TBS 新井順子、カンテレ 佐野亜裕美など、脚本家や役者を輝かせる各局プロデューサーの存在

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2022年07月08日 06:01  リアルサウンド

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『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』(c)TBS

 数字・評価共に、やや不作の印象があった春ドラマ。いまだにそうした不調の結果を主演俳優に求める記事も量産される一方で、ドラマ好きの人々の間では「あの作品じゃ無理もない」「あの脚本では誰が演じても難しい」と、役者に対して同情的な見方をすることが、もはや定着している。


【参考】若手がいない? ドラマ界の脚本家事情


 その一方で、今は多数のWeb記事やSNSなどで情報が溢れているため、ドラマは「キャスティングよりも脚本家で選ぶ」という人も増え、チグハグな展開や消化不良の結末などを含め、「脚本家=戦犯」とする見方が増えているのも事実。


 しかし、作品が不評だった場合、脚本家が全て悪く、好評だった場合、全て脚本家と役者の功績なのか。そこに抜け落ちているのが、「プロデューサー」の存在だ。


■名脚本家の才能を引き出し、輝かせてきた名プロデューサー


 かつて名脚本家には、その才能を存分に引き出し、輝かせる名プロデューサーがいた。例えば、1970〜80年代なら、『寺内貫太郎一家』(TBS系)で向田邦子と組んだ久世光彦や、『肝っ玉かあさん』(TBS系)、『ありがとう』シリーズ(TBS系)で平岩弓枝と、『渡る世間は鬼ばかり』シリーズ(TBS系)や『愛と死をみつめて』(TBS系)で橋田壽賀子と組んだ石井ふく子。また、山田太一の『岸辺のアルバム』(TBS系)で製作総指揮を、『ふぞろいの林檎たち』シリーズ(TBS系)でプロデューサーを務めた大山勝美、倉本聰の『北の国から』シリーズ(フジテレビ系)の中村敏夫などだ。


 特にプロデューサーの手腕が非常にわかりやすい例として、情念を描くことの多い向田邦子作品の中で『寺内貫太郎一家』は、シリアスな要素が多いにもかかわらず、際立ってコメディタッチのホームドラマに仕上がっているところに久世光彦色を見ることができる。


 また、駆け出しの頃からタッグを組んで天才脚本家を育てた例としては、三谷幸喜の『古畑任三郎』シリーズ(フジテレビ系)や『王様のレストラン』(フジテレビ系)などを「企画」という立場で手掛けた石原隆、『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)から『俺の家の話』(TBS系)に至るまで宮藤官九郎ドラマの大半を手掛けた磯山晶などが挙げられる。


 さらに、「ドラマ黄金期」と言われた1990年代には、フジテレビで『あすなろ白書』、『ロングバケーション』、『踊る大捜査線』、『ビーチボーイズ』などを手掛けた亀山千広、同じくフジテレビで『東京ラブストーリー』、『101回目のプロポーズ』、『ひとつ屋根の下』などを手掛けた大多亮、『ずっとあなたが好きだった』、『愛していると言ってくれ』などを手掛けたTBSの貴島誠一郎らが、作品も主題歌も、片っ端からヒットさせていく。「社会現象」となるブームもドラマから度々起こっていた。


 こうした時代に比べ、いつの間にかプロデューサーの存在感が希薄になっていると感じている人もいるかもしれない。その最大の原因は、一部の大手芸能事務所などの力が強くなりすぎて、テレビ局側が視聴率稼ぎのためにキャスティング主導で作品が作られるようになったことだろう。これにより、役者あるいはアイドル・タレントのスター性・キャラクター性を最大限に生かした「当て書き」の妙作も多数生まれたが、十分に企画を練られず、主演の人気頼みとなった作品も多く、プロデューサーの権限も弱くなっていった。


 しかし、「テレビ離れ」が進む中、テレビドラマを観る人自体が減った今、その分キャスト云々ばかりでなく、ドラマを作品としてしっかり観る割合が増えている。それが近年では、脚本家に対する関心度・注目度につながっているわけだが、脚本を誰にオファーするかを含め、全ての作品の舵取りをしているのがプロデューサーであることは言うまでもない。


