七尾旅人、Hyd、Jockstrapら、今週のおすすめ楽曲をレビュー

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2022年09月16日 18:01  CINRA.NET

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Text by CINRA編集部

毎週更新のCINRAプレイリスト「Songs We Dance To」。ロック / ポップ、インディ、ヒップホップをはじめ、実験的なエレクトロニックミュージックからK-POPまで、ジャンルレスに選曲したプレイリスト(2022年9月12日週更新)から、編集部員が特におすすめしたい楽曲を紹介します。

A.G. CookとSOPHIEのプロジェクト「QT」の「顔」であったニューヨークのアーティスト、Hydことヘイデン・ダナムの新曲。

EASYFUNと昨年急逝したSOPHIEによってプロデュースされた“So Clear”は、「完全な喪失、完全な衝突、そして降伏のなかに生まれる自由」を起点に生まれたそう。拒絶された感覚や孤独、傷心の痛みを歌いながら、突き抜けた解放感のあるスケールの大きな楽曲だ。

SOPHIEの手がけた新しい音楽をまだ聴けるのだということも嬉しい。Hydは11月に「PC Music」から、A.G. Cookやキャロライン・ポラチェック、Jónsi、Öらが参加した1stアルバム『Clearing』をリリースする。(後藤美波)

ロンドンを拠点に活動する、ジョージア・エラリーとテイラー・スカイによるデュオ・Jockstrap。ジョージアは今年の『フジロック』で来日したBlack Country, New Roadの一員でもある。

ギルドホール音楽演劇学校(ダニエル・クレイグやユアン・マクレガーといった名だたる俳優や音楽家を輩出)で出会ったというJockstrapが奏でるのは、既存の音楽ジャンルやスタイルを融解させて未知のフォルムへと組み替えてしまったような、異形のポップソング。

9月9日にリリースされたデビューアルバム『I Love You Jennifer B』収録曲“Jennifer B”では、ファニーなシンセ音や歌声、コーラスなどのループを多層的に組み合わせて、ユーモラスでありながら奇妙に耽美的な世界を現出させている。(佐伯享介)

七尾旅人の新作『Long Voyage』より。アルバムは2枚組、全17曲。そこにはさまざまなメッセージが、現実が、感情が、そして音楽家としてのアイティチュードが、2022年という過酷な社会背景のもとで織り込まれている。

アルバムタイトルが示唆するように、本作では大航海時代および奴隷貿易に言及する。新大陸発見、男たちを駆り立てた大海原のロマンの裏には大量殺戮があった。グローバリゼーションの恩恵を受けて暮らすということは、その悲劇とは無縁でいられないということだ。植民地主義、帝国主義による蛮行はかたちを変え、人種差別とともに未だに現代に残っている。だけれど、ある航海が生み出した人生の美しい瞬間もある。

なんて世界。だがこの曲で繰り返し歌われる<Wonderful Life>の言葉は、決して皮肉ではない。だが手放しの人生讃歌でもない。音像の隙間から割って入るサンプリングされた叫び。巨大なものに搾取され、押しつぶされる人々。しわ寄せの向かう先は、いつの時代も弱者だ。どうして。大航海時代にまで視点を遡った理由はここにあったのではないか。巡り巡って手にした幸運、日常のほんのささやかな幸福、その裏では誰かの生が踏みにじられているかもしれない。だって、いまに至る人類の歴史からしてそうなのだから。自己責任の言葉はその想像力を都合よくかき消す。

七尾旅人は、ここで歌われる限界を生きる人たちの命を、こんな世界で小さな幸福を求めて生きていく選択をし続けることを、そこに横たわる否定しようのない矛盾もひっくるめて「素晴らしい人生」と祝福する。今後この歌に救われる人がどれだけいることだろうか。(山元翔一)

このほかにも、今週はリナ・サワヤマ、METAFIVE、ブライアン・イーノ、中村佳穂、Sudan Archives、ジョージ・ライリー、AAAMYYY、NoBuses feat. BIM、鈴木真海子、えんぷていなどの新曲30曲を追加。CINRA編集部がいま聴いている曲をセレクトするプレイリスト「Songs We Dance To」は、Apple Musicで毎週水曜に更新中。
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