BTS、世界的ポップアイコンになるまでの軌跡 アルバム『Proof』に見るサウンドの変遷

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2022年06月14日 06:01  リアルサウンド

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BTS『Proof』

 BTSが9年間に及ぶ活動の足跡を収めたアンソロジーアルバム『Proof』をリリースした。デジタルでは全35曲、フィジカルでは3枚組・全48曲(!)に及ぶボリュームで、いまや押しも押されもせぬ世界的ポップアイコンとなったBTSの歴史を振り返る一作となっている。


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 これまでの活動曲(リードシングル)を時系列に並べたディスク1は、シンプルなつくりながら彼らの歩みと飛躍が改めて感じられる。公式にはリリースのなかった初期の楽曲「Born Singer」からはじまり、世界的な人気を追い風にしつつ北米での成功を決定づけた直近の「Dynamite」〜「Butter」、そして最新曲「Yet to Come (The Most Beautiful Moment)」にいたる19曲。聴いているだけで変化に満ちた濃密な軌跡がフラッシュバックする。というわけで、本稿では特にディスク1に焦点を絞って、そのサウンド面の変遷を振り返ってみる。


 ヒップホップをバックグラウンドに持つアイドルとして、アグレッシブなビートとラップを打ち出す初期の活動曲の力強いサウンドは、いまもなおわくわくするような勢いを感じさせる。J.Coleの「Born Sinner」をサンプリングした切なくもメロディアスなビートに未来への決意をにじませる「Born Singer」は、9年後のBTSの姿を重ねずにはいられない、胸をしめつけられるような感慨と高揚をもたらす。最良のオープニングトラックとしてその役割を果たしている。ウッドベースと高音のピアノのフレーズが不穏さを醸し出す「No More Dream」(『2 COOL 4 SKOOL』より)、あるいはラウドなギター&ドラムとラップラインの個性的なフロウの絡み合いが面白い「Boy In Luv」(『Skool Luv Affair』より)など、ヒップホップという軸を通したうえで多人数のボーイバンドとしての華やかさも備えたバランスが面白い。


 しかし、やはり「花様年華」シリーズ以降の音楽的な変化が世界への扉を本格的に開いたように思える。同時代に洗練されていったEDM(とりわけフューチャーベース)のダイナミックかつドラマチックな展開を我が物とした「I NEED YOU」(『花様年華 pt.1』より)では、サウンドのダイナミズム、そしてラップラインとボーカルラインがつくりだすドラマに思わず魅了される。連作を通じてより大きなスケールのコンセプトとストーリーを展開してゆくこれ以降のBTSにとって、こうしたサウンド面での変化はひとつの武器となったことだろう。


 個人的な思い入れで言えば、やはり「DNA」(『LOVE YOURSELF 承 ‘Her’』より)の緩急に満ちためくるめく展開や、ラップもボーカルもふくめてビートへ溶け込んでいくようなエレクトロニックなサウンドが印象深い。聴いているだけでずぶずぶと楽曲の世界に没入していってしまう。


 ホールジーとのコラボ楽曲「Boy With Luv」や「ON」の収録されたアルバム『MAP OF THE SOUL : 7』は、アメリカのメディアへの露出も増え(ジミー・ファロンの『ザ・トゥナイト・ショー』でグランドセントラル駅を貸し切ったパフォーマンス映像を披露したのは今でも衝撃的に思い出される)、さらなるステップアップを予感させると共に、ひとつの区切りでもある一作だった。特に前者はメロディ志向のこのうえなくポップな楽曲だが、ポップのきらびやかさのなかにある種の成熟を封じ込めているところ(とりわけ、ボーカルのスタイルに)が興味深い。


 そして、言わずとしれた「Dynamite」。全力で勝負をかけたこの全編英語詞のディスコチューンが成功をおさめることとなる。初期のゴリゴリとしたヒップホップサウンドとも、2010年代中盤〜後半のドラマティックなEDMサウンドともまったく異なる、ど直球の「ポップ」を体現したこの曲。続く「Butter」も、限界まで切り詰めたような恐るべきタイトな展開で濃密なポップソングをつくりあげた珠玉の一曲。


 正直、「ここまで来たらあとはどうなってしまうというんだ」とさえ思ってしまうほどの歩みを見せてきたBTSが、今回その足跡を振り返ったうえで付け足した一曲が「Yet To Come」、つまり「これからだ」。幸福感に満ちながらも微妙な陰影のあるビート。語り口は優しく落ち着いているが、「最良の瞬間はまだこれから来るんだ」と言い切る姿には並々ならぬ自負と決意が感じられる。未来への不安と焦燥をまっすぐに表現していた「Born Singer」の身を切るような痛みが、9年後にはここに結実する。


 ――という具合に、じっくりとディスク1を味わうだけで得も言われぬ感慨を覚えてしまうのだが、メンバーのソロやユニット曲を収めたディスク2や、フィジカル限定ながらデモバージョンや未発表音源が集まるディスク3まで含めれば、それはあくまで『Proof』の3分の1にすぎない。また、ディスク2収録の新曲「RUN BTS」はロックとヒップホップがクロスオーバーするひりひりとしたミニマルなビートのうえにポップなフレーズが滑り込む良曲だし、ディスク3中唯一デジタルでも聴くことができる新曲「For Youth」は、流麗なメロディとハーモニーと共にファン=ARMYへ捧げる言葉が紡がれる壮大なバラードだ。この濃密な『Proof』を一区切りに、来るべき「最良の瞬間」を心待ちにして、今後のBTSの活躍に注視していきたい。(imdkm)


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