三谷幸喜×WOWOWならではの試みも 瀧本智行、廣木隆一ら映画監督の名作ドラマ6選

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2022年05月21日 08:01  リアルサウンド

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『三谷幸喜「short cut」』『ドラマW 三谷幸喜「大空港2013」』『私という運命について』『北斗 -ある殺人者の回心-』『ソドムの林檎〜ロトを殺した娘たち』『竹内涼真の撮休』(c)WOWOW

■三谷幸喜のワンシーン・ワンカット ドラマ


【動画】6作のプロモーション映像


 映画監督を起用したドラマが多数作られているWOWOWだが、中でも最もユニークな試みだったのが、『三谷幸喜「short cut」』と『ドラマW 三谷幸喜「大空港2013」』である。


 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合)の脚本が話題沸騰中の三谷は舞台演出、映画監督はもちろんのこと、『情報7daysニュースキャスター』(TBS系)での司会など幅広いジャンルで活躍している。


 そんな三谷が脚本・監督を担当したのがこの2作。どちらもワンシーン・ワンカットで撮られた異色のドラマとなっている。


 『short cut』は、中井貴一と鈴木京香が演じる結婚10年目の冷めきった夫婦が、山道を歩く場面からはじまるコメディドラマだ。112分、長回しで撮られた夫婦が山道をさまよう様子は、オールロケで撮られた舞台劇を観ているようである。


 一方、『大空港2013』は松本空港を舞台にした群像劇。飛行機が天候不良によって急遽着陸した松本空港に取り残された田野倉家の家族とその恋人や愛人、対応に追われる空港スタッフ、空港からマークされている詐欺師の偽パイロットといった複数の登場人物の人間模様が交差していく。


 本作も長回しのワンカットで進むのだが、面白いのはカメラの動かし方。例えば人物Aを追っていたカメラは、AとBが会話した後、別々に別れると、今度はBの方を追っていくという形で撮影対象が切り替わっていく。『ER緊急救命室』などの海外ドラマでよく見る手法だが、これを100分ワンカットで見せていくのだから目が離せない。


 どちらも、三谷が得意とする明るいコメディとなっており、観終わった後、幸せな気持ちになれること間違いなしだ。


■瀧本智行が16mmフィルムカメラで撮影した『連続ドラマW 私という運命について』


 限定された場所と時間の中で起こる出来事を面白く描く三谷幸喜に対して、瀧本智行の監督した『連続ドラマW 私という運命について』と『連続ドラマW 北斗 -ある殺人者の回心-』(以下、『北斗』)は長い年月の積み重ねによって変化していく人間の姿をクールなタッチで紡ぎ出している。


 白石一文の同名小説を岡田惠和の脚本でドラマ化した『私という運命について』は1993年から始まり、大企業で女性総合職第一号として働く冬木亜紀(永作博美)の10年間の人生が、激変する世界情勢とともに語られていく。会社内の男女格差や、結婚と仕事の両立の難しさ。身近な人の死など、物語は波乱万丈だが、抑制されたクールなトーンで物語は淡々と進んでいく。


 何より魅力的なのが、どこか懐かしさを感じさせる映像。本作は16mmフィルムのカメラで撮影されており、昔の邦画やCMを思わせる映像となっている。そのため、記憶の中を覗きこんでいるような手触りとなっていて、90年〜00年代初頭という近過去の舞台にうまくハマっている。


 一方、『北斗』は石田衣良の小説をドラマ化したもので、瀧本監督が脚本を担当。本作は、殺人を犯した20歳の青年・端爪北斗(中山優馬)の過去を、幼少期から振り返っていく物語で、こちらも16mmフィルムカメラで撮影されている。父母から壮絶な虐待を受けて育った北斗がなぜ殺人犯になったのかを紐解いていく物語は重苦しいが、その時々で手を差し伸べてくれる人が登場することが救いとなっている。


 こちらは2010年代が舞台だが、象徴的な形で3.11のニュース映像が挟み込まれている。『私という運命について』では9.11の映像が挟み込まれていたが、大きな歴史的事件の映像を挟み込むことで、個人の問題の背後にある歴史と社会が浮かび上がっているのが、この2作の魅力である。


■廣木隆一の個性が強く発揮された『連続ドラマW ソドムの林檎〜ロトを殺した娘たち』


 最後に紹介したいのが、廣木隆一監督が手掛けた『連続ドラマW ソドムの林檎〜ロトを殺した娘たち』(以下、『ソドム』)と『WOWOWオリジナルドラマ 竹内涼真の撮休』。


 ピンク映画出身の廣木監督は性を通して人間を描くのを得意としている。『ソドム』はそんな監督の個性が強く発揮されたオリジナルドラマ。映画『ヴァイブレータ』で組んだ荒井晴彦が娘の荒井美早と共に脚本を担当し、同作で主演を務めた寺島しのぶが、結婚詐欺と殺害の容疑で逮捕された宮村恵を演じている。文藝雑誌編集者の設楽万里(木村文乃)の視点を通して宮村の過去が描かれていくのだが、女性にとっての容姿とセックスの問題が、やがて父親との関係に収斂されていく構造が圧巻だ。犯罪者の過去を追う実録テイストが次第に神話的な物語へと変わっていくのが本作の面白さだが、映像はドキュメンタリータッチで、荒々しい人間ドラマとなっている。


 一方、『竹内涼真の撮休』は、俳優・竹内涼真が本人役を演じる日常エッセイ風のドラマ。廣木監督は第1話と第4話を監督しており、第1話では竹内がカレーを作るために立ち寄ったスパイスカフェのオーナー・薫(小池栄子)と何やらエロティックなムードになっていくという気まずい空気が続く物語。


 対して、第4話は、竹内がシェアハウスで暮らす友人たちとの楽しい団らんが、次第に激しい口論になっていくという『テラスハウス』テイストの作品。物語自体はフィクションなのだが、本人役を演じていることを差し引いても、妙な生々しさがあり『ソドム』とは別の意味で、とてもドキュメンタリー的なドラマとなっている。


(成馬零一)


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