いよいよWEC富士に初登場。“対照的なキャラ”のトヨタGR010ハイブリッド&プジョー9X8の戦力を技術面から分析

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2022年08月17日 12:00  AUTOSPORT web

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2022年のWEC第4戦でデビューを飾った“リヤウイングレス”のプジョー9X8。いよいよ、富士スピードウェイにやってくる。
『FIA 世界耐久選手権 富士6時間耐久レース』が9月9日(金)〜11日(日)に富士スピードウェイで開催される。世界耐久選手権(WEC)が日本にやって来るのは2019年以来3年ぶり。2021年に従来の最上位カテゴリー、LMP1に替わって導入されたハイパーカー・カテゴリーの車両が日本に上陸するのは、今回が初めてだ。

■“ハイブリッド対決”が日本で実現
 エントリーリストの『ハイパーカー』カテゴリーの欄には、3チーム5台の車両が載っている。TOYOTA GAZOO RacingのGR010ハイブリッドが2台、アルピーヌ・エルフ・チームのA480が1台、それに、プジョー・トタルエナジーズのプジョー9X8(ナイン・エックス・エイト)が2台だ。

 このうち、純粋なル・マン・ハイパーカー(LMH)規定の車両はGR010ハイブリッドと、プジョーのモータースポーツ部門であるプジョー・スポールがフランスの石油大手トタルエナジーズと組んで開発する9X8となる。アルピーヌA480は旧LMP1規定の車両で、特例を受けての参戦だ。また、第3戦ル・マン24時間や前戦モンツァ6時間に出場したグリッケンハウス・レーシング(グリッケンハウス007LMH)はエントリーしていない。

 GR010ハイブリッドはハイパーカー規定が導入された2021年シーズンから走っており、今季で2シーズン目を迎えている。プジョー9X8は7月10日に決勝レースが行なわれた第4戦モンツァ6時間がデビュー戦だった。つまり、第5戦富士6時間はデビュー2戦目。ホッカホカの熱いハイパーカー対決が富士で見られることになる。

 新たに導入されたLMH規定は、ハイブリッドシステムの搭載が選択できる内容となっている。トヨタもプジョーも市販ハイブリッド車との技術の相互交流を行なう目的からハイブリッドシステムの搭載を選択した。最高出力が200kW(272ps)に規定されたモーターはフロントに搭載する決まり。エンジンは車両ミッド(コクピットの背後)に搭載して後輪を駆動する。エンジンの出力のみで走るときは後輪駆動。モーターがアシストを行なった際は4輪駆動になる。

 エンジンの最高出力は500kW(680ps)に規定されている。ハイパーカーの規定が特徴的なのは、モーターがアシストを行なった際の総合出力も500kWに設定していることだ。そのため、モーターが200kWの出力を発生した際は、エンジンの出力を300kW以下に抑えなければならない。モーターが150kWならエンジンは350kW以下、モーターが100kWならエンジンは400kW以下だ。制御はもちろん自動で行う。出力をオーバーさせないのはもちろんのこと、ドライバビリティに影響を与えずサーキットを速く走るための制御を成立させる必要があり、開発するメーカーの腕の見せどころとなる。

 エンジンは『ガソリン4ストローク』との規定があるのみで、排気量も気筒数も自由だ。トヨタは3.5リッターV6ツインターボを選択。一方、プジョーはバンク角90度の2.6リッターV6ツインターボを選択した。最高出力の上限は決まっているので、燃費やドライバビリティ、重量などの観点で排気量に選択の余地を生んでいる。

 9X8が燃料タンクの下に搭載する900Vの高電圧バッテリーは、プジョー・スポールと、トタルエナジーズ傘下でF1向けバッテリー開発も手がけるサフトとの共同開発だ。プジョーが属するステランティス(2021年1月にグループPSAとFCAが統合して誕生)は、DSブランドで2016年からフォーミュラEに参戦している。同シリーズへの参戦を通じて蓄積したエネルギーマネジメントの技術をハイパーカーの制御開発に活かす考えだ。

