『PLAN 75』『冬薔薇』『百花』など話題作に出演 “映画俳優”河合優実の可能性

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2022年07月07日 08:01  リアルサウンド

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河合優実『PLAN 75』(c)2022『PLAN75』製作委員会 / Urban Factory / Fusee

 SF青春ドラマ『17才の帝国』(NHK総合)での好演が記憶に新しい河合優実の存在は、同作によって広く知られることになったのではないだろうか。2019年のデビュー以降、すさまじい勢いで頭角を現してきた彼女だが、連続ドラマで主要キャラクターを演じる機会はなかなかなかった。しかし、映画ファンにとっては知る人ぞ知る、あるいはもはや知らぬ者はいないであろう存在であり、河合には“映画俳優”の印象が強くある。公開中の『PLAN 75』での妙演は、さらにそのイメージを強固なものにするとともに、演技者としてのさらなる可能性を感じさせるものだ。


 河合の存在が映画ファンの間で一気に知られるようになったのは、やはり2020年公開の『佐々木、イン、マイマイン』だろう。タイトルロールである佐々木(細川岳)が運命的な出会いを果たす女性を演じ、短い出番ながらもとても重要な役どころを担った。怪物的なパワーを持つ佐々木が大人になるにつれ少しずつ減速していくさまを、物語の後半から登場する彼女はそっと寄り添うように受け止めなければならなかったのだ。独特な空気感を持った、“受けの演技”が上手い俳優だと思った。


【写真】『PLAN 75』での河合優実


 翌年には、2021年の日本映画を代表するものと言っても過言ではない『サマーフィルムにのって』や『由宇子の天秤』などの出演作が公開。河合はもうこのあたりですでに、日本映画界における自身の重要なポジションを築いていたように思う。前者はSF要素のある青春映画であり、後者は“正義”を問う完全なる社会派映画。河合はいずれも控えめな高校生に扮しているが、仲間たちと眩しいひとときを過ごす高校生像と深い孤独を抱えた高校生像をそれぞれ立ち上げ、演技のバリエーションの豊かさを示した。


 そして、今年も河合の出演作の公開が相次いでいる。『ちょっと思い出しただけ』『愛なのに』『女子高生に殺されたい』『冬薔薇』ーー出番の多寡や作品における役どころはそれぞれ異なるが、彼女が表現するキャラクターたちの多くには、どこか影があるのを感じる。河合自身が得意とするキャラクターをことごとく得てきたというのは間違いないはずだが、『17才の帝国』では合理性を重んじる頭のキレる屈託のない女性を演じ、彼女に抱いていたイメージは大きく変わりつつある。特に驚かされたのが、現在上演中の舞台『ドライブイン カリフォルニア』での河合の姿だ。麻生久美子や谷原章介、そして何より阿部サダヲをはじめとする「大人計画」の個性的な面々に混じり、アップテンポな悲喜劇を展開させている。演技とは基本的に他者がいてこそ成り立つもの。同作での河合は終始ハイテンションで、“受けの演技”も見事ながら“攻めの演技”も果敢に実践している。得意とする役どころにハマるばかりでなく、そもそも高い技量を持った俳優なのだ。舞台上での生のやり取りにこそ、技量は表れるものだろう。


 さて、『17才の帝国』は放送が終了したし、『ドライブイン カリフォルニア』は舞台なのだから観られる者は限られている。そんな中で河合の姿を確認できるのが映画『PLAN 75』。第75回カンヌ国際映画祭にて、新人監督に贈られる「カメラドール」のスペシャルメンション(特別賞)を受賞した作品だ。本作が描いているのは、75歳以上の人間が自ら生死を選ぶことのできる制度「プラン75」が施行された近未来の日本社会であり、死を選択した者に“その日”が来る直前までサポートをするコールセンターのスタッフ・瑶子を河合は演じている。物語がフォーカスしているのは、「プラン75」を申請せざるを得ない人々と、この制度に業務として関わりながら葛藤する者たちの姿。瑶子の登場は中盤あたりなのだが、死を選ぶ主人公の女性・ミチ(倍賞千恵子)の話し相手という役のため、演じる河合の存在は作品において重要なものだ。ミチと交流を重ねるうちに変化していく内面を、まるで滲み出させるように表現している。白眉なのが、ミチとの最後の電話のシーン。立場的に瑶子はミチに「死なないでほしい」とは言えない。言ってはならない。しかし、その不安定な声と表情には、彼女の本心が見え隠れする。表向きはどうにか平静を保っているが、心ではあきらかに泣いているのだ。声と表情のコントロールがかなり難しいはずだが、まさに妙演と呼べるレベル。『万引き家族』(2018年)で安藤サクラの“泣きの演技”が話題になったように、カンヌ受賞作に河合が刻んだこの“泣きの演技”もまた、世界を相手にしたものだと言っていいだろう。


 今後の河合は、映画『モテキ』(2011年)や『怒り』(2016年)などの名作をプロデュースしてきた川村元気の初監督作『百花』や、『ちはやふる』シリーズの小泉徳宏監督による最新作『線は、僕を描く』、さらには日本国内のみならず海外からも熱い視線を浴びる石川慶監督の『ある男』といった出演作が公開される。メジャーとインディーズの垣根も、国境さえも越えていく河合優実は、ますます愛される存在になっていきそうである。彼女が相手にしているのはすでに、世界だ。


(折田侑駿)


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