『私の解放日誌』が紡ぎ出す、優しい言葉たち 最終話で描き切った自分のために生きること

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2022年06月06日 10:01  リアルサウンド

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『私の解放日誌』(写真はJTBC公式サイトより)

 Netflixで配信の韓国ドラマ『私の解放日誌』。最終話で、田舎のサンポ市から首都・ソウルへと引っ越した3兄妹の生活を垣間見ることができた。


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 京畿道から毎日ソウルへ1時間半ほどかけて出勤し、休日は実家の畑を手伝う生活を送る3兄妹を中心に、自らどう変化をもたらすか、ヒントが描かれてきた本作。地元の美容室では思う通りに行かず文句を言う姉のギジョン(イエル)。何をするにも父親の許可なしでは動けない、兄チャンヒ(イ・ミンギ)。毎日淡々と無口で生きていながらも、周囲の人間にうんざりしきっている妹のミジョン(キム・ジウォン)。彼らはある夏、自分を動かす大きな存在となる人物にそれぞれ出会い、自らを解放へと導いた。


■ミジョンとクから紡ぎ出される、優しい言葉たち


 「崇めて」という、あまり日常では出ない言葉から結ばれたミジョンとク、二人の運命。世の中を客観的に見て生きている二人が満たし合う。無口な二人が楽しげに話し始める瞬間はなぜかホッとしたものだった。


 一方的にミジョンの元を離れ、ソウルに戻ったクだったが、思い立ちミジョンの実家を訪れたことで、彼女が何をしているのか知ることになる。そしてソウルにて再会、真顔が多かった二人だったのに久しぶりに会うだけで笑顔が溢れていた。


 酒を飲むことで自分の脳内にやってくる嫌な人物たちに立ち向かえるのだと言うク。しかし、そんな自分から抜け出そうと、かつてミジョンがクに満たしてほしいと言ったように、アルバイトでいいから話を聞いてほしいとミジョンに頼む。まずは10回、それでも足りなければもう10回。ミジョンはクにとってストーブのように温めてくれる存在なのだ。


 そしてまた彼らはお互い崇め、満たし合う関係になった。


 毎回、ミジョンの口から出る言葉に、視聴者としても救われてきた。ソウルに来て、転職し、成長した姿でクに言ったこと。それは「1日に5分ときめく時間を作る」ということ。数秒ずつ集めて、1日5分。それを聞いて実践してみるクも実に愛おしく、自分を追い立てている様子が分かる。ミジョンが、クを思う自分を愛らしく思うように、自分を大切に生きていきたいと思わせてくれた。


■チャンヒを取り巻く女性たちと彼の成長


 チャンヒは景福宮近くのコンビニのオーナーになっていた。やっと憧れのソウル人になれたのに、なぜか心は晴れない。ヒョナ(チョン・ヘジン)との関係を映画の『リターン・トゥ・パラダイス』に例え、自分は死にゆく人を近くで見守りたいと答えた。その心のうちには、今まで祖父母や母をたまたまでも看取ってきた時の感情があるのではないだろうか。家の借金を支払い終え、父には再婚をさせた立派な長男であるが、自分が何をするために生きているのか、3兄妹の中で一番悶々と考えていたのはチャンヒだろう。


 チャンヒを取り巻く女性たちによって、彼は成長してきたのではないだろうか。第1話で、ダサすぎることを理由に振られたチャンヒだったが、それでも自分はサンポの人間でそれを知ろうとしない彼女を責めた。チャンヒの心をある意味前向きに変えたのは、彼の同僚だった、アルム(チェ・ボヨン)の存在が大きく影響している。お金持ちであり、おしゃべりで面倒な彼女のことを受け止めるには、自分の心の器を広げなければならない。そのためにクに憧れのロールス・ロイスを借りて、日々過ごしていた。しかしそれでも、彼は何か引っかかる。8年働いた会社を辞め、父親と過ごし、自分の将来を見つめ直したりもしてみた。それなのに、ひょんなことがきっかけで、自分がすべきことが見つかる。それに気がついたチャンヒは、ワクワクするという言葉以外見つからない、そういった様子だった。


■歳をとるのはあっという間 どう生きるか、ギジョンの決断


 ギジョンは案の定、テフン(イ・ギウ)の姉で同級生のギョソン(チョン・スヨン)とギクシャクしていた。追い打ちをかけるように、ギジョンが妊娠していないと分かった時にテフンが「良かった」と言ったことに対して傷ついていた。


 愛とは何か、同情や尊敬も愛と同じく受け入れることではないのかというギジョンに対して、テフンは「よちよち歩く子供の後ろ姿を見ると不安になります」と言った。自分と同じような辛い目にあってほしくないという、彼の優しさからの発言だったのだ。そこでやっと二人は心を開いたように見える。


 少し時代を感じるくるくるパーマだったギジョンは、テフンに想いを伝えるあたりからストレートになった。一つ山を乗り越えた証だろう。さらに勢いで自分でショートヘアにした彼女の心は、もう一つの山を乗り越えようとしていたのだ。曖昧な将来への不安をぶつけることができた。彼女が自由にできるのは髪型だけだったのだ。


 第1話、居酒屋でシングルファザーの愚痴を言ってしまいテフンと出会ったように、またもや大きな声で50歳になったら死ぬしかないと言ってしまったギジョンは、年上のお姉さんたちに助言される。


 「30歳になればカッコ良く生きていると思ってた。でも違った」「50歳は突然やってくるの。13歳の時にちょっと昼寝をして、今目が覚めたみたい」と。この言葉から、ユリム(カン・ジュハ)が20歳になった時、ギジョンが50歳で結婚するのをただ待つのではなく、今を楽しんで生きてもいいのではないか。先への不安よりも、今を楽しく生きることが大切だと思い知らされた。


 独身であることの楽しさは、自由に寝て自由に起きて、家がどんなに汚くても誰にも咎められないこと。3兄妹の父親も言ったように、結婚が全てではない。自分がいいと思った生き方をする。恋人探しに夢中になっていたギジョンには、到底考えられなかったことが、テフンとの出会いを経て分かったのだ。


 『私の解放日誌』は毎回、本を読んでいるのかと思うほど、一つ一つの言葉に重みがあって、人生の糧になる話が多かったように感じる。彼ら、3兄妹の人生はこれからも続いていく。決して、完全に「解放」されることはないのが人生だ。いかに自分の人生を自分のために生きていくことが大切か、知らせてくれたドラマだった。私たち視聴者の明日は、このドラマのおかげでもっと明るくなった。


(伊藤万弥乃)


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