2歳年長のU−23韓国代表を3−0で破った試合後、さすがにロッカールームはお祭り騒ぎだったそうだ。歌声も響き、歓声もあがる。その様子を観ていた指揮官は、こう告げた。
「あと5分だけだ」
準々決勝突破も韓国撃破も喜ばしいことには違いないし、その感情はここで爆発させていい。ただ同時にこうも指摘した。
「我々のターゲットは何だ?優勝だろう。このロッカールームから一歩外に出たら、それに向かうための立ち居振る舞いをしなくてはいけない」
大岩剛監督は、もう一度「優勝」という大目標を再認識させて勝って兜の緒を締め直させた。取材エリアに現れた選手たちの話を聴きながら「意外なほどに冷静だな」という感触を持ったのだが、こうした裏側があったわけだ。
繰り返し、繰り返し、大岩監督は「優勝」というターゲットを口にしてきた。2歳年少のチームで参加し、記者会見などではことあるごとに外国人記者から「日本は勝つ気がないのだろう?」といった質問も投げかけられた。だが、そのたびに「勝つためにここへ来た」と言い続けた。
パリ五輪に向けて経験を積むという目的は当然、ある。ただ、そのことと勝ちに行くことの間に指揮官は何の矛盾も感じていない。これは“鹿島の流儀”なのかもしれないが、ごくごく自然に「勝つ」ことを当然のものとして捉えつつ、選手たちを一つの方向に導いている。
優勝という揺るがぬターゲットを中心に据えつつ、目の前の試合に勝つための術策を練る。
攻撃の軸として活躍を見せてきたMF鈴木唯人(清水エスパルス)はこういう言葉でチームの雰囲気を表現する。
「ここまで本当に『この1試合』、『1試合ずつ』という気持ちでやってきた。初戦もそうだし、サウジアラビアとの試合もそうだし、この間の試合もそう。それでここまで来られている。次により一番大事な1試合が来るという気持ちでここまでやって来て、それがまた来るということだと捉えている」
自分の目の前に出てきた試合が大一番。試合が終われば、次の試合こそ本当の大一番。そんな流れを継続しながら戦って成果を出してきた。
「そのスタンスは変えずに、しっかりした雰囲気作りと準備をして試合に臨みたいし、そうすれば良い結果も出てくる」
そう語った鈴木に「いいイメージはあるんじゃない?」と振ってみたら、こんな答えが返ってきた。
「いいイメージどころじゃないくらい、モチベーションが上がって試合に臨めている」
笑って言葉を繋ぎつつ、そして“U−21日本代表”というチームについてはこうも語った。
「この年代の『もっともっと上を目指さないといけない人たち』で、その集まりだと思っている。この場はみんなアピールの場だと思っているし、そういうモチベーションでやっていて、それが集結する中で一つのチームになって試合に臨めていることが今の結果に繋がっている」
U−21というカテゴリーでの活躍で満足する気はさらさらない。そして、その先を見据えて競い合っている集団だからこそ、目の前の試合にモチベーション高く戦って勝つのも当たり前。チームのために走る、戦う、頑張るなんていう大前提は言うまでもなく全員が持っていて、その上で個人として這い上がる場だと捉えている。今年の冬には、もう一つ上のカテゴリーにある日本代表が特別な大会を戦うのだから、それも当然だ。
「この場をきっかけにしたいと思っている」
きっと優勝したらしたで、やっぱり大岩監督は「喜ぶのはロッカールームを出るまでだ」と言うのだろうし、選手たちもナチュラルにそれを受け入れるだろう。そういう空気感自体が、この若武者たちが競い合うチームの躍進を支えている。
取材・文=川端暁彦