世界的ギタリストが45年前になくしたギター TAKESHIのYouTube動画で発見 2人に起きた奇跡とは

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2022年08月02日 11:30  AERA dot.

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写真戻ってきたギターを手に笑みを浮かべるランディ・バックマン
戻ってきたギターを手に笑みを浮かべるランディ・バックマン
 魔法のギターが奇跡の物語を作った――。カナダの伝説的バンド、ゲス・フーの元ギタリスト、ランディ・バックマン(78)の45年前に盗まれたギターが、日本で見つかった。持ち主は、嵐やTOKIO、関ジャニ∞などへの楽曲提供で知られる日本のアーティストTAKESHIだった。数奇な運命をたどった1本のギターは、2人のアーティストをつないだ奇跡のギターとして話題になった。


【写真】ランディ・バックマンと共演するTAKESHI
「おかしな話に聞こえるかもしれないけど……」


 そう照れくさそうに前置きをして、ランディは、カナダ大使館で7月1日にあったギターの返還セレモニー後の不思議な体験について話してくれた。


「セレモニーの翌日、朝4時に起きてこのギターと会話をしたんだ。『久しぶりだな、古い友達。ずいぶん時間がかかってしまったな。また一緒に音楽を奏でようぜ』。そうやって2時間ほどギターを弾いていたら、急に自分でも知らないメロディーを弾き始めていたんだよ」


 どんなメロディーかを尋ねると、出来立ての新曲を聞かせてくれた。


「Lost and Found(失って、見つけた)」というタイトルの軽快なテンポのロックンロール。弾き終えるとランディは笑みを浮かべて、こう言った。


「The magic is back(魔法が戻ったんだ)」


◇ ◇ ◇


 ランディがそのギターを最初に手にしたのは、今から60年前の18歳の時だ。音楽店のショーウィンドーに並べられた400ドルのグレッチギター(1957年製・6120チェット・アトキンス)に釘付けになった。ランディの育った町の平均時給がまだ1ドルほどという時代。貧しかったランディは新聞配達、草刈り、洗車、ベビーシッターなどのアルバイトでお金をため、ようやくそのギターを手に入れた。


 そのとき幼なじみのニール・ヤングは別のグレッチを購入し、2人で宝物のようにそれぞれのギターをめでたという。


 その後は、そのギターでいくつもの曲を書いた。ゲス・フーの代表曲『American Woman』や、ゲス・フー脱退後のバンド、「バックマン・ターナー・オーヴァードライヴ」の『Takin’ Care of Business』などのヒットソングもそのギターで書かれ、レコーディングされた。



 ランディは、ギターのおかげでヒット曲が生まれていると信じていた。だから、そのギターを極めて厳重に管理していた。ツアー先のホテルではチェーンでトイレに巻き付けていたほどだ。ところが1977年、トロントのホテルでマネジャーが管理を怠った一瞬の隙に、何者かに盗まれてしまった。


 絶望の後、すぐにランディはギターを取り戻すための努力を尽くした。図書館に行き、電話帳を見て全米の楽器店や質屋に片っ端から電話をかけた。出演するラジオやテレビでも話し続けた。それでも、そのギターは見つからなかった。


「どれだけ探しても見つからなかった。多くの楽器店では、別のグレッチギターならあると言われた。だから、心の隙間を埋めるために、380本以上もグレッチを買ってしまったよ。その中には、もちろん400ドルより高かったものもある。どれも美しいギターだったけど、それでも盗まれたギターのような魔法を感じられなかったんだ」


 そしてランディは、そのギターを失ってからヒット曲が書けなくなった。


◇ ◇ ◇


 TAKESHIは2014年に代官山のギターショップ「ギタートレーダーズ東京」で、そのオレンジ色のギターを見つけた。同じ年の夏、お店のオーナーがテキサス州で開かれたビンテージギターの展示会で買い付けてきた逸品だった。一目見て、すぐに気に入ったという。


「まず見た目がカッコよかった。それと持った瞬間、このギターは俺よりも経験値が高いなと思いました。ギターが今までどれだけの音楽を聴いて、どれだけの音楽を放出してきたか、抱えた時にわかったんです」


 その日はグレッチギターを買いに行ったわけではなかったが、TAKESHIは80万円台のそのギターを即決で買って帰った。以来8年間、特別な相棒として、本当に大切に扱ってきた。


「周りに、自分もグレッチが欲しいと言うやつがいたけど、『買うのはいいけど、この音は出ないよ』と伝えていました。こいつだけが特別なんだと。あまり信じてもらえなかったけど、本当にそうなんだけどなって」



 こうしてTAKESHIの愛器となったギターだが、20年に転機が訪れる。カナダ在中のランディのファンが、コロナ禍の自宅待機を利用し、インターネットでそのギターの捜索を始めたのだ。ネット上にあるグレッチギターの画像を見つけ出し、ランディが持っていたギターの画像と見比べる地道な作業だった。


 そして、TAKESHIが演奏するYouTubeの動画にたどり着いた。ランディのファンの間では、「Holy Grail(聖杯)」と言われている魔法のギター。木目にある特別な印は、間違いなくそのギターが「聖杯」であることを示していた。



