ライブでの声出しに対する意識に変化も コロナ禍以降、セットリストや楽曲に与えた影響

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2022年05月22日 12:11  リアルサウンド

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リアルサウンド編集部

 5月14、15日に日産スタジアムで行われた乃木坂46の『10th YEAR BIRTHDAY LIVE』。デビューからの10年を総括する充実の内容に、会場は大盛り上がりとなった。


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 一方そこで様々な意見が聞かれたのが、ライブ中の声出しについてだ。ここ最近はフルキャパシティで行われる公演が増え、ライブ市場にも活気が戻りつつあるが、未だ声出しの全面解禁には至っていない。今回のライブでも歌唱やコールなどは予め禁止となったものの、「思わず出てしまう一時的な歓声等」については必ずしも禁止事項には当たらないという方針が発表されていた。これは政府によるイベントガイドラインを踏まえたもので、そこでは大声について「通常よりも大きな声量で、反復・継続的に声を発すること」と定義している(※1)。


 特に今回は卒業した人気メンバーがサプライズで登場したこともあり、多くの歓声があがること自体はある程度想定されていたのだろう。今回のライブは複数のプラットフォームで生配信されたため、現地で参加していないファンからもリアルタイムで様々な意見が挙がっていた。


 確かに声出しといっても、思わず出てしまうものと意図的なものがある。前者は主に感情表現だろう。笑う、驚く、喜ぶなどの場面で声が漏れ出るのは人間として自然なことであり、声出し禁止によってこれが封じられるのは辛い。一方、後者としては会場全体での合唱やアイドルソングにおけるコールなどが挙げられる。ここでのメリットは「一体感」だろう。コロナ禍で広まった配信ライブでも、これを得るのはなかなか難しかった。ライブ会場で観客同士同じ振りや掛け声を上げて、一体感を得るのが好きな人も多い。揃いの振り付けだけでなく、サビで腕を高く挙げる、左右に揺らすなど、定番とも言えるアクションが多数存在する。こうした習性は大人数で同じように踊って盛り上がる盆踊りにルーツがあるとも言われており、一種の国民性でもあるのだろう。声出しに関しても、サビの部分を合唱する、特定のタイミングでコールを入れるといった「みんなで合わせること」に自然と重きが置かれている。


 声出しの是非は人によって大きく分かれるのが現状だ。それはコロナ感染に対する警戒感の温度差だけではない。各アーティストのライブの雰囲気や、そのファンがどう盛り上がりたいかによって大きく異なるのではないか。声を出して盛り上がりたい人もいれば、じっくり堪能したい人もいるだろう。特に後者にとっては、今後声出しが解禁されることを必ずしも望まないようにも思える。実際に、声を出せなくなったコロナ禍以降のライブにおいて、楽曲やパフォーマンスに集中できてよかったというポジティブな意見もしばしば目にする。他にも、静かにライブを楽しむ空気感から、演奏中の客席での会話といった迷惑行為が減少する可能性も考えられるだろう。またコールなどもなくなるため、ライブのノリが分からない初見の人でも周りを気にせず楽しめるようになるケースもあるかもしれない。


 しかし声出しが禁止されて困らない人も、そのようなルールが及ぼす影響を避けることはできない。何故なら声出しの有無は、ライブの内容そのものにも変化をもたらすからだ。Dragon Ashの例を挙げてみよう。2002年リリースのヒット曲「Fantasista」はライブの定番曲と知られ、サビでは会場全体を巻き込む大合唱になるのがお決まりであった。しかしコロナ禍以降、バンドはこの曲を基本的にセットリストから外すようになっている。思い切った決断だが、これはシンガロングが楽曲にとって必要不可欠なものであると考えているからだろう。


 他にも、L’Arc〜en〜Cielが昨年開催したライブにおいてコロナ禍ならではの変化があった。「MY HEART DRAWS A DREAM」や「あなた」といった観客の大合唱が定番となった楽曲で、軽く鼻歌のように歌う「ハミング」が推奨されたのだ。歌詞がなく合唱ほどの声量にはならないものの、1万人以上の小さな声が合わさると想像以上にしっかり曲になっているのが興味深い。たとえ不完全であってもファンの声を必要としているという事実は、ミュージシャン側にとっても声出しがライブにおける重要な要素であることの何よりの証左だ。


 またアイドル楽曲においては、ライブでファンによるコールが入ることを前提として作られているものもしばしば見受けられる。しかしコロナ禍以降こうした光景が見られなくなったため、楽曲制作においても必然的に変化が生まれることとなった。つまり声出しの有無は全てのライブ参加者、アーティスト、そして作り手にまで広く影響を及ぼしていることがわかる。ひいてはライブに参加しないリスナーにとっても、リリースされる楽曲の変化という点で影響がないとは言い切れない。


 最近では、Jリーグが「声出し応援エリア」を6月から段階的に導入すると発表した。該当エリアにおいては座席間隔を広く保ち、不織布マスクを着用した上で声を出しての応援が可能になるのだという。ライブの現場において同様の方法をとるのは難しいかもしれないが、声出し解禁のタイミングは着実に近づいているのだろう。それまでは、ルールを守った上でライブを楽しみたいものだ。


※1:https://corona.go.jp/package/assets/pdf/jimurenraku_seigen_20220304_02.pdf(椎名和樹)


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