 旧LMP1規定の時代は効率を徹底的に追求する空力開発が行われたが、ハイパーカー規定はダウンフォースやドラッグ、空力効率の絶対値に規定が設けられている。過度な空力開発を抑制する狙いだ。開発する側としては開発のリソースを効率に振らなくていいぶん、スタイリングに振ることができる。その結果、自社ブランドのアイデンティティを反映させやすいカテゴリーとなっているのが特徴だ。

 トヨタのGR010ハイブリッドがLMP1規定の延長線上で正攻法にハイパーカー車両をデザインしてきたのとは対照的に、プジョーは自社ブランドのカラーを前面に押し出してきた。量産車のデザイン部門がスタイリングに関与した力作で、プジョーの量産車と共通する3本線のフロントライティングが目を引く。ライオンが鋭い爪を持つ前足で引っかいた痕をイメージしたグラフィックで、リヤランプにもその3本線を反復する凝りようだ。

 9X8の最大の特徴はなんといっても、“リヤウイングレス”なことだろう。

 前述したように、ハイパーカーは空力性能に厳しい制約が課されている。リヤウイングがなくても、フロア側で規定上限いっぱいのダウンフォースを発生させることは可能だとプジョーは判断した。「調整可能な空力デバイスは1つ」とする規定も、リヤウイングレスとする決断を後押ししたよう。フロントの空力デバイス(スプリッター)に調整機構を設けた場合、リヤウイングは固定で使わなければならない。リヤウイングレスとしたのは一見ハンディになりそうだが、調整機能が使えないのなら、なくても困ることはないと判断したわけだ。

■モンツァは『コーナーのプジョー、直線のトヨタ』。富士ではどうなる?
 ハイパーカー規定初年度の2021年は全6戦が行われ、トヨタGR010ハイブリッドが唯一の純粋なハイパーカー車両として孤軍奮闘。アルピーヌA480と、プライベーターでノンハイブリッド車両のグリッケンハウス007 LMH(3戦に出場)を相手にシーズンを戦い、全レースを制覇した。

 プジョー9X8が戦列に加わった2022年シーズンは、トヨタとアルピーヌが勝利を分け合い、マニュファクチャラーズ選手権ではトヨタがリード。一方、ドライバーズ選手権ではアルピーヌのドライバーが首位に立っている。

 9X8のデビュー戦となった第4戦モンツァ6時間はアルピーヌ36号車が優勝。トヨタ8号車が2位、7号車が3位だった。プジョー9X8の94号車は冷却系のトラブルなどに対応するためガレージで長時間過ごしたのが響き、トップから25周遅れの総合33位でレースを終えた。一方、93号車は駆動系のトラブルが致命傷となり、レースが折り返しを迎えた直後にリタイアを選択した。

 デビュー戦の洗礼を受けた格好だが、ポテンシャルは見せつけた。モンツァ戦に設定されたBoP(性能調整)では、GR010ハイブリッドに設定された最高出力が513kWだったのに対し、プジョー9X8は515kW。フロントモーターのアシスト可能な車速はGR010が190km/h以上とされたのに対し、9X8は150km/h以上に設定された。生まれたばかりの9X8を優遇する内容だが、それほど大きな下駄を履かせたわけではない。それだけ、高い実力を持っていると判断されているということだ。

 レース中のファステストラップはトヨタ8号車の1分36秒335に対して、プジョー93号車は1分37秒020で0秒685遅れだった。セクタータイムを見ると、相対的に旋回箇所の多いセクター2とセクター3で、プジョー93号車はトヨタ勢を上回る区間タイムを記録した。最高速はトヨタ8号車の316.7km/hに対し、プジョー94号車は311.2km/hだった。乱暴に分析すれば、モンツァではコーナーのプジョー、ストレートのトヨタだったことになる。

 セッティングによって特性は調整できるので、モンツァでのトヨタとプジョーの関係が富士にもそのまま持ち越されるとは限らない。それに、プジョーにとってみれば、トヨタは富士スピードウェイを知り尽くした相手だ。簡単に攻略できるとは考えていないだろう。ウイングレスのハイパーカーは約1.5kmのストレートと、低速コーナーが連続する最終セクターをどのようにバランスさせるつもりだろうか。デビュー戦で直面した課題の克服に取り組むと同時に、富士対策を入念に練っているに違いない。

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