■2000年代に名作を残すプロデューサー


 そんな中、近年では塚原あゆ子演出とのタッグにより、ドラマ好きの間で「外れなし」と言われるのが、『Nのために』、『アンナチュラル』、『MIU404』、『最愛』などを手掛けてきたTBSの新井順子だ。7月期では同タッグが有村架純、中村倫也出演の『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』(TBS系)を手掛けることから、放送開始前から大いに注目を浴びている。


 ちなみに、新井順子は、フジテレビヤングシナリオ大賞出身で、かつてフジテレビで執筆してきた脚本家・野木亜紀子が映画監督でもある土井裕泰や先述の磯山晶と共に『空飛ぶ広報室』『重版出来!』『逃げるは恥だが役に立つ』を手掛け、ブレイクした土壌を受け継いで『アンナチュラル』の大ヒットにつなげた人でもある。TBSはこうしたバトンの受け渡しが非常に巧みなのだ。


 また、父子で異なる局において作り手のバトンを受け継いでいるのが、先述の貴島誠一郎の娘で、『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)で社会現象を巻き起こした貴島彩理だ。


 そして、TBSで『カルテット』をはじめとした多数のヒットドラマを生み、カンテレに移籍して『大豆田とわ子と三人の元夫』で多くのドラマ好きを再び魅了したかと思えば、まだフリーランスだった時代に決まったことからカンテレ社員でありつつ、NHKで“青春と政治、SFファンタジー”の異色作『17才の帝国』を手掛けた佐野亜裕美。アニメと実写を融合した作品であるために、『けいおん!』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』など、アニメ畑で活躍する脚本家・吉田玲子にオファーしたのも、『大豆田とわ子と三人の元夫』を手掛けた新進気鋭の作曲家・坂東祐大を連れてきたのも大きな功績だが、そんな佐野に声をかけたのが、制作統括の訓覇圭ということも忘れてはいけない。


 訓覇圭といえば、NHKで骨太社会派エンタメ『ハゲタカ』から連続テレビ小説『あまちゃん』、大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』、20代の気鋭の劇作家・加藤拓也が脚本を手掛けるジュブナイルSF+ダークファンタジー『きれいのくに』など、常にこれまで観たことのない作品にチャレンジし続けているベテランだ。


 また、同じくNHKで昨年4月期のコロナ禍真っ只中に2作、それも『半径5メートル』と『今ここにある危機とぼくの好感度について』といういずれも良質な作品を手掛けたことでドラマ好きを驚愕させた勝田夏子。しかも、6月25日からは土曜ドラマで、平野啓一郎原作×高田亮脚本の凄まじい作品『空白を満たしなさい』を手掛けている。


 他に、期待したいのは、入社3年目でプロデューサーデビューを果たし、2020年に『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)の企画編成、7月期には永野芽郁主演の『ユニコーンに乗って』(TBS系)のプロデュースを手掛けている松本友香。


 さらに、フジテレビで『きらきらひかる』、『カバチタレ!』、『ランチの女王』などを手掛けてきた山口雅俊が、プロデューサー、脚本・演出の全てを手掛け、吉田鋼太郎主演でなんともチャーミングで笑えて泣ける『おいハンサム‼』(東海テレビ制作・フジテレビ系)でしびれさせてくれたのは、多くのドラマ好きにとって嬉しい「再会」だったろう。


 こうした流れとは別に、『スナックキズツキ』、『バイプレイヤーズ』シリーズ、『コタキ兄弟と四苦八苦』、『フルーツ宅配便』など驚異的ペースで良作を量産し続けている濱谷晃一、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(通称チェリまほ)、『うきわ ―友達以上、不倫未満―』と高評価を連発した本間かなみ、『きのう何食べた?』、『来世ではちゃんとします』、『生きるとか死ぬとか父親とか』、『シジュウカラ』や、7月期の『雪女と蟹を食う』など、「生」と「女性の性や業」を描き続けている祖父江里奈など、テレビ東京プロデューサー勢は個性豊かな注目すべき人材だらけ。


 プロデューサーに注目して自分好みの作品を探してみると、実は脚本家軸以上に確かな手応えが得られるかもしれない。


(田幸和歌子)


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