DISH//、矢部昌暉不在で発揮されたバンドの底力 4人の想い込めたセットリストで挑んだ10周年ツアー横浜公演

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2022年07月01日 18:01  リアルサウンド

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DISH//(写真=Ray Otabe)

「イレギュラーだったかもしれないけど、ライブってこうですね。生きてんなあって、みんなに支えられてんなあって、感動しちゃいました」


 全曲を終えたあと、楽器を置き、リラックスしたテンションで観客と向き合う北村匠海(Vo/Gt)はそう語り、橘柊生(DJ/Key)、泉大智(Dr)も共に充実の表情を浮かべていた。


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 結成10周年を迎えたDISH//のツアー『LIVE TOUR -DISH//- 2022「今」』。6月24日のパシフィコ横浜公演では、矢部昌暉(Cho/Gt)が体調不良のため急遽出演を見合わせることになり、北村、橘、泉、サポートメンバーの城石真臣(Gt)、安達貴史(Ba)という5人編成でライブが行われた。メンバーの中には「昌暉のいないDISH//は、DISH//じゃないのかもしれない」という気持ちもあったが、それでも今の自分たちのライブを届けたいという意志、そして何よりライブを楽しみにしているファンを悲しませたくないという想いから、予定通りライブを行うことに決めたそうだ。いつも矢部がいるステージ上手前方には泉のドラムセットを配置。上手から順に泉、北村、橘が横一列に並ぶセッティングになっている。


 イレギュラーといえる事態だが、セットリストの縮小はせずにライブに臨んだDISH//。オープニングのセッションを経て、アニバーサリーツアー1曲目にふさわしい「バースデー」を筆頭にアッパーチューンで畳みかけた序盤からバンドのサウンドは力強く、「今日はお前らが昌暉だ!」(橘)という斬新な呼びかけとともに、ステージと客席が一緒になって熱量を上げていく。「Shall We Dance????」の曲中で矢部の過去のコスプレ写真がスクリーンに映されたり、矢部がツアーの一部公演に参加できなかった例はこれまでにもあることから「昌暉がいないとツアー始まったなって感じがする」とステージ上で冗談を言い合ったりと、観客を笑顔にさせることを忘れないのもDISH//らしく、エンターテイナーとしての頼もしさも感じた。


 矢部のギターパートは城石が担い、歌唱パートはメンバー3人で補った。普段4人で行っていることを3人で行わなければならないため、当然一人ひとりの負担は大きく、例えば「BEAT MONSTER」はただでさえ歌いながら踊る曲なのに、サビのボーカルは息継ぎする暇がなさそうだ。しかし“人の本質はピンチの時に表れる”と言うように、この状況が3人を覚醒させた側面もあったのだろう。音の真芯を的確に射貫く泉のドラミングはいつにもまして冴えていたし、橘がグランドピアノを弾くアレンジで披露した「猫」や「沈丁花」における北村の歌は、ボーカリストとしての底力を感じさせる素晴らしいものだった。そして橘は、ラップをしながらステージに倒れ込むほどの燃焼ぶりを見せた。


 一方それは、裏を返すと、120%出しきらなければ矢部の不在を補えなかったということ。「昌暉がいないとこんなに大変なんだなって思いました」(北村)と語られた通り、メンバーもファンも、矢部の存在の大きさを改めて実感したライブだった。大切な人への感謝を歌う「沈丁花」では、北村が観客に「今日は矢部昌暉にありがとうって歌います。みんなもそうだろ?」と投げかけ、想いの向かう先が一つになる。「早くよくなれよ〜!」と叫んでいる北村は、今思うことを本当にそのまま口にしているのだろう。そんな北村を微笑ましく思ったのか、橘と泉が笑顔で演奏していたのも印象的だった。この日最後のMCでは、バンドを代表して北村が「やっぱりバンドって一人いないと寂しいし、成り立たないし。でも、それでも伝えることはできるんじゃないかと思って、精一杯今の気持ちを届けたし、みんなからも届いたし、そういう想いのぶつけ合いがずっとできてたなと思って感動してました。みなさんありがとうございます」と伝える。“やっぱり4人でDISH//だ”という想い、6月24日の“今”湧いた感情を未来へ繋げるように、「虹のカケラ」で締め括るラストが美しかった。


 と、ここまでは“イレギュラーによって発揮された底力”について書いたが、バンドがまた一つ突き抜けられた理由はそれだけではない。「birds」演奏前に北村が「あの時理解できなかった歌詞の奥の底、根っこの部分が大人になってから分かった」「もう1回青春してるなって思えてます」と語っていたように、彼らが現在取り組んでいる“再青”プロジェクト(=過去にリリースした曲を今の4人の演奏でリテイク)がバンドにもたらしたものは大きいようだ。北村のソロ曲「明日を見つめて」をはじめ、珍しい曲がいくつかセットリストに入っていたのは、10年のディスコグラフィを今の自分たち目線で見つめ直した結果からかもしれないし、“一人じゃない”、“ゆっくりでいいから一緒に進もう”と歌う曲が多く含まれたセットリストには、4人の想いが込められていたことだろう。


 セットリストについてもう少し触れておきたい。個人的に最も胸を熱くさせられたのが、泉の魂のフィルインから「SING-A-LONG」が始まり、橘&北村がバトルするようにラップする「Rock Your Body Rock」、「B-BOY」を経て、「東京VIBRATION」で激しく踏み鳴らされたバスドラ、掻き鳴らされたギターの余韻が残る中で、「今しかできない、今日しかできないライブを! 声出せないこの環境でも、もっと気持ちで来いよ!」(北村)と「Seagull」に突入するという終盤の展開。「SING-A-LONG」が“クライマックスの入り口”的な役割を担ったことを意外に思うとともに(ライブで頻繁に登場しない曲のため)、バンドのテンションの持っていき方が今までにない種類のものだと感じた。こういった意外な采配も“再青”プロジェクトの賜物であり、もしも楽曲の再解釈が“どの曲がハイライトになるのか分からない”、いわばどの曲もハイライトになり得るという新鮮な空気、新しいグルーヴをバンドにもたらしているのだとすれば、これほどワクワクすることはない。


 そう考えると、8月27日の富士急ハイランド・コニファーフォレスト公演、そして12月24日、25日に大阪城ホールと国立代々木競技場 第一体育館で行われる初のアリーナ公演『DISH// ARENA LIVE 2022』もまた、これまでにないライブになりそうだ。そしてDISH//の“今”はやはり見逃せないという結論になる。(蜂須賀ちなみ)


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