『ちむどんどん』博夫は『なつぞら』雪次郎と正反対!? 役から滲み出る山田裕貴の“誠実さ”

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2022年05月05日 06:01  リアルサウンド

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山田裕貴『ちむどんどん』(写真提供=NHK)

 放送開始から早くも4週目に入った朝ドラ『ちむどんどん』(NHK総合)。登場人物たちは成長し、芸達者な子役の面々から、黒島結菜をはじめとするメインの俳優陣へとバトンパスが渡された。そこで新たに登場したのが山田裕貴だ。2019年に放送された『なつぞら』(NHK総合)ぶりに朝ドラに顔を見せ、視聴者の注目を集めているところである。


【写真】『なつぞら』で雪次郎を演じていた山田裕貴


 今作で山田が演じているのは、小学校の教師である石川博夫。ヒロイン・比嘉暢子(黒島結菜)の姉・良子(川口春奈)の友人だ。登場してからまだ日が浅いため、果たして彼がどのような人間で、これからどのようにこの物語と関わっていくことになるのかは不明だが、現時点で分かっているのはその性格が極めてマジメだということ。哲学などにも関心を寄せる勉強熱心な若者だ。学生時代に勉強会を通して良子と交流し、それが社会人となったいまも続いている。良子とは男女としても互いを意識しているようだが、博夫はどうにも煮え切らない男である。優柔不断さが目立つ人物なのだ。


 前作『なつぞら』での山田のポジションは、ムードメーカー的なものだったと思う。演じた雪次郎はヒロイン・なつ(広瀬すず)の友人で、役者の道を志す夢追い人だった。熱い性格の持ち主で、ドラマ全体を盛り上げることにも貢献していただろう。そしてそれはどこか、演じるということに対して真っ直ぐで誠実な山田自身をも思わせるものだった。彼の演技を見ているといつも、「誠実さ」という言葉が浮かぶ。もちろん、役(登場人物)は物語の世界の中で確実に生きているのだから、演じていることを視聴者に意識させてしまっては本末転倒。しかし一方で私たちは、役というものが俳優の演技によって成立していることも無意識のうちに理解している。そこで何に惹かれるのかといえば、役から滲み出る俳優自身の「誠実さ」に他ならないのではないだろうか。


 『ちむどんどん』での博夫の性格は、『なつぞら』の雪次郎と大きく異なる。声を張り上げることがなければ、慌てて取り乱すようなことも、いまのところはない。穏やかで控えめな人物だ。父も祖父も教師という保守的な家庭で育ったらしい。そのうえ時代が時代である。本作の公式ガイド『連続テレビ小説 ちむどんどん Part1』(NHK出版)において山田は、「博夫は長男だから父親たちの言うことを聞いて、真面目に生きてきたのでしょう。恐らく、自分で何かを決めるということも一切してこなかったのだと思います」と博夫について語っている。雪次郎は自ら選択・決断をする人間だったから、二人はやはり大きく異なる。そして客観的に見て感じる博夫の優柔不断さの原因はここにあるようだ。しかし彼がこうあるからこそ、良子との関係に視聴者はやきもきし、たとえ描かれる濃度が淡くとも、良子というキャラクターへの注目は自然と集まる。このようにヒロインばかりにフォーカスせず、その周囲の者たちの関係まで均等に描写することで、作品はより豊かなものになっているのではないだろうか。


 これから良子と博夫の関係には、少なからず変化が起きるはず。“恐らく自分で何かを決めるということをしてこなかった人間”が、自ら何かを決める瞬間が訪れるのだろう。博夫の振舞いは優柔不断ではあるが、良子に向ける言動からは、物事の一つひとつを丁寧に伝えようとする姿勢が見て取れる。そこには演じる山田の「誠実さ」が反映されているはずだが、二人の関係に変化が訪れたとき、石川博夫=山田裕貴が持つ「誠実さ」はどのような変容をするのかーー。『ちむどんどん』の面々も私たち視聴者も、誰もが大盛り上がりする瞬間となるだろう。


(折田侑駿)


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