 そのファンから連絡を受けたランディは、TAKESHIのYouTubeを見て涙が止まらなくなった。


「映し出された特別なマークを見て、すぐに俺のギターだとわかった。感情的になったよ。だって1977年からずっと見ていないんだ。本当に素晴らしい瞬間だった」


 そして、カナダ大使館を通じてTAKESHIに連絡を取り、返還セレモニーへの運びとなった。


 TAKESHIは7月1日の返還式まで、ひどく憂鬱(ゆううつ)な日々を過ごしたという。


 カナダ大使館から連絡を受けて、ランディとオンライン会議をしたとき、ランディのギターへの思いを聞いて、すぐに返すことを約束した。ランディが交換用に、同じ57年製のグレッチギターを探してくると言ってくれたのも後押しになった。そして、この世に30本しか作られていない57年製グレッチが、実際に見つかったことも奇跡だった。


 それでも、本当は交換したくなかった。TAKESHIもこの8年間、ずっとその特別なギターを大切にしてきたのだ。


「7月1日にいたるまでの1〜2カ月間は本当に嫌でした。Zoom(オンライン会議)なんてやらなきゃ良かったって思った(笑)。ランディさんには会いたいし、ギターの話をしてみたいと思っていたけど、その日が来たらギターがなくなってしまうんですから」




 TAKESHIが最後に踏ん切りをつけた理由は、レジェンドへの敬意だった。


「俺は8年間持っていたものを失うだけで、これだけ悲しい気持ちになっている。でも、ランディさんは45年間も悲しい思いで生きてきたのだと思うと、この悲しい役は誰かが代わってあげるしかないと思ったんです。それがロックを作ってきた人に対してのリスペクトだと思いました」


 自分にしか、あのランディ・バックマンの悲しみを代われる人間はいない。音楽の先人への尊敬の念が、TAKESHIの背中を押した。また、TAKESHIは返還セレモニーまでにもう一つ、そのギターとお別れする前向きな理由を見つけることができたという。


「最後の最後にね、あのギターには『環境』を与えてもらったんですよ。返還が決まってからいろんな人に会わせてくれて、いろんな場所に連れて行ってくれました。この先の人生で重要になるかもしれない出会いをたくさんくれた。そして、世界中で自分の名前を有名にもしてくれたんです。ランディさんはあのギターがないと曲が作れないというけど、俺はギタリストというよりも作曲家だから、どんなギターであろうと曲は作れます。そう考えると、あのギターは、『お前に必要なのは俺じゃなくて環境だろ』って、最後に本当に必要なものを残してくれたんじゃないかな」


 不意に訪れた、大切なギターとの別れ。でも別れ以上に、そのギターがもたらしてくれた出会いもあった。それは突然盗まれたランディの失い方とは、全く異なるお別れの仕方だったという。


 TAKESHIは9月18日に、ランディにもらった新しいグレッチギターをお披露目するワンマンライブを吉祥寺SHUFFLEで開催する。


「あのギターは、俺が育ててもらうギターでした。今回いただいたギターは同じ年代のものだけど、あまり弾き込まれていないから、俺が育てるギターになります。これから味が出てくると思いますよ。音も、今から俺仕様に調節していきますから」



 そう語るTAKESHIは、完全に気持ちを切り替えた表情に見えた。


 TAKESHIの決心で、45年ぶりにランディの元に戻った魔法のギター。ランディは約半世紀ぶりに手にした感想を涙ながらに教えてくれた。


「思い出は美化されるというけれど、まったくそんなことはなかった。最初にギターをケースから出した時、こう話しかけたんだ。『お前も傷やひびが増えたな……。俺もしわくちゃになっちまったよ。でもお互い良い年を重ねて来たんだよな』ってね。もちろん弾いてみたら、感触もすごく良かった。TAKESHIが本当に大切に扱ってくれたからだよ」


 そして、TAKESHIへの感謝をこう続けた。


「TAKESHIが購入していなかったら、このギターが俺のもとに戻ってくることはなかったんだ。彼とは、英語で話したり、日本語で話したりすることはできないけど、それでも俺のことを尊重してくれているのが伝わってくる。立派で誠実な男だ。TAKESHIと俺は、同じ57年製グレッチと結婚したギターブラザーだと思っているんだよ」


 返還セレモニーから3日後の7月4日。ランディとTAKESHIは、ロックバー・六本木バウハウスの同じステージの上に立っていた。出番前の楽屋では、TAKESHIにギターの手ほどきをするランディの姿が見られた。1本のギターを愛した2人のアーティストは、言葉は通じなくても、友人になっていた。



 そしてステージではランディが、TAKESHIとのセッション2曲を含む全10曲を力強く歌い上げた。伝説のギタリストの衰えぬ姿に、満員の客席も尋常ではない熱狂に包まれた。


 ただ、そのライブでランディの手に、魔法のギターはなかった。


 せっかく返還されたのに――?


 その理由を聞くとランディは笑いながら答えた。


「あのギターはもう絶対にステージに持ってくるつもりはないんだ。曲を書いたり、レコーディングをしたりはするけど、それ以外では外にも出さない。カナダの俺の家でずっと保管するよ」



 最後にTAKESHIに『環境』をもたらし、ランディのもとに帰った魔法のギター。今後はもう彼の元を離れることはないだろう。


 この奇跡の物語は来年、アメリカの制作会社がドキュメンタリー作品にするという。主題歌はもちろん、この魔法のギターから生まれたランディの新曲「Lost and Found」になる予定だ。



(前多勇太)


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