事一席終えて、「実は帯をですね……」と言うと喝采。ツイートを見てるお客がたくさんいるようだ。「これ、風呂敷なんですよ……結局、帯、一本も来ませんでした……」。シーンの後、爆笑。ウケてよかった……がわびしい。帯のおかげで己の身の丈がよくわかった。結局一席目で風呂敷が解け、二席目は一蔵に帯を借りた。一蔵くんは来年9月に真打ち昇進予定。この御礼はちゃんとせねば、と思う。


春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『人生のBGMはラジオがちょうどいい』(双葉社)が発売。ぜひご一読を!

※週刊朝日  2021年12月10日